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2023年9月12日(火)

疑惑の国会質問 洋上風力発電“汚職”の裏で何が

疑惑の国会質問 洋上風力発電“汚職”の裏で何が

政府が導入拡大を目指す洋上風力発電をめぐって起きた汚職事件。秋本真利衆議院議員が、風力発電会社の元社長から会社が有利になるような国会質問をするよう依頼を受け、その見返りに6,000万円余りにのぼる借り入れや資金提供を受けた疑いで逮捕されました。多額の資金を投じ地元対策を進めてきた「業界の先駆者」と現職国会議員の癒着。事件の背景に独自取材で迫るとともに、今後、洋上風力発電を進める上での課題を検証しました。

出演者

  • 橘川 武郎さん (国際大学 学長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

“疑惑の国会質問”洋上風力発電汚職

桑子 真帆キャスター:
事件の舞台となった洋上風力発電は、脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギーの普及を目指す中で政府が切り札と位置づけています。

現在、すべての発電量に占める風力発電の割合は僅か0.9%。海に囲まれた日本では開発の余地が大きいと力を入れています。
こうした中で汚職事件は起きました。先週、東京地検特捜部に逮捕された秋本真利衆議院議員。

政府の洋上風力発電事業への参入を目指していた日本風力開発の元社長から会社が有利になるような国会質問をするよう依頼を受け、その見返りに合わせて6,000万円余りに上る借り入れや、資金提供を受けた受託収賄の疑いが持たれています。

国会議員の職務の根幹とも言える国会質問がゆがめられていた疑惑が浮上しています。なぜ、汚職事件は起きたのでしょうか。

汚職事件の背景

先週、受託収賄の疑いで逮捕された秋本真利衆議院議員。

菅前総理大臣や河野デジタル大臣と近いことをアピールし、再生可能エネルギーの推進を強く訴えていました。2017年には自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の事務局長に就任。政府が脱炭素にかじを切る中、存在感を増していったといいます。

秋本議員の地元関係者
「(企業が)取りまとめして頼るようになった。お互い依存関係になっていこうとした」

なぜ、秋本議員に多額の資金が提供されたのか。

贈賄側の塚脇正幸元社長は、業界の“先駆者”とされる人物でした。1999年に大手商社から独立。風力発電のベンチャー企業、日本風力開発を立ち上げました。当時から親交がある同業者は、日本の風力発電をリードする存在だったと証言します。

塚脇元社長と親交のある同業者
「非常にアグレッシブ。この業界を成長させるためにはどうしたらいいか、当時から考えていた。日本の風力発電の功労者を1人あげろと言ったら、塚脇さん」

塚脇元社長が将来の事業の柱として参入を目指していたのが「洋上風力発電」でした。2030年度の市場規模は1兆円近くに上ると見込まれています(2020年矢野経済研究所調べ)。

会社が早くから目をつけていたのが青森県の陸奥湾。浅瀬で安定した風が吹くため、洋上風力発電に適しているとされています。日本風力開発は、ここでどんな活動をしていたのか。

設置されていたのは風を観測する施設です。他社に先駆ける形で大規模な発電事業を計画。6年前から多額の資金を投じて環境アセスメントなどを進めていました。

調査の拠点には廃校となった地元の小学校を活用。改修費用を会社が負担し、住民にも開放しています。地元企業の関係者は、陸奥湾の事業実現への強いこだわりを感じたといいます。

地元企業の関係者
「いち早く来て根づこうとした努力をしている企業。行動力もあるなと感じていた。(地元に)浸透していたのではないか」

2年前からは青森ねぶた祭の参加団体のスポンサーにも名を連ねるようになりました。しかし、塚脇元社長は思わぬ壁に直面していたのです。

2019年2月、会社に示された青森県の資料です。陸奥湾の計画区域は防衛関連施設に影響を及ぼすなどとして立地や調整が困難なエリアとされていました。塚脇元社長は、この資料について国会で質問するよう秋本議員側に依頼した疑いがもたれています。

そして。

衆院予算委分科会 2019年2月27日

秋本真利衆議院議員
「青森県について心配な事象を私自身が把握したので確認したいと思います。地域に色をつけてある資料が私の手元にあります」

秋本議員が手にしていたのは青森県の資料。会社側の希望に沿う形の国会質問でした。

秋本真利衆議院議員
「過度な必要でもない規制をかけて、そこには一律建てさせませんというのでは違った意味での国益を損ねますから。地元がそういうことで縮こまることがないようにしていただきたい」

