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2023年11月22日(水)

世界を魅了!日本の魚 市場の急拡大と変わる食卓

世界を魅了!日本の魚 市場の急拡大と変わる食卓

世界の国々に日本の魚が盛んに輸出されています。注目は養殖のブリ。脂ののったブリはアメリカ人に人気。ロサンゼルスの日本料理店を訪ねるとブリのすしが大ファンだと語る家族づれが。日本の水産物の輸出額は10年で2倍と右肩上がりに増加。しかしライバルも出現!サーモンで有名な北欧のノルウェーが同じブリ類の養殖を手がけ始めました。世界各国で”魚の輸出合戦”が起きています。私たちの食卓はどう変わるのか?

出演者

  • 有路 昌彦さん (近畿大学 世界経済研究所教授・水産加工会社経営)
  • 星 麻琴 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

世界を魅了!日本の魚 急拡大する水産物市場

星 麻琴キャスター:
世界各国で食べられている日本の魚。アメリカでは脂ののったブリが好まれ、フィジーでシイラ、スリランカでサバ、コートジボワールでニシンが人気だといいます。

日本の水産物の輸出額は3,800億円。10年で2倍以上に伸びています。背景にあるのは世界の市場の拡大です。

水産物の生産量は世界的な人口増加を受け、30年で2倍。天然物は取れる量に限界があり、横ばいですが、養殖物は7倍に増加。今後、養殖物が世界の胃袋を満たすと期待を集めています。

世界市場へ乗り出す日本の魚。その大消費地の一つが実はアメリカなんです。

アメリカでブリ人気!

アメリカ・ロサンゼルス。今、ここで人気を集める魚があります。それは…


「ハマチ(ブリ)のすしを12貫、頼んだよ。ずっと大ファンなんだ。娘はサーモンだけどね」

日本で養殖されたブリです。輸出は、この10年で4倍に急拡大。

日本の養殖ブリ 輸出額(水産庁調べ)
2012年 77億円
2022年 327億円

現地の人が好む創作料理も次々と誕生しています。人気の秘密は、たっぷりの脂。なかでも、おなかの部分が特に好まれるといいます。


「バターのよう。味も食感も。かむと、とろけるような感じです」
オーナー シェフ 小崎太吾さん
「頼まれる方は『イエローテールベリー(ブリのおなか)』と言って、おなかのところを必ずリターン(繰り返し)でオーダーしてきますよ」

アメリカ人好みの脂ののったブリを、どうやって生産しているのか。

その一大養殖地となっているのが鹿児島湾です。冬場でも水温が高いことからブリがエサをよく食べ、身に脂をたくわえやすい環境だといいます。

日本でトップクラス、年間50万尾以上を輸出している水産会社。社長の増永勇治さんです。

水揚げしたブリは、すぐに近くの加工場に運び込み、鮮度を保って一気にさばいています。

水産会社 社長 増永勇治さん
「(鹿児島湾は)世界でも有数の養殖に適した場所なんじゃないか。この地でどんどんどんどん世界にうって出たい」

この会社を立ち上げたのは14年前。天然の魚のとれる量が年々減ってきた中で、活路を見いだしたのが養殖です。養殖で計画的に生産し、輸出を伸ばすことで地域の水産業を守ろうというのです。

思い切った投資もしました。全米各地にブリを届けるため、アメリカの食品卸会社を10数億円をかけて買収。物流ネットワークの構築を目指しています。

増永勇治さん
「日本の養殖魚を広めるために支店を増やして、成長産業ととらえて販売計画も右肩上がりで伸ばしていく」

身近な魚があの国へ?

世界に挑む日本の魚。その輸出先は世界中に広がっています。

貿易会社 社長 孫伝璽(そんでんぎょく)さん
「脂のっていますね。タイのスーパー向け(のサバ)ですね」

大阪から世界30か国に向け、天然の魚も含め輸出する孫伝璽さんです。日本各地からサンプルを取り寄せ、品質を入念にチェック。どの国に売るかを瞬時に判断します。

例えばニシンはコートジボワール、スケトウダラはナイジェリア、ボラはバングラデシュに。現在、年商は90億円に上ります。

今、気になるのは福島第一原発の処理水が放出されたあとの世界各国の動き。9月に入るとエジプトへの輸出が難しくなったといいます。急きょ、別の売り先を探します。

アフリカ担当 王秀芬さん
「いま西アフリカにいろいろ案内しています。ナイジェリア、ガーナ。この料理もおもしろい。ナイジェリアでは(調理用)バナナを焼いて、サバも漬けてから焼きます」

