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2023年7月26日(水)

ビッグモーター不正の深層 中古車販売大手でなにが

ビッグモーター不正の深層 中古車販売大手でなにが

中古車販売大手「ビッグモーター」が行っていた不正な保険金請求。7月25日、社長が記者会見で辞任を表明。国交省が26日に聞き取り調査を行うなど、事態が急展開しています。関係者らを緊急取材すると不正の背景が浮かび上がってきました。元店長が明かした“過酷なノルマ”や“利益優先主義”。そして、降格人事が頻繁に行われるなど不条理な“上命下服”の企業風土の実態とは―。急成長の裏で何が?最新情報と共に、“不正の深層”に迫りました。

出演者

  • 植村 信保さん (福岡大学教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

ビッグモーターで何が 不正の“深層”に迫る

桑子 真帆キャスター:

ビッグモーターはおよそ約10年で売り上げを8倍に伸ばし、事業を急速に拡大している企業です。

中古車の販売や買い取りなど5つの部門があるうちの「板金・塗装」の部門で自動車保険の保険金を不正に請求していたことが明らかになり、7月25日、社長が辞任を発表。26日は、国土交通省が会社にヒアリングを実施し、立ち入り検査も視野に本格的な調査に乗り出しています。

現場で何が起きていたのか。NHKの情報提供サイト「ニュースポスト」で募ったところ、元社員や保険業界の関係者、利用者などから相次いで投稿が寄せられました。

取材を進めますと、不正の背景に“成果至上主義”ともいえる会社の体質。さらに、損保会社との切っても切れない関係も見えてきました。

関係者が語る 不正の背景

元工場長
「台風のときに風害の車が入ってきたら、ピッと傷つける。何か飛んできて当たったかのように見せる」

ビッグモーターの元工場長です。保険の水増し請求を日常的に行っていたと証言しました。

元工場長
「会社全体的にそういうのが当たり前になっていた。利益優先ですね」

今からおよそ50年前、山口県で創業した中古車販売会社・ビッグモーター。「売買」・「車検」・「整備」・「修理」をワンストップで請け負い、次々と店舗を展開。8年前には本社を六本木に移転するなど、一代で事業を急速に拡大させました。

その裏で行われていた保険金の不正請求。舞台となったのは、自動車の修理を行う「板金・塗装」部門でした。

損害保険会社は、事故に遭った契約者に車の修理工場としてビッグモーターを紹介。ビッグモーターは、その車を故意に傷つけたり不必要な部品交換をしたりするなどして、修理費用を水増し。保険金を不正に請求していました。

外部の弁護士による調査委員会がまとめた報告書です。検証したのは、およそ2,700件。そのうち不適切な行為が疑われたのは4割以上で、全国34の修理工場で確認されたとしています。

7月25日の会見で不正を認めた兼重宏行前社長。一方で、みずからを含めた経営陣の関与を強く否定しました。

7月25日の会見にて 兼重宏行前社長
「組織的ということはないと思います。個々の工場長が、この原因は、工場長が指示してやったんじゃないか」

ではなぜ、不正がここまでまん延したのか。報告書が指摘したのが“不合理なノルマの設定”です。

修理する車1台当たりの工賃と、部品の粗利の合計金額は「@(アット)」と呼ばれ、その目標値を平均で14万円前後に設定していました。取材に応じた元社員は、こうしたノルマによって現場に強いプレッシャーがかかったといいます。

元社員
「軽損だと工賃が3万円とかになるので、到底14万円は厳しいですね。チョークで線を書いて傷があるように見せかけたり、みんなノルマを達成するのに必死だった感じです」

さらに経営陣にそのまま従い、そんたくするいびつな企業風土が不正の背景にあったと指摘しています。

毎年、すべての社員に配られ、会社の経営方針などを記した経営計画書には。


指示されたことは考えないで即実行する。
上司は部下が実行するまで言い続ける。
幹部には部下の生殺与奪権を与える。

経営計画書より一部抜粋
元店長
「生かすも殺すも幹部次第みたいな。目標とされている数字、最低限の数字に到達しないと怒られる。怒りに触れると降格です」

複数の元社員は、経営陣が工場長らの降格処分を頻繁に行うことで現場は萎縮していたといいます。

元社員
「上から言われたことは絶対。なんでも」
取材班
「それに従わないと?」
元社員
「従わないと『会社を辞めろ』」

組織の体質が如実に表れていたというのが、月に1度の「環境整備点検」です。

副社長などが全国の店舗を視察。掃除が行き届いているか、売り上げが順調かなどを厳しく評価していたといいます。150点満点の点検は、人事評価やボーナス査定に直結していました。