競馬が共通の趣味だった2人。この翌月、秋本議員は塚脇元社長から3,000万円を借り入れました。中央競馬の馬主登録のために必要としていた資金でした。

疑惑の国会質問は、洋上風力発電の事業者を決める国のルールそのものにも及んでいました。

衆院予算委分科会 2022年2月17日

秋本真利衆議院議員
「制度の見直しをしていただきたい。私は政治判断だと思う」

なぜこの質問が行なわれたのか。

きっかけになったのは、業界で“三菱ショック”と呼ばれた出来事でした。

2019年に新たな法律が施行され、洋上風力発電の事業者は公募型の入札で選ばれることになりました。

その最初の大規模な入札、第1ラウンド。3つのプロジェクトが対象になりました。日本風力開発など多くの企業が参入を目指す中、3つ全てを三菱商事を中心とするグループが落札したのです。

塚脇元社長を知る業界関係者
「それは癪(しゃく)に障る。全部取られたことについてはショックは大きかったのではないか」

衝撃の背景に何があったのか。取材を進めると、現地で繰り広げられていたしれつな競争の実態が見えてきました。

「風車はここより大体500メートル先の、能代寄りのほうから10本」

日本風力開発が参入を目指していた秋田県沖です。風車が建設される海域では長年、定置網漁が行われています。建設には地元の漁業者の理解が欠かせません。

「結構、魚が入る場所。あまり(網を)移動したくなかった」

漁業組合には、入札で優位に立とうとする事業者が競い合うように訪れていたといいます。

秋田県漁業協同組合 組合長 加賀谷弘さん
「有望区域ということで事業者がかなりの回数で地元の漁業者から地域の住民まで説明会を開いて。県内のホテルが予約できないような状況になったこともある」

当時の入札の評価基準です。

「売電価格」と「事業実現性」をそれぞれ120点満点で評価し、その合計点で決める仕組みです。

多くの事業者が注目していたのが、「事業実現性」の40点を占める地域との調整能力や経済波及効果。「売電価格」では大きな差がつかず、地域調整が勝敗の鍵を握ると考えていたといいます。

第1ラウンドに参加した事業者
「各社同じような事業を行うわけだから、発電コストもだいたい同じくらいだろう。価格ではなく地元との調整などが肝になるという見立てだった」

現地で取材すると、日本風力開発が地元対策として独自の活動を展開していたことが分かってきました。

今回、NHKが入手した資料です。地元の漁業者を対象にした視察旅行の行程表。行き先は長崎県五島列島。日本の洋上風力発電の先進地です。2泊3日の行程のうち、視察は初日だけ。2日目は福岡で観光し、九州の名物料理を味わう予定が組まれていました。旅費や食費は、日本風力開発が負担していたといいます。

視察旅行に参加した漁業者
「老舗料理店で呼子のイカを食べた。ここまでコツコツと地域貢献に力を入れるのも入札のコンペを有利に進めたかったからだと思う」

漁業者への接待は地元の秋田でも繰り返されていたといいます。

地元の漁業者
「『誰それさんは世話になっているみたいだよ』『なんか秋田(市内の繁華街)に連れていってもらってるみたいだよ』。囲い込みに走りたかったのでしょうけれど」

さらに港では、総額1,000万円をかけてサプライズの花火大会を開催していました。ここまでしながらなぜ、日本風力開発は第1ラウンドで敗れたのか。

決め手となったのは地域調整ではなく「売電価格」でした。

秋田県沖のプロジェクトで、三菱商事のグループが示したのは1キロワットアワーあたり13.26円と11.99円。一方、日本風力開発はいずれも20円を超え「売電価格」で圧倒的な差をつけられていたのです。