アフリカやアジアなどの新興国に次々と売れていきます。

アジア担当 フォン デューさん
「スリランカのお客様から問い合わせが来ました。初めて契約できました」
孫伝璽さん
「世界には約200の国がある。他の国でも我々からみると、いろんなチャンスがあります」

忍び寄るライバル

しかし今、世界では日本のブリに対抗するライバルが登場。

ブリの仲間、ヒラマサです。しっかりとした歯ごたえと上品なうまみが特徴です。

その生産に乗り出しているのがノルウェー。サーモンを官民一体となって世界で売り込み、その輸出額は1兆円(年間)を突破しました。

その成功を踏まえ、2023年の秋に誕生したのがヒラマサを陸上で養殖する施設です。

LED照明が照らす最新の巨大水槽で、水温やエサやりを管理する自動システムで生産しています。サーモンより育てやすく生産コストの低いヒラマサ(陸上養殖の場合)で世界市場を狙います。

陸上養殖会社 最高経営責任者 バント オラブ ロッティングスネスさん
「ヨーロッパでヒラマサはすごくニーズが強く、高く売れ、サーモンより利益が出ます」

この会社では、4年後に大消費地のカリフォルニアでも養殖施設を稼働させる計画です。

バント オラブ ロッティングスネスさん
「アメリカでつくれば新鮮だし、輸送面でも環境にいい。私たちが必ず一番になります」

しのびよるライバルの足音に日本の生産者はどう立ち向かうのか。

水産会社 社長 増永勇治さん
「新規参入は大歓迎で、それがマーケットというか、私たちの産業を活性化するのであれば、それでいいんじゃないかなと。ノルウェーはひとつの目指すべき(存在)。姿が見えなくならないように頑張っていきたいなと。(日本の)ブリのほうがおいしいんと思うんですけどね」

市場拡大の可能性は?

<スタジオトーク>

星 麻琴キャスター:
VTRでご覧いただいたノルウェー以外にも、メキシコやハワイではカンパチ、オーストラリアやオランダではヒラマサなど、世界が養殖に力を入れ、輸出をしています。

きょうのゲストは、世界の魚事情に詳しい有路(ありじ)昌彦さんです。有路さんは大学教授でありながら養殖魚の加工業を営んでいますが、世界でしれつな輸出競争が起きている状況、どうご覧になっていますか。

スタジオゲスト
有路 昌彦さん (近畿大学 世界経済研究所教授・水産加工会社経営)
魚事情に詳しい 養殖魚の加工業も営む

有路さん:
今、世界的にはマーケットはどんどん拡大していっている状況でして、まさに魚の国とり合戦のようなものが繰り広げられるような、そんな状況になっています。

星:
魚の国とり合戦。

有路さん:
例えば品質であるとか、あるいは価格であるとか、そういうところを競い合っている状況ですね。

星:
その中でも「日本のよさ」はどういうところにあるのでしょうか。

有路さん:
やはり日本のマーケットというのは古来より生で食べるといいますか、すしや刺身ですね。おいしい魚を追求していくところがございましたので、そういうところで言いますと、おいしい魚を作って、それを提供するということに関しては非常に優位性があると考えております。

星:
では実際、日本はどんな戦いを繰り広げているのか。こちらにまとめました。

3,800億円にのぼる日本の水産物の輸出額は、品目別で見ますと1位がホタテ貝、2位がブリとなっています。そして、輸出先の内訳を見ますと中国、香港、アメリカと続いているわけなんです。

中国と香港が原発の処理水の放出を受け、日本産水産物の輸入停止などの措置を行っていますが、日本は世界市場にどう向き合っていけばいいと有路さんは考えますか。

有路さん:
まず、中国の輸入停止の影響というものはやはり小さくないので、例えば加工拠点といいますか、ホタテの加工拠点を他に移すとか、いろいろやっていかないといけないことがあるのですが、ただ一方で、将来に向けた水産物の世界的なマーケットはどんどん拡大していっているというのは紛れもない事実として存在するわけですから、やはりそこは十分まだ可能性はあるところなんですよね。

そういうふうに考えていく中では、やはり拡大戦略を取っていくべきではあろうかと思いますし、その中でもちょっと私のほうで注目しているのは、2番手に来ているブリですね。こちら、非常に可能性があるのではないかなと考えています。

星:
まだまだ伸びしろはあるわけなんですね。

有路さん:
そうですね。

星:
魚の輸出に日本が力を入れていきたい理由、もう一つあります。それがこちら。

私たちの食生活も関係しています。こちらは日本の生鮮魚介類の消費者物価指数の推移です。年々上がっています。
購入量を見ますと減少傾向にあり、水産物の国内市場は縮小しています。こちらはどうご覧になりますか。