環境整備70点以下の役職はカド番、2か月連続で更迭する

環境整備点検によって降格処分を受けた元工場長です。

元工場長
「(環境整備点検に)朝一番に来て、(副社長が)めちゃくちゃ機嫌悪くて一発アウト。終わりました。環境整備の前の日は(深夜)1~2時までやって、結局どれだけ頑張ってきれいにしていても来たときの気分で一発アウト」

給料は半減。1週間以内に別の地方にある店舗に異動するよう命じられました。

さらに、点検の評価は全国の工場長などおよそ120人が参加するグループLINEに一斉に送られていました。

兼重前社長の長男の、副社長が送ったとされるLINEです。

その後、副社長から叱責された社員は退職に追い込まれたといいます。

7月25日、会見した兼重前社長は降格人事についてこう述べています。

7月25日の会見にて 兼重宏行前社長
「十分な力がないという場合は、すぐに降格します。すぐ敗者復活、その繰り返しで、これは社員教育の一環」

一方、成果を上げた社員に対しては高い報酬が。ビッグモーターのホームページでは「成果を出した分だけ評価される会社」など、高収入をうたう言葉が並んでいます。

これは30代前半の社員の給与明細。月収は100万円以上です。歩合給は修理件数などで大きく変動し、高収入を維持するには無理をしてでも成果を上げ続ける必要があったといいます。

“厳しいノルマ”、“いびつな企業風土”、そして“成果至上主義”。こうした中で、不正への罪悪感が徐々に薄れていったと元工場長は打ち明けました。

取材班
「消費者に対して申し訳ないと感じることは?」
元工場長
「実際、特に何も思わない。終わってしまっていることなんで。最初のほうはやっぱりやりすぎと思っていたんですけれど、社風でそういうふうに染まってしまった」

ビッグモーターの不正を取材し続けてきたジャーナリストの加藤久美子さんは、透明性に欠け、自浄作用が働きづらい企業体質に問題があったと指摘しています。

自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子さん
「ネガティブなことには基本対応しないのが会社のポリシー。上場していない会社なんで、例えば株主への説明責任がない。被害者がたくさんいますから、責任を果たしてほしい」

損保ジャパンの元社員が語る 不正の背景

一方、水増し請求をされた損害保険会社。なぜ不正は見過ごされてきたのか。

ビッグモーターと長年、親密な関係を築いてきた損保ジャパン。自動車保険などを取り扱う部署に所属していた元社員は、背景には損保会社とビッグモーターの特殊な関係があると打ち明けました。

損保ジャパンの元社員
「ビッグモーターと保険会社の力関係は圧倒的にビッグモーターが強かった。圧倒的です。貴族と家来みたいな」

なぜ、ビッグモーターは損保会社に対して大きな力を持つようになったのか。

損保側は、契約者が事故に遭った場合、修理工場としてビッグモーターを紹介。一方、保険代理店でもあるビッグモーターは、車の購入者などの新たな保険契約を、紹介された修理の件数に応じて損保会社に割り当てる仕組みになっていたのです。

ビッグモーターの保険取扱額は、年間およそ200億円と見られています。少しでも多くの保険契約を割り振ってもらおうと、損保各社はしのぎを削っていました。

ビッグモーターの売り上げに貢献した損保会社には、その会社の保険を客に優先的に勧めてくれる店舗が割り当てられます。「テリトリー」と呼ばれるこの店舗の数をいかに増やすかが、損保会社の売り上げを大きく左右するのです。
損保ジャパンは競合他社を抑え、ビッグモーターの「テリトリー」のおよそ6割を占めるまでになっていました。

損保ジャパンの元社員
「拠点(店舗)数が減った増えたで、保険会社は一喜一憂しているということなんです。テリトリーを失って何拠点も失えば、何億円という減収につながる可能性がある。そこのプレッシャーなんです。担当者は生きた心地はしてないと思います。紹介してくれ、事故車があったら、ここ(ビッグモーター)を使ってくれって一生懸命頼んでいる」

