クローズアップ現代

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2018年11月13日(火)
“地面師”に“出し子”!? 認知症高齢者が犯罪に利用される…

“地面師”に“出し子”!? 認知症高齢者が犯罪に利用される…

老人ホームで暮らす90代の男性。実は12億円の不動産取引をめぐる“地面師”事件で、地主になりすまし不法な土地売買に関わったとして起訴されている。しかし取材を進めると、認知症を発症していた男性が犯行に利用された疑いがあることが分かってきた。また、高齢で1人暮らしをしている認知症の女性が突然逮捕されたケースも見つかった。銀行からの不正な引き出しに“出し子”として利用されていたのだ。知られざる実態を追跡する。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

実録ドラマ 地面師事件 認知症高齢者が“偽の地主”に!?

あるメガバンクで起きた不可解な事件。現れたのは地面師グループ。

東京・赤坂にある一等地の売買を巡り、12億円をだまし取ろうとしていました。この場には、偽の地主が連れてこられていました。

(再現ドラマ)

土地の買い手側
「ご本人確認のための身分証明書をお願いいたします。」

偽の地主
「田中昭三です。」

地主に成り済ましたこの高齢者。実は認知症でした。認知症の人が、なぜ地面師グループに加わっていたのか。
先月(10月)私たちは本人に会うことができました。去年(2017年)起訴され、被告となった男性は93歳。事件について尋ねても…。

被告の男性
「土地、土地だったかなあ。土地の問題とかいろいろ。」

一体、男性に何があったのか?衝撃の実態は後ほど…。

認知症の母が突然逮捕… なぜ?知らぬ間に“出し子”に

詐欺被害に遭うことが多い認知症の人が逆に加害者になる。異変は各地で起きています。九州地方で認知症の女性が摘発されたと聞き、その家族を訪ねました。
この女性は、1人暮らしをする80代の母親が突然逮捕されたと知らされました。

母親が逮捕された女性
「警察から、ばあちゃんが捕まったよって。もうびっくりで、何がなにやら全然わかりませんでした。普通は被害を受ける方、年齢的にも立場的にもそっちだと思っていたら。」

女性は、以前から母親に認知症の症状が現れていることに気付いていました。必要のない高額な商品を売りつけられることがあったからです。

母親が逮捕された女性
「布団を買ったり、磁気の入っているイスじゃないけど、座るといいというやつとか。」

母親が逮捕された事件は、何気ない日常の中で起きました。
ある日、リフォーム業者を名乗って母親の家にやって来た男たち。

(再現ドラマ)

リフォーム業者に成り済ました男
「今、私ども近所の方ちょっと回っておりまして、申し訳ないんですけれども、家の床下を見せていただけますか?」

母親
「床下を。」

母親が逮捕された女性
「家の床下に湿気があって、シロアリとかが来るといけないからということで、だからその業者の人にだまされていた、母も。」

(再現ドラマ)

リフォーム業者に成り済ました男
「私たちが何とかしますので安心してください。」

母親
「ありがとうございます。」

後日、男たちは、母親にある依頼を持ちかけてきました。

リフォーム業者に成り済ました男
「それでですね、銀行でお金を下ろすのを手伝ってほしいんです。」

それは、男たちが別の家から盗んできた預金通帳でした。客の高齢者から通帳を盗み、現金を引き出す“出し子”として別の高齢者を利用していたのです。

(再現ドラマ)

母親
「あの、お金を下ろしたいんですが。」

銀行員
「かしこまりました。確認してまいりますので、少々お待ちくださいませ。」

銀行員
「お待たせいたしました。」

母親は、言われるがまま90万円を引き出し、男に手渡しました。男らはほかの認知症の高齢者も利用し、合計3,500万円をだまし取っていました。母親は、この日の出来事を日記につづっていました。

母親の日記
“今日も床下の仕事をした人に車に乗せられていった。2万円もらった。少し手伝っただけなのに大金を頂いてありがたいけれど。”