洋上風力発電の先進地、ヨーロッパで事業を手がけてきた三菱商事。日本風力開発は、ノウハウが豊富な大企業に太刀打ちできない現実を突きつけられました。

このままのルールでは今後も受注できないのではないか。塚脇元社長は秋本議員を頼ったと見られています。

三菱ショックの2か月後。秋本議員が国会質問に立ちました。

衆院予算委分科会 2022年2月17日

秋本真利衆議院議員
「いま公示している2回目の公募から評価のしかたというのを見直していただきたい」

すでに始まっていた次の入札の公募をいったん停止し、評価基準を見直すよう求めたのです。

繰り返し訴えたのは、運転開始時期の早さに重点を置くことでした。

秋本真利衆議院議員
「運転開始時期というのは非常に大事なファクターなので、運転開始時期に対するウェートづけを私はもうちょっと見直すべきだろうと思っております」

運転開始時期の早さが重視されれば、日本風力開発のようにいち早く地元に入り、地域との調整や環境アセスメントなどを進めている事業者が有利になると見られています。

秋本真利衆議院議員
「運転開始が早まれば、それに伴う経済波及効果もより早くこの国の中に還元するわけですから。ぜひ、荻生田大臣の英断で第2ラウンドから制度の見直しをしていただきたい」
荻生田経済産業相(当時)
「試合のルールを決めて公示をして、そこに参加している人たちがいる以上は、やはり途中でルールを変えるというのはどうか」
秋本真利衆議院議員
「私は政治判断だと思う」

この1か月後、政府は入札の評価基準を見直すことを発表。具体的な内容を有識者会議に諮りました。

その議論を取りまとめた來生新さんは、公募をいったん止めてまで基準を見直すことには異論もあったといいます。

神奈川県大学 海とみなと研究所 上席研究員 來生新さん
「朝令暮改になるのではないかという感覚は比較的皆さんお持ちだ。違和感がないとは言えないと思う」

公表された新たな評価基準。運転開始時期の早さを示す「迅速性」の項目20点分が新たに設けられました。

特定の事業者が有利になるルール変更だったのではないか。業界からは懸念の声もあがっています。

業界関係者
「先行して(地域に)働きかけたほうに配点を重視するような制度設計になった。恣意(しい)的に感じざるを得ないし、異様だったと思う」

新基準公表の翌日。議員会館の秋本議員の事務所で現金1,000万円が受け渡されていました。

秋本議員の支援者
「裏切られた。そんなことをやっていたのか。クリーンエネルギーがクリーンではなくなっちゃった」

洋上風力発電汚職事件 影響は?どう防ぐ?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、エネルギー政策に詳しく国の審議会の委員も務められた橘川武郎さん。そして、社会部・田畑 佑典記者です。

まず田畑さんに事件について聞いていきます。ポイントが大きく2つありました。

◆秋本議員が依頼どおりに国会質問をしたのか
◆国会質問によって国のルールがゆがめられたのか

まず1つ目ですが、最新の捜査状況はどうなっているでしょうか。

田畑 佑典記者(社会部)
塚脇元社長が、青森県の陸奥湾に関する国会質問の前に「秋本議員に質問を依頼した」と会社の複数の幹部にメールで伝えていたことが分かっています。そして、質問のあとには「お願いどおりに国会質問をしてもらった」というメールも送っていて、特捜部は受託収賄罪の成立に必要な依頼があったことを示す証拠の1つと見ています。塚脇元社長は、多額の資金提供について「国会質問の謝礼だった」という趣旨の供述もしているということです。
一方、秋本議員は「塚脇元社長から依頼されて日本風力開発の利益を図るために国会質問をしたということは断じてありません」などと容疑を否認するコメントを出しています。

両者の主張が対立する中、依頼どおりに質問が行われたことを特捜部がどう立証していくのかが焦点になります。

桑子:
そして2つ目。国会質問によって国のルールがゆがめられたのかどうかです。NHKの取材に対し、資源エネルギー庁が回答しています。


秋本議員の国会質問などの動きは評価基準の見直しに全く影響していない。運転開始時期の早さなどを重視する基準にしたのは、ウクライナ侵攻の影響で洋上風力発電など国産エネルギーの導入拡大を早期に進める必要が高まったから。

資源エネルギー庁

ただ、公募を止めてまでルールを見直すというのがどうなのかなと。

田畑:
取材をしていて、それを疑問視する声は非常に多く聞かれました。さらに、この唐突なルールの見直しを敬遠して海外の企業が参入を見送る動きというのも出ています。
特捜部は、関係する省庁などからも資料の提出を受けていて、入札評価基準が見直された詳しい経緯についても調べているものと見られます。

