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2023年8月1日(火)

その美容医療 大丈夫? 最新施術トラブルから身を守るには

その美容医療 大丈夫? 最新施術トラブルから身を守るには

今、メスなどの外科手術を伴わない“プチ整形”ブームが拡大。誰もが気軽に医療機関やエステ店で施術を受けることができ、市場規模は7千億円とも言われています。がん治療や軍事用技術が転用されるなど、美容医療は高度化し、次々と新たな施術法が生まれています。しかしその一方で、やけどやしこりなど深刻な後遺症や合併症が起きるトラブルが多発。国も対策に乗り出しました。利用者が安全に施術を受けるためには?その方策も考えました。

出演者

  • 大慈弥 裕之さん (日本美容外科学会 元理事長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

最新の美容医療 その陰でトラブルが…

桑子 真帆キャスター:
今、高い関心を集めている美容医療は、大きく2つあります。

1つは「注入系」。ヒアルロン酸やコラーゲン、ボトックス注射などがあり、多くは顔のシワを改善する目的のものです。
このうちボトックス注射は、ボツリヌス菌から生まれる毒素の作用を利用したもので、もともとは脳神経内科などでまぶたのけいれんを抑えるための治療薬を転用したものです。

そして、もう一つが「照射系」。IPLやハイフなどがあり、光や超音波を照射してシミを減らしたり、顔のたるみを改善したりするとされています。
中でもIPLは、もともとはなんと海外の軍事技術。戦闘機の塗装を光の照射によって落とす技術を転用しているというのです。

適切に施術が行われれば効果は高いとされる一方で、深刻なトラブルも明らかになっています。

高度化する施術

年間6万件の美容医療を行う、大手医療機関。治療や施術は226種類を超えます。

美容外科 高須幹弥 医師
「ダーマペンという機械なんですが」

無数の針を1秒間に120回振動させ、皮膚に刺激を与える、この機械。20分ほどで肌にハリを取り戻すといいます。

高須幹弥 医師
「これはサーマクールという治療の機械で、高周波をあてて肌を引き締める」

肌のたるみが解消できるとして、最近は男性が受けるケースも多いとか。今、こうしたメスを使わずに顔の印象を変えられるというメニューが人気だといいます。

高須幹弥 医師
「ヒアルロン酸注射で涙袋をつくったり、えらにボトックス注射をして小顔にしたり、プチ整形、気軽にできる整形が増えてきた」

そのすべては「自由診療」で、中には高度な医療技術を用いるものもあります。

再生医療の技術を転用し、肌のハリが取り戻せるというこの注射。PRP注射と呼ばれ、使うのは患者みずからの血液です。それを遠心分離器にかけて血小板を濃縮させ、その成分で肌を再生させるといいます。

高須幹弥 医師
「血小板の中に様々な成長因子が含まれておりまして」

この医療機関では安全性を担保するため、形成外科のキャリアが6年以上の医師だけで施術を行っています。

最新施術でトラブルも 合併症でしこりが…

技術がより高度になる美容医療。一方で、トラブルも明らかになっています。

3年前、学会などが行った調査では合併症などを訴えるケースが1年間で1,500件以上報告されました。(美容医療における有害事象の実態に関する全国調査)
先ほど紹介したPRP注射でも、施術のしかたによってはしこりなどの合併症が出ることが明らかになっています。

3年前に施術を受けた30代のAさんです。

Aさん
「固いしこり、左右に。特に左に固いしこりができました。自分のしこり側のほうに横並びで人と座りたくないとか、すごく後悔しています」

症状が現れたあと、Aさんはいくつかの医療機関を受診。
頬にメスを入れ、しこりを除去することになりました。

Aさん
「メスを入れないっていう、うたい文句だったのに、最終的に大がかりになっちゃったのはショックでした」

自分の血液の成分を注入するだけのPRP注射で、なぜしこりができたのか。
原因は、注射に添加された「bFGF(ベーシックエフジーエフ)」という成分にあると医師から説明されました。

Aさん
「私のやったクリニックの注射名を言ったら『それはこういうものがきっと入っているね』という感じで、bFGFの単語を他の先生から詳しく初めて知りました。あれ、おかしいなって」

bFGFとは、細胞の増殖を促すたんぱく質の1つ。本来は、床ずれなどでえ死した皮膚を治療する薬品として使われています。患部に塗ると細胞の増殖を促し、修復が早まるといいます。その作用がPRP注射の効果を高めるとして、一部の医療機関でこの薬品を注射に混ぜているというのです。