有路さん:
消費者物価指数というのは、簡単に価格が上がっているということではなくて、やはり日本人の魚の消費形態が以前みたいな丸の魚を買う時から段々変わってきて、今はすしとか刺身というふうに加工度が高いんです。そういうところも反映していますので一概には言えないのですが、直近のところで言いますと、やはり製造原価が上がっているというところの影響はあります。あともう一つ大きいところとしましては、やはり日本人の購買力がどんどん落ちていってるというのが現状ですね。

星:
そうしますと日本はどうしていけばいいでしょうか。

有路さん:
やはり、人口が拡大していって所得が非常に大きくなっていっている海外に向けてどんどん輸出していくということが根本的な部分としては極めて重要になってくるかなと考えています。

星:
では、輸出をさらに拡大させるために期待されているのが経済成長の著しいアジアの国々です。その鍵となるのが、魚をどう鮮度を保って運ぶかです。

“鮮度が命”カギは輸送

インドネシアの首都・ジャカルタの中心部にある和食レストランです。

日本から届いたばかりの高級魚キンメダイ。試食してみると…

和食レストラン 料理長 島田尚幸さん
「身は締まっているけど、食べると身がくさい」

この店では日本の魚介類を生で仕入れていますが、鮮度にばらつきがあり、中には客に提供できないものもあるといいます。

島田尚幸さん
「返品は10月だけで2回ある。鮮度がよくて質がいいものを本当にほしい」

経済成長を続けるインドネシアでは、近年、日本食レストランが人気に。その数は4,000店に達し、すしや刺身の注文が相次いでいます。


「最高!好きなものを食べられるなら値段は関係ない」

「築地で初めて“本物”を味わって以来、ここでも新鮮でおいしいものにこだわるようになりました」

しかし、インドネシアでは日本のように低い温度を維持した輸送網「コールドチェーン」の整備が整っていません。こうした中、日本の鮮魚をいかにして届けるのか。今、商機を逃すまいと日系企業が巨大な冷蔵・冷凍倉庫を建設。日本の官民ファンドも出資して輸送網の改善に取り組んでいます。

倉庫会社現地法人 社長 杉山健一郎さん
「インドネシアの物流に貢献していきたい」

日本の魚をインドネシアへ。沖縄を拠点に鮮魚の輸出を始めた人がいます。

輸出会社で営業を担当する末吉弘晃さんは、日本各地の鮮魚を独自にルートを開拓して売り込もうとしています。

輸出業 末吉弘晃さん
「一番大きな課題は、鮮度を保つためのリードタイム。水揚げから店舗に着くまでの時間がかかる。この時間をできるだけ短くするために挑戦ですね」

この日、富山からブリが沖縄に到着。漁業関係者からじかに買い付けたことで水揚げから14時間で届きました。

末吉弘晃さん
「ここでちゃんと血を抜くことで、よりモチもよくなるので」

末吉さんは鮮度を保つために、すぐに血抜きと洗浄を施します。

輸送中に常温で留め置かれることもあるため、保冷剤を入れ替えて飛行機にのせます。

輸送会社 役員
「魚の状態を必ずチェックしてください」

インドネシアでは、末吉さんの魚を輸送する専用の会社が待ち受けます。冷蔵車の温度管理を徹底するなど、鮮魚の輸送のしかたを一から確認します。

2日と18時間が経過。空港に到着しているはずの魚を受け取りに行く時間ですが…

取材班
「空港からの連絡はありましたか?」
輸送会社 社員
「まだないです」

到着の知らせを待たず、トラックを空港に向かわせます。

輸送会社 役員
「ここで待っているよりは、もう空港へ向かったほうがいい。空港までは40分もかかりますから向こうで待ったほうがいいでしょう」

結局、ブリを受け取ることができたのは水揚げから3日後のことでした。

輸送会社 社員
「遅れたのは税関の問題でした。こういったことはよくあります」

和食レストランに届けられた末吉さんのブリ。果たして鮮度は。

島田尚幸さん
「いいんじゃないですか。(エラは)まだピンク色」

末吉さんも品質を確かめるために沖縄から駆けつけました。

末吉弘晃さん
「もうちょっと鮮度よく送れると思う。もっとよくできるはず、絶対。納得はしていない」

その夜、日本のブリで解体ショーが行われました。

「海がとてもきれいな富山から届いたばかりのブリです」

「いつもはこれほど新鮮じゃない。これは新鮮だ」

「おいしい!」

刺身の値段は6切れで1,800円。世界の人たちに日本の魚を味わってもらうには、輸送などのコストを下げて魚の価格を抑えることが欠かせないと考えています。

末吉弘晃さん
「いま(インドネシアで)流通している日本の魚はめちゃくちゃ高い。日本のレストランの人がびっくりするくらい高くなっていて、ちゃんとした価格で食べてもらえないと継続性がまったくないし、いずれ淘汰(とうた)されるだろうとすごく感じている」