桑子:
橘川さん、今回公募を止めてルールを見直したことについてどう見ていますか。

スタジオゲスト
橘川 武郎さん (国際大学 学長)
エネルギー政策に詳しい

橘川さん:
やはり強い違和感を感じますね。いずれにしても洋上風力をこれからやっていくうえで公募入札は重要なのですが、後出しじゃんけんのようにルールを変えていったん止めてしまうのは公募入札制度自体の信用性に関わると思いますので、非常に違和感を感じました。

桑子:

ルールが見直される前のルールでは価格が重視され、圧倒的に安い価格を示した三菱商事などのグループが総取りする結果になったわけです。けれども、そのあとにルールが見直されることになります。このことによって私たちが支払う電気料金に影響はあると見ていますか。

橘川さん:
影響は大きくあるのではないかと思います。洋上風力のいちばんの問題点は「価格」だったわけです。再生可能エネルギーの中で太陽光とか陸上風力はいちばん安い値段だと目標値にだいぶ近づいていたのですが、洋上風力は目標値が30年から35年、キロワットアワー当たり8円から9円だったのですが、三菱の札が入る前まではいちばん安くても26円台で3倍ぐらい高かった。それがここで13円という札が入ったということは、その目標が達成できるかなということになったので、まさにゲームチェンジャーだったわけです。それにみそがついたということは、せっかく一種のクリスマスプレゼントだったわけですが、ちょっと懸念が生じたということだと思います。

桑子:
そして、今回評価基準が新しくなったことによって「迅速性」というポイントが新たに設けられました。つまり、いち早く地元に入った事業者が有利になるようなルールの見直しになったわけです。
自分たちも早く地元に入ろうという企業の間の過熱な競争につながることにならないでしょうか。

橘川さん:
入札前に先行投資を早くやったところのほうが有利になるというのは、やっぱりちょっとフェアじゃないと思います。よく原子力発電の開発などで電気事業者が地元にお金を配って公平公正な判断をゆがめるということが問題になりましたが、それにつながりかねない動きかなと思います。

桑子:
この汚職につながるような過熱競争をどうすればいいのか。

現状、入札までの流れは現地調査・地元対策などそれぞれの事業者が行って入札を有利に進めようとしているのですが、そもそもの無駄を省いて地元での過熱な競争にならないようにするため、2023年から国が一括して現地調査を行い、事業者に結果を共有する、そしてそのあとで入札が行われるという試みを始めています。これはセントラル方式と呼ばれています。

洋上風力発電 公正な競争の模索

こちらは海底面の細かい振動を記録して地盤の構造を調べる調査です。

国が主導するセントラル方式を実施している独立行政法人が行いました。今は北海道の3つの海域で調査が進んでいます。

音波探査やボーリング調査などで海底の地盤を調べ、結果は各事業者に提供。入札のための基礎情報として利用してもらう方針です。

担当者
「同一のデータを使って、より公正な競争が確保される」

再生可能エネルギー どう進めていくか

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
橘川さん、このセントラル方式をどう評価していますか。

橘川さん:
方向性は正しいと思います。問題は、始めたばかりなのでうまくいくかどうか。特に、洋上風力は着手してから動きだすまで準備期間が8年かかると言われてます。なので今の2023年からやっても2030年、このままじゃ間に合わないので、セントラル方式でどれぐらいその期間を短くできるかというのがこれからわれわれがチェックしないといけないポイントだと思います。

桑子:
洋上風力発電というのは再生可能エネルギーの切り札とされており、将来私たちが使う電力の主力になると期待もされています。そうした中で今回事件が起きてしまった。今後求められることはどういうことでしょうか。

橘川さん:
とても残念な事件です。ただし、洋上風力が日本にとって非常に重要なものであることは間違いないので、それを特定の議員や特定の会社が動かすというような状況を変えて、もっとオープンに情報も公開して、みんなで進めていくという、進め方を変えていく一つの反面教師としてやり方を変え、より進めていく機会にしていきたいなと思います。

桑子:
そして今回、「売電価格」のポイントは変わらなかったわけですか。

橘川さん:
そうですね。そのセントラル方式がうまくいくと「売電価格」が意味を持ってくる、度合いが強まると思いますので、やはりこれからもどれぐらい洋上風力を安くできるかというところがいちばんのポイントだと思っております。

桑子:
広めていくうえでも必要なことですよね。ありがとうございます。
もはや待ったなしの状況ですが、その中で利権が生まれて不正によってつまずくようなことは許されません。透明性、納得感のあるルールの確立が求められています。

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