その後、逮捕され、実刑判決を受けた男たち。事件について問いただすため、出所してきた男に接触しました。男は「だまして利用したわけではない」と繰り返し主張しました。

実刑判決を受けた男
「もともとお客さん、リフォームのお客さんだから、それで信用してもらったと思う。仲よくなること、結局そういうこと。こっちは100%悪いとわかってやっている。(女性は)共犯、お礼も渡してますし。」

事情を知らなかったと判断された母親は不起訴となりました。娘は、認知症の人を利用した悪質な犯罪に、強い憤りを感じています。

母親が逮捕された女性
「親切心でしてやったというのが、うちの母は頭にあって、『頼まれたから私がしてやった』と、そんな感じだった。(こうした犯罪は)あってはいけないこと、本当に。」

認知症高齢者が“偽の地主”に 地面師事件のナゾを追跡!

認知症の高齢者が犯罪に加担させられる異様な事態。それは、地面師グループによる巨額の詐欺事件でも起きていました。
番組の冒頭で見た12億円がだまし取られた不正な土地の取り引き。事件は5年前、東京・赤坂の一等地を舞台に起きました。およそ10人からなる地面師グループが偽の地主を用意し、大手ホテルチェーンから金をだまし取ったのです。

取材を進めると、偽の地主となった高齢者を連れてきたのは、メンバーのある女だったことが分かりました。「金野」と名乗った70代の女。その後も地面師グループに関わり続け、積水ハウスから55億円をだまし取った事件でも逮捕された人物でした。
今回の事件は組織的に進められていました。詐欺の全体像を描く「主犯格」。書類などを偽造する「道具屋」。そして金野は、偽の地主役を見つけ出す「リクルーター」の役割を担っていたと見られています。
目をつけたのが、知人から紹介された2人の高齢者でした。その1人、佐藤忠則さん。佐藤さんは認知症を患い、今、老人ホームで暮らしています。これまで犯罪とは無縁だったとして、施設や成年後見人が取材を了承しました。

「これは何の写真ですか?」

佐藤忠則さん(仮名)
「警察の。経堂交番というのがある。」

かつて、警察官として働いていた佐藤さん。結婚して子どもにも恵まれましたが、高齢になってから妻と離婚し、1人暮らしをしていました。近づいてきた女について尋ねました。

「(金野は)どんな人?」

佐藤忠則さん
「女性で、年配なんですよ。」

「お友達ですか?」

佐藤忠則さん
「ほんと忘れちゃったね、ぜんぜん。思い出そうと思っても忘れちゃうから、どうしようもない。」

地面師グループは、どのようにして高齢者を詐欺に加担させたのか。佐藤さんと共に、偽の地主を演じさせられた男性にも話を聞くことができました。本田義和さん、87歳です。医師から軽度の認知機能障害があると診断されています。公務員を退職後に、知人の保証人になったことなどで老後の蓄えを失っていました。

本田義和さん(仮名)
「いろいろひどい目にあってますよ。そりゃ、腹立ちますよ。」

地面師グループが声をかけてきたのは、ちょうどそのころでした。高齢者との接触に使われていたという喫茶店。サロンのような雰囲気だったといいます。

「みなさん楽しげにお話する感じなんですか?」

本田義和さん
「そんな感じかな。おばさん4人ぐらいかたまると、女傑って感じですね。」

(再現ドラマ)

「皆さん、こんにちは。」

60代の男
「どうぞ、おかけください。」

本田さんは金野を介して、地面師グループの60代の男に引き合わされました。

本田義和さん
「事件に関して言われたのは【60代の男】からだけです。」

主犯格からの指示で動いていた、この男。リクルーターが見つけてきた2人の高齢者を操る「説明役」だったと見られています。

男は、地主の代わりに土地の売買契約に立ち会ってほしいと切り出しました。

本田義和さん
「『いるだけでいいから』と言われた。『別に悪いことをしているわけじゃない』と言われたと思う。」

「なぜ、それをするのかということは。」

本田義和さん
「『悪いことをしているわけじゃない』というのが頭にあったから、あまり興味がなかった。そんな深刻な雰囲気ではなかった。『あまり人が少ないと困るから、とにかくいてくれればいい』と。」