食卓への意外な恩恵

<スタジオトーク>

星 麻琴キャスター:
インドネシアで売られている魚、いいお値段がしました。そして、淘汰(とうた)される懸念もあるということでしたが、どう見られましたか。

有路さん:
当然、国際競争ですから、よりよくて、より安いものが売られていくと。要は、インドネシアのマーケットであっても舌が肥えてきた人たちが国際競争の中でよりよいものを選ぶということは、やはりうかうかしていると、淘汰(とうた)される可能性は十分あると。

星:
日本の課題は何でしょうか。

有路さん:
やはりコスト競争力のところになりますので、そうなってくるといちばん大きいところは「エサ代」になってくるんですよね。特に養殖業の場合、エサ代が全体の製造原価のうちの7割くらいを占めていますので、しかも今すごい上がっていっていますから、ここがいちばん課題かなと思います。

星:
有路さんから説明があった日本の魚の輸出成功のカギ。

日本の魚輸出 成功のカギは…
・輸送
・エサ代

今お話があった「エサ代」、そしてVTRでご紹介した「輸送」という2点があります。

エサ代抑える方法は、ということで有路さんに挙げていただきました。「育種」という方法があるということですね。

有路さん:
「育種」というのは、いわゆる農作物であるとか畜産物であるように、より人が育てやすい種に育てていくことなんですが、例えば世界(の市場)をとっているサーモンであれば1キロのエサで1キログラムの肉を作ることができると。それにに対して、まだブリは育種が進んでいませんので、エサ1キログラムに対して0.3から0.4キログラムぐらいしか育たないと。こういうところは逆に言うと十分まだまだ伸びしろがある部分かなと思います。

星:
ある意味で掛け合わせたりしていって、コスパのいい種類を作っていくということでしょうか。

有路さん:
そうですね。より成長の早いグループというもの、あるいはより病気に対して強いグループというものをどんどん掛け合わせるというか集めていって、それだけ選ぶという話なんですが、1つの例としてはマダイとかがありまして、昔、マダイってキロ何千円もするすごい高かったものですが、今では回転ずしで当たり前に並ぶ。

星:
スーパーでも見られますね。

有路さん:
以前よりもおいしくなったと考えると、それは育種の成果なんですよね。

星:
なるほど。そうすると私たちの生活にもいい影響がありそうですが、こうやって日本の魚が世界的に競争力を高めていくというのは私たちの食卓にもいい循環になっているということでしょうか。

有路さん:
そうですね。やはり消費者にとっては、よりお買い求め安い魚が増えていくということになりますから、直接的な利得もありますし、もう一つはやはり水産業・養殖業が豊かになっていくということは他に産業があまりない日本の沿岸地域の地域経済を発展させていくというところではものすごくポジティブなことかなと思います。

星:
それこそ漁業は私たち日本人はずっと身近で、ずっとあることですから、そこが活性化していくというのは産業全体としてうれしいことですよね。

有路さん:
そうですね。長期的な面で見てみると、例えば子どもが増えるとか、あるいは職業があって何ぼというところですから、そこはつながっていると思います。

星:
そういった中で盛り上げていくためにどうやったら現実的になっていくのか、実現可能なのか、有路さんはどう考えていますか。

有路さん:
今のホタテであるとか、あるいはブリというのは抱えている現状で言うと直近では国内消費を刺激する「お魚券」みたいなものをやらないといけないかなと私は思っているんですけれども。
いわゆる根本的なところで言うと海外のマーケットを作っていかないといけませんので、そうなっていくのであれば業界も国も、やはり同じ目的を果たすために一体になっていくことがとても大事なのではないかなと私は思いますね。

星:
今回私たちが取材させていただいた皆さん、1社1社、それぞれ頑張っていらっしゃいますけれども、オール・ジャパンでやっていくみたいな考え方にもなるのでしょうか。

有路さん:
そうやって一緒になって基盤を作るということですよね。いろんなものがあると思いますが、その中でもやはり輸出に必要なことというのはみんなでやっていくことが、意味があるかなと思います。

星:
きょうは有路昌彦さんに来ていただきました。どうもありがとうございました。

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