「テリトリー」を失いたくない。そうしたプレッシャーから無理をして、いわば戦略的に支払うケースもあったと証言します。

損保ジャパンの元社員
「明らかにグレーで来ているので、じゃあグレーだと。グレーでいいじゃないかと。白が若干見えていたら、払ってあげなさい。今これを払わなければテリトリーが消失しますっていうので、政策的に払えっていうゴーを出すんです」

さらに7月25日の会見で質問が相次いだのが、損保会社からビッグモーターへの出向者についてでした。

7月25日の会見にて 兼重宏行前社長
「(出向者は)営業社員のコンプライアンスの教育、そして板金部門でいたら見積りの教育ですね。そういう人材として受け入れていますので。一部、今回の不正に関与しているのではないかと言われていますけれど、それは一切ないと思います」

損保大手三社は、ビッグモーターとの関係を円滑にするため「出向者」を送っていました。損保ジャパンは2011年以降、合わせて37人が出向。他社に比べて突出していました。そのうちの1人は、ビッグモーターの執行役員も務めていました。

7月25日の会見にて 兼重宏行前社長
「(出向者は)あくまでも見積もりとか技術指導がメインで、生産の現場まで入っていないと思うんです。今回(不正)事件が起きたのは生産現場で分からないところでやっている」

「出向者は不正に関与していない」と説明した兼重前社長。しかし、現場で出向者と接点があったという元工場長は、不正を知る人もいたと証言します。

取材班
「出向者も一緒に作業することもあった?」
元工場長
「見積りをするために部品外したり手伝っていただいたりとか、一緒に見積もりを仮で作っていただいたりとか、出向者の方は(不正が)表に出たらこれぐらい大きいことになるっていうのは初めから私には言っていただいていたので。どこの工場がひどいとか誰がひどいとかというのは把握されていましたので、(出向者は)『やり過ぎるなよ』と声かけはしていた。声を上げてただす人は誰もいなかった。ただせなかった」

ビッグモーターが損保会社に大きな影響力を持つ、特殊な関係性。損保ジャパンの元社員は、不正が見過ごされてきた背景について、こう語りました。

損保ジャパンの元社員
「暗黙の空気があるんです、絶対そこに。暗黙でここまでであれば大丈夫だろう。実際(請求を)出してみる、大丈夫だった。また出てくる。ここまでだったら大丈夫だよ。出してみる。オーケーだった。これが暗黙の了解を形成していくんですね」

なぜ見過ごされた?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、保険業界に詳しい福岡大学教授 植村信保さん。そして、経済部篠田記者です。

まず植村さん、今回の保険金の不正請求、結果的には保険会社も不正を見抜けなかったということになると思います。不正によって水増しされた保険金を支払っていたことに気づけないものですか。

スタジオゲスト
植村 信保さん (福岡大学教授)
保険業界に詳しい
金融庁で勤務経験も

植村さん:
そうですね。「気づけなかった」では済まないということはではあると思うんです。ただ、何か手がかりとかあったのではないのかなという気はするんですけどね。

桑子:
具体的にどういうことがあり得ますか。

植村さん:
例えば、代理店ごとに保険金の支払い状況を保険会社は確認しているはずなので、そこでちょっとおかしな動きがあったとか、そういうのがなかったのかなというのが疑問ですね。

桑子:
今回は気づけなかったという結果になっているわけですが、植村さんが今回の問題のポイントだとしているのが、ビッグモーターの中で2つの部門(「板金・塗装」部門・「損害保険代理業」部門)、同時に存在していることだということです。

どういうことかといいますと、まず「板金・塗装」部門は修理する車を損保会社側から紹介してもらうという構図です。
一方、「損害保険代理業」の部門ではビッグモーターで車を購入した人の新たな保険契約を、逆に損保会社宛てに割り当てているという構図。

植村さん、この関係性がどうやってビッグモーターの不正につながり得るのでしょうか。

植村さん:
特に今回の件は、ビッグモーターという会社が保険金をビジネスとして受け取るという会社だということですよね。修理をして「保険金を受け取る」。
一方で、保険の代理店になっているということは「保険を売る」という立場になります。ビッグモーターからすると保険金をたくさん受け取りたい。けれども「保険も売ってちょうだい」と保険会社から言われる、こういう存在なんですよね。

桑子:
損保会社からすると、どういう思考になるわけですか。

植村さん:
保険金、適正に払わなくてはいけないということはあるのですが、ただ、保険を売ってくれる有力な人だということになると、例えば監視の目が緩くなってしまうということが起こりやすい構図にはなりますよね。