地面師グループは、判断力が低下しているものの、受け答えが可能な高齢者に目をつけたと見られています。後に逮捕された説明役の男は2人を見て、「これなら上も納得すると思った」と供述しました。
地面師グループと出会った3か月後。2人は、赤坂駅近くの銀行に連れてこられました。銀行の防犯カメラには、地面師たちに案内される2人の姿が記録されていました。

(再現ドラマ)

土地の買い手側
「どうぞ、こちらへ。今日はどうぞよろしくお願いいたします。」

契約には買い手側の弁護士と2人の司法書士が立ち会いました。

(再現ドラマ)

佐藤忠則さん
「田中昭三です。」

佐藤さんは、地面師グループから事前に打ち込まれていた他人の名前を名乗りました。

(再現ドラマ)

土地の買い手側
「ご本人確認のための身分証明書をお願いいたします。」

土地の売買契約には欠かせない本人確認。2人は、あらかじめ渡されていたカードを取り出しました。それぞれの顔写真が写った「住民基本台帳カード」。地面師グループの道具屋が用意した偽物でした。2人は必要な本人確認が終わるとすぐに退席し、その数時間後に契約は成立。12億5,000万円の金が地面師グループに支払われました。今年(2018年)9月、本田さんには執行猶予付きの有罪判決が言い渡されました。認知機能障害の診断は考慮されなかったと見られています。そして、認知症が進む佐藤さんにも捜査の手が…。
事情聴取は老人ホームの中にある、この会議室で行われました。

検察は防犯カメラなどの証拠をもとに、佐藤さんの事件への関与を追及しました。

(再現ドラマ)

検察
「成り済ますよう頼まれたということですか?」

佐藤忠則さん
「そういうことだと思ったね。」

検察
「その頼みを聞いたのはなぜですか?」

佐藤忠則さん
「忘れちゃった。」

検察
「あなたが成り済ましたらだまされる人がいるんじゃないですか?」

佐藤忠則さん
「頼まれたことは、やらんほうがいいということですね。」

この直後、起訴された佐藤さん。しかし、裁判所による鑑定で、「犯行当時、認知症が相当進行していたと推察される」との結果が出されました。その後、裁判は中断されたままです。

佐藤忠則さん
「まあ、だいたい毎日が楽しいですね。」

「毎日楽しい、いいですね。」

佐藤忠則さん
「まあ、楽しいんだろうね。」

認知症高齢者が逮捕!? “地面師”“出し子”になぜ?

武田:偽の地主にさせられたことで、罪に問われた男性、今後が気になりますね。

田中:VTRの最後に出てきた佐藤さんは認知症が進んでいるため、やり取りを認識して裁判を受ける能力があるかどうかが問題となり、今、裁判が中断しています。今後、裁判が打ち切られる可能性もあります。一方、本田さんは、執行猶予のついた有罪判決が確定しています。

武田:取材に当たった橋本記者です。
認知症の人であっても罪に問われる。私、驚いたんですけれども、なぜなんでしょうか?

橋本尚樹記者(社会部):認知症の人であっても、地主に成り済ますという実行行為は法に触れるわけです。成り済ましによって巨額の金をだまし取られた被害者も生んでいるわけです。もう1つ、犯行当時、認知症がどの程度進んでいたのか、当時の判断能力がどの程度低下していたのかは証明することは困難なんです。佐藤さんは、犯行当時から認知症が進んでいたという鑑定が出ましたが、多くのケースでは、当時どうだったのかは証明は困難です。さらに、判断能力がどの程度低下していれば罪にならないのか、その線引きも非常に難しいのが実情です。利用された高齢者の多くは、地主役や“出し子”として現場に顔を出す役割を担わされていました。防犯カメラに映ると、それが実行犯としての証拠になってしまうわけで、犯罪グループに巧みに利用されていました。

武田:犯罪グループは、どうやって利用する高齢者を見つけ出すんでしょうか?