製薬会社に問い合わせると…

製薬会社 担当者
「メーカーの立場から言うと、適応外使用は推奨できないものになります。それ以外の使用法だと何が起こるか想定できないものもある」

さらに学会が調査を行うと、細胞などを注入する施術で合併症が生じたケースの4割が、PRP注射に「bFGF」を混入したものでした。

専門家たちからは、適切な方法で行えば「安全かつ効果的」という意見も出た一方、エビデンスレベルの高い論文がないことなどから「推奨するには時期尚早だ」という意見が多数を占めました。その結果、この施術はガイドラインで「行わないことを弱く推奨する」と結論づけられました。

ガイドライン作成に関わった 楠本健司 医師
「現にPRP+bFGFの注入を受けた人の中から出ている。悪いことが起こっていると、私どもは一歩そこでとどまって、もう一回考えてみた方がいいのかなと」

しこりができ、手術で除去したAさん。「bFGF」を混入されていること自体、まったく知らされていなかったといいます。

Aさん
「(bFGFという)単語自体も出ていなかったので、まさかそういうこと(しこり)が本当に起きるリスクがbFGFにあるっていう」

同様の訴えはAさんだけではありません。別の医療機関で受けたPRP注射で、しこりができたというBさん(40代)。

医療機関と交わした同意書には、「成長因子」という記載はあるものの「bFGF」が「安全性が担保されていない適応外使用である」ことは明記されていません。

Bさん
「成長因子って書いていますけど、bFGFの記載は一切ないですね。説明があれば受けていない治療なので、こんなにリスクがあることをなんで話さないんだろう」

私たちは、AさんとBさんが施術を受けた2つの医療機関に取材を申し込みました。

施術の安全性や合併症のリスク、そして説明を十分に行ったのか。

1つの医療機関からは「取材時間の捻出が難しい」という理由で回答はなく、もう一つの医療機関からも回答は得られませんでした。

美容医療トラブル 背景に何が

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、日本美容外科学会の元理事長で、トラブルの実態調査を行ったこともある大慈弥(おおじみ)裕之さんです。

まず「bFGF」を添加したPRP注射だけでなく、国民生活センターなどが注意を呼びかけている施術が他にもあります。

「ヒアルロン酸の注射」ですが、「顔への注射」は、比較的安全性が高いとされていますが、「胸への注射」はしこりができるなどの合併症が報告されています。

また豊胸手術で使われる「アクアフィリング」というジェル状の充填剤に関しても、しこりや変形などの合併症が報告されています。

ほかにも、ダイエット目的で処方されている「GLP-1受容体作動薬」という薬ですが、本来は糖尿病の治療薬で、健康な人が摂取した場合の安全性は確認されていません。めまいや吐き気などの副作用が報告されています。

大慈弥さん、より手軽になった一方でリスクについてはどのように考えていますか。

スタジオゲスト
大慈弥 裕之さん (日本美容外科学会 元理事長)
トラブルの実態調査を行ったことも

大慈弥さん:
実際は、これだけではないんです。

桑子:
これは一部だと。

大慈弥さん:
はい。特に「ヒアルロン酸」や「アクアフィリング」というのは充填剤といって注入するものなんですけど、これはやはり大量になると生体の異物反応が起きたり、感染を起こすというトラブルが起きます。

桑子:
大量になればなるほど、リスクは高まると。

大慈弥さん:
はい、リスクが高くなるという。

桑子:
トラブルが相次いでいるわけですが、大慈弥さんは背景に大きく3つポイントがあるのではないかと指摘しています。

トラブルの背景
◆自由診療
◆見えづらい実態
◆ビジネス化

1つ目が「自由診療」。どういうことでしょうか。

大慈弥さん:
「美容医療」というのは「保険診療」と違い、病気ではありませんので「自費診療」として行うわけなんです。

問題としては、「自由診療」はさまざまな治療がありますけれど、標準的な治療なのか、先端的な治療なのか、危ない治療なのか、そういう仕分けが今まではできてなかったという問題があります。

もう一つは「自由診療」の場合、未承認の医薬品、材料、機器等が一般的に使われていますので、それらの安全性・有効性というのが確認されてないものも含まれているという問題があります。