桑子:
経済部の篠田さんにも聞きます。今回、損保各社はビッグモーターと持ちつ持たれつの関係も指摘されていると。出向者も出しているということで、本当に不正に気づかなかったのか、癒着の構図はなかったのか、このあたり取材をしていていかがですか。

篠田彩 記者(経済部):
今回NHKが損保大手3社に対して取材をしたところ、こちらのように回答をしています。

「不正への関与はない。癒着はない」などとしています。このうち損害保険ジャパンは、当初ビッグモーターへの出向者は不正を知らなかったと説明していました。

しかし、今週になって出向者が不正の可能性があるという情報を得ていながら詳細な調査をせずに2022年の夏、いったん中止していたビッグモーターとの取り引きを再開していたことを明らかにしました。

会社は7月25日、外部の弁護士による調査委員会を設置すると発表していまして、保険金の不正請求を認識できなかった経緯を詳しく調べることにしていますが、そもそも不正の可能性をどのように知ったのか、そして、当時なぜ取引を再開する判断をしたのかが今後の焦点になります。

一方、金融庁は損保各社に対して保険業法に基づく報告を求める方針です。

桑子:
今回私たちは不正の実態を探るべく、皆さんに情報提供を呼びかけました。寄せられた声の中にはこういったものもありました。利用者の方です。

利用者
「200万円で車を買い取るというので契約書を交わしたが、数日後『事故歴があるので30万円査定額をさげる』と一方的に連絡があった」

ということです。さらにこんな声も寄せられています。

2021年、ビッグモーターでおよそ400万円の中古車を購入した男性。状態は良好だという担当者の言葉を信じて購入しましたが…

男性
「メーターが動かないところがある。シートベルトがきかない。車の下を見てみると配線が切れている、マフラーに穴があいている」

桑子:
ビッグモーターに再度確認をしましたが「整備はしました」という返答しか得られなかったといいます。

男性
「きれいに直すといっても、車を買えるぐらいの値段がかかる。あまり後悔したことはないけれど、この車を買ったことだけは後悔している」

調査の焦点は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
篠田さん、こうして保険金とは別の訴えも上がってきているわけですが、どのように全体像を調べていくのでしょうか。

篠田:
ビッグモーターの幹部は、7月25日の会見で「今回明らかになったのは『板金』部門の不正だが、企業風土の問題が背景にあるので他の部門についても同じような案件が出るのではと考えている」と述べました。
その上で、すべての部門の不正について想定できる調査を行う方針を明らかにしています。

しかし、調査の対象期間がまだ特定されていません。不正の全容を把握し、不利益を被った顧客などへの対応を着実に行うことが求められます。

桑子:
26日は国土交通省のヒアリングもありましたが、今後はどんな点を重点的に調査していくのでしょうか。

篠田:
国土交通省は26日の聴取で、車両の修理や整備の実態について聞き取りをしました。道路運送車両法に違反する点がないかどうか確認したということです。
今後、違反が疑われる事案がもしあったと判断すれば、ビッグモーターの整備工場など事業所への立ち入り検査も検討するとしています。

桑子:
植村さん、中古車業界、それから保険業界の信頼を揺るがしかねない衝撃的な事態になっているわけですが、この信頼をどう回復していけばいいでしょうか。

植村さん:
保険の中でも特に今回は「損害保険」ということで、損害に応じて保険金を支払うということですので、やはり不正を見抜く力、これは高めてほしいですよ。まず1つはそこです。

それからもうひとつ、先ほどご説明したとおり「保険金を受け取って」というようなビジネスをしている人という話もありましたが、同時に保険の専業の販売ではなくて、メインの事業があり、保険も売っているという会社なわけですよね。
ですので、極論すると「保険のプロではないかもしれない」といったところなので。保険は広い意味で金融商品で結構複雑ですので、保険のプロがちゃんと提供するという世界が本来あるべき姿なのではないかなと思います。

桑子:
ビッグモーター側に求められることはどういうことでしょうか。

植村さん:
消費者目線ですけれども「信頼できるか」、それから「ちゃんと情報があるのか」といったところが知りたいところですよね。

桑子:
ビッグモーターは26日から新しい経営体制になりました。失われた信頼は大きいです。まだ不正の全容も分かっていません。どのように説明し、明らかにしていくのかしっかり見ていきたいと思います。ありがとうございました。

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