橋本記者:取材した高齢者の多くは、加害者となる前に何らかの財産被害に遭っていました。その中で、だましやすい高齢者だという情報が犯罪グループに伝わり、目をつけられたのではないかと思います。成り済ましの行為を頼んでも疑問に思わない人として、ターゲットにされた可能性が高いと見られます。地面師事件の関係者にも取材をしましたが、利用しやすいのは、受け答えができる一方で、だましやすい、判断力が衰えた高齢者だといいます。初期の認知症のように、判断力が衰え始めた高齢者が狙われています。

田中:認知症の高齢者が犯罪に利用されてしまうのは、一体なぜなのか。専門の医師にも聞きました。

川崎幸クリニック 杉山孝博院長
「(認知症の人は)判断力や推理力が落ちている。これはちょっとおかしいと普通は思っても、認知症になるとそれが思えない。比較的認知症が初期で、見かけはしっかりしていて、しかし、ちょっと判断力が落ちていて、人の言うことを聞いてしまう。そういう方々が認知症の人に見られやすい。これは明らかに誰が一見してもおかしな人だったら、そんなことは頼まないだろうし、また頼まれても、相手の人もおかしいと思いますよね。でも、普通の世間話だったら、見事にこなす。私たちは(認知症の人は)できなくなったら、すべてができないと思い込んでいる。よその人にはしっかりした対応をすることがある、という特徴も理解してもらわなければいけない。」

利用される認知症高齢者 “犯罪に加担” 防ぐには?

武田:私も親が遠くに住んでいますので、決してひと事だとは思いません。気をつけなければいけないケース、ほかにはどんなものがあるんでしょうか?

橋本記者:今回、認知症の高齢者と接することが多い、全国の地域包括支援センターなどに取材しましたが、思い当たる事例があると答えたセンターが10か所以上ありました。具体的には、廃品回収の場所から金属などを不正に持ち出し転売するグループに、認知症の高齢者が「回収役」として利用されていたケースがありました。また、通帳を犯罪グループに言われるがままに売り渡してしまい、その口座が振り込め詐欺に悪用されて罪に問われたケースもありました。

田中:こうした事態、どうすれば防げるのか。支援団体や専門家も、事態の広がりを十分に把握しておらず、決め手になるような解決策は見えていません。ただ、今できることとして次のようなことを指摘しています。まず、認知症の人を孤立させないこと。認知症の症状が出始めた人はうまくできないことが増えて自信を失い、孤立しがちで、そこに犯罪グループがつけ込む余地が出てきます。そして、早期診断です。認知症の症状が出始めても、病院に行かない人が多いんですが、早めに診断を受けることで支援につなげることができます。また、認知症の高齢者の権利を守るための「成年後見制度」もあります。後見人が認めない契約は無効にできるため、犯罪に加担するきっかけになる詐欺被害を防ぐことにもつながります。認知症が進む前から、本人や家族が制度の利用を検討してほしいということです。

武田:橋本記者は今回の取材を通じて、どんなことを一番感じましたか?

橋本記者:犯罪に加担してしまった認知症の高齢者の家族に共通していたのは、自分を育ててくれた親が犯罪の加害者になってしまったという事実に、時間がたっても苦しんでいるということでした。ある家族は、「一生消えない傷だ」と語っていました。また、初期の認知症は本人や家族が気付きにくく、犯罪に加担したことで認知症だと分かったケースもありました。つまり、逮捕されるまで認知症と気付かないままでいたわけです。認知症高齢者が犯罪に利用されている実態は、まだまだ埋もれている可能性があります。引き続き、取材を進めていきたいと思います。

武田:取材に当たった橋本記者に聞きました。
認知症の人を加害者として巧妙に利用する卑劣な犯罪に、改めて怒りを感じます。この新たな事態を社会全体でもっと共有して、備える必要があると感じます。