桑子:
それはすべて医師の判断によって行われるということになるんですね。

大慈弥さん:
そうですね、はい。

桑子:
そして2つ目。「見えづらい実態」ということで、日本美容外科学会に所属する医療機関に対して行った「合併症に関する実態調査(回答率2.3%)」があります。
そもそも回答率が2.3%と、とても低いパーセンテージでした。なぜ低いのでしょうか。

大慈弥さん:
美容医療機関というのは、ネガティブな情報というのを非常に嫌う傾向があります。

桑子:
それはなぜでしょう。

大慈弥さん:
やはりマイナスなイメージが出てしまうと、患者さんの契約が減ってしまうというビジネス的なところもあると思うのですが。

桑子:
経営に直結しやすいという。

大慈弥さん:
そうですね、はい。なかなか協力していただけないという事情もあります。

桑子:
全体像すら把握できていないことがうかがえる。こうした中で、安全性はどう担保していくのでしょうか。

大慈弥さん:
今回われわれは、美容医療に対して「診療指針」というのを作りました。

美容医療診療指針(ガイドライン)
施術について推奨できる度合いを4段階に分けて示す(日本美容外科学会のHPなどで公開)

その中で、一般的に行われている治療が「安全性」と「有効性」の観点から推奨できるのか、できないのかというのを4段階に分けて示したということになります。

桑子:
ある程度評価できるガイドラインになっているわけですか。

大慈弥さん:
そうですね。学会が合同で作っています。すでに公表されて、一般の方々でも見ることができます。

桑子:
そして3つ目のポイントが「ビジネス化」ということです。今回、現場の医師たちが取材に応じました。

日々、顧客獲得の競争が繰り広げられる美容医療業界。かつて働いていた医療機関で、契約への強引な誘導を求められたと証言する医師がいます。

和歌山県立医科大学 美容外科寄附講座 非常勤医師 白川裕二さん
「その日に契約を促さなければ、患者さんはインターネットを通じたりSNSを通じて調べる時間というのがある。そうすると考える時間が持てるんですけど、売り上げ重視だと、その日に契約する。場合によっては、その日に手術するということは美容医療においては問題点のひとつかなと思います」

大手医療機関で勤務してきた、別の医師です。リスクを説明することは利益を生まないとして職場で軽視されていたといいます。

元大手美容クリニック勤務医
「私と同じような考えの比較的まじめなドクターほどリスクを話しがちなんで、患者さんが逃げちゃうんですよ。そうすると(職場での)評価が下がるんで。医療行為として当たり前のこと(リスク説明)ができなくなってしまったところが、一番僕の中ではつらかったですね」

桑子:
市場が拡大するに伴い安全性が置き去りになっているような印象を受けるのですが、理由としてどういうことが考えられますか。

大慈弥さん:
やはりビジネス優先ということになりますので、メリットが強調されてもリスクに関しては説明を隠してしまう傾向もあります。
本来であればリスクをきちんと説明しなければいけないのですが、そこがなおざりになるというところは問題とされています。

桑子:
市場拡大による弊害というのはないのでしょうか。

大慈弥さん:
拡大によって提供する医師というのも求められるのですが、(人手不足で)どうしても経験のない医師を採用しなければいけないということで、技術的なところであるとか倫理的なところ、医療安全という点で十分教育ができてない医師が担うという問題もあります。

桑子:
そういう実態があるわけなんですね。
トラブルは今、人気のある施術でも起きています。見えてきたのは、高度な施術が医師以外の手によって行われているという深刻な実態です。

美容医療でやけどが… 国の調査でリスク指摘

その人気の施術とは…

「HIFU(ハイフ)ですね。たるみを上げてくれるやつ」
「ハイフやりたい。まわりでやっている人が最近出てきたので、いいなあ」

ハイフとは、超音波を使って肌のたるみを改善するという施術。2023年3月、消費者庁はハイフによってやけどなどのトラブルが多発していることを報告しました。

強力な超音波の熱エネルギーで、皮膚の下にある脂肪組織などに働きかけるというハイフ。もともとは、がんの治療に使われている機器です。照射する場所や強度を誤ると、やけどや神経障害が起きる可能性があります。

今回の調査で明らかになったのは、135件の事故のうち7割が医師のいないエステ店で発生していたことでした。

ハイフの施術で後遺症を負った20代の女性。2022年、太ももを細くしたいとエステ店で施術を受けました。

20代 女性
「これが施術直後、帰宅したときの写真」

施術を受けた当日から水ぶくれのようになり、1年近くやけどのような症状が残りました。

20代 女性
「本当に燃えるんじゃないか、気絶しそうな痛みがあって」

十分な専門性を持たないエステティシャンが、不適切な施術をした可能性が高いとみられています。

消費者庁は、ハイフは人体に危害を及ぼすリスクが高く、医師に限定して行われるべきだと提言しました。

エステ業界で適切な施術を指導してきた団体の代表も、この提言を支持しています。

日本爪肌美容検定協会 代表理事 川上愛子さん
「医師、看護師じゃない人たちが(ハイフを)やるって本当に危ない。体の奥は医師に任せるという共通認識を(エステ)業界全体で持たないとだめだ」

美容トラブル エステ店におけるリスク

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
なぜ、このようなことが起きているのか。そもそも「医療機関」と「エステ店」とでは、医師法によって行える施術が決められています。

このうち「注射」や「メスを使った手術」など、身体に影響を与える施術は医療行為として「医療機関」では行えますが、「エステ店」では行うことはできません。医師法違反となります。

身近なもので言いますと「レーザー脱毛」。導入された当初はエステ店でも行われていましたが、身体への影響が強いとして2001年に医療行為として認定され、エステ店では行うことができなくなっています。

そして、今問題となっている「ハイフ」に関しては、現在医療行為として認定されておらず、エステ店を中心にトラブルが起き続けているということです。

大慈弥さん、エステ店で行う施術の規制についてどのようにお考えですか。

大慈弥さん:
医療と同じ程度のリスクのあるものに関しては、やはり医療機器として認定し、医師が行うようにしてもらいたいと思います。

桑子:
何らかのルール作りが必要だと。

大慈弥さん:
そうですね。

桑子:
ただ、トラブルが起きてからでは遅いわけですよね。

大慈弥さん:
そうですね。レーザーのように新しいのがどんどん入ってきますので、あらかじめエステの管轄は経産省、医療は厚生労働省でしょうけど、両方でしっかり話をして規制をしていただきたいと思います。

美容医療トラブルから身を守るために

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
私たち自身で身を守るすべはないのか。今回、国や専門家への取材からいくつかチェックポイントをまとめてみました。
まず、大前提として「美容医療は医療機関」で受ける。その上で、大きく3つあります。

まず、1つ目です。「医師のキャリアを確認する」。形成外科医や皮膚科医としてのキャリアがあるかどうかが一つの基準です。そして、美容外科に関わる学会などに所属しているかどうかも一つの目安となります。

そして、2つ目。「施術の内容を自分で説明できるか」。効果だけではなく、リスクや副作用についての説明も聞き、理解したかどうか。そして他の選択肢も提示されたうえで、自分で選んだかどうか。

そして、3つ目です。「その場で決めない」。説明を受けたその日に、割引などを条件に手術を迫られても契約しない。必ず一度持ち帰り、さまざまな情報を調べ、冷静に判断をするということです。

大慈弥さん、そうは言ってもできるだけ安く済ませたいという心理も働きますよね。そのあたりはいかがでしょうか。

大慈弥さん:
確かに未承認のほうが安く済みますが、そのあとのトラブル等で時間や多大の金額がかかるということも考えますと、やはりお金・コストだけで決めるというのは非常に危険だと思います。

桑子:
そのあと何か起きたときに、それ以上の二重苦が待っていると考えないといけないですね。
私たちも気をつけないといけないことがありますが、医療側としてどうしていくべきか、当事者としてどうお考えですか。

大慈弥さん:
今回初めて美容医療に関する診療指針(ガイドライン)ができたのですが、まだまだ充実させていく必要がある。それから、こういうものがあるんだということを周知、医師あるいは一般の方に対して周知していくことが必要だと思います。

桑子:
どのように周知していかれますか。

大慈弥さん:
学会の場合は、その中で周知というのはできますし、一般の方に関してはもう公表されていますので、各学会のホームページを見ていただければ誰でもアクセスすることができます。ぜひ参考にしていただきたいと思います。

美容医療診療指針(ガイドライン)
日本美容外科学会のHPなどで公開

桑子:
規制に関してはいかがでしょうか。

大慈弥さん:
規制に関しては、やはり国の厚生労働省を中心として、こういう自由診療に関しても保険診療と同じようにある程度ルールを決めて規制していただきたいと思います。

桑子:
ありがとうございます。
身近になる中で自由診療とはいえ、医療側にモラルの向上をしてもらうべきではないでしょうか。厳格なルール作りを自発的に進めていってほしいところです。

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