クローズアップ現代

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2018年9月10日(月)
暴風高潮 恐怖の瞬間 ~台風から身を守るには~

暴風高潮 恐怖の瞬間 ~台風から身を守るには~

なぎ倒される電柱。飛ばされるマンションの屋根。台風21号による記録的な暴風は、全国100の観測点で最も強い最大瞬間風速を観測。さらに、近畿と四国の6の観測点では、一時的に観測史上最も高い潮位を超えた。今後、台風の勢力が強まっていくという指摘もある中、私たちにその脅威をまざまざと見せつけることとなった今回の台風。各地で記録された映像を改めて検証し、今後起こりうる被害からどう身を守るのか、考える。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

“暴風直撃”恐怖の瞬間 800本の台風映像には

大都市・大阪を直撃した台風。撮影された恐怖の瞬間です。

「あっ、やばい。」

「大丈夫か?」

「目に入りました?」

「目入った。」

「こすらないでください。」

仕事で移動中に看板が直撃。車のガラスが粉々に割れました。

仕事中に被害 角田航さん
「これぐらいの看板が飛んできて。命の危機を感じました。」

今回、NHKには台風の猛威を撮影した動画が800本以上寄せられました。

「えっ、ママやばい。」

飛ばされた屋根が襲ってくる瞬間を捉えた、この映像。

撮影した人に話を聞くことができました。埜暢(のの)さんです。幸い窓は割れませんでしたが、逃げる余裕はなかったといいます。

埜暢さん
「風ってあんまり速くないと思ってたけど、結構思ったよりも速くて怖かったです。」

「あかん。」

動画から見えてきたのは、私たちが経験したことのない風の破壊力でした。

「落ちた。」

台風21号が吹き飛ばした車。その瞬間を捉えた映像を入手しました。

「あっ、自動販売機も壊れた。」

「うわっ、車が。」

車が宙を舞いながら転がっていきます。

現場を目撃 新子光司さん
「まさにオモチャですね。オモチャの車が飛んでいる。自然の怖さを実感しました。」

一体、何が起きていたのか。
風の脅威を研究している、防衛大学校の小林文明教授とともに現地に入りました。小林教授が注目したのは、駐車場が高層ビルの横にあることでした。風の通り道になるため、風の強さが増すのだといいます。都市部ならではの危険性だと指摘します。

防衛大学校 小林文明教授
「風がここで集まるので、ここら辺がやっぱり風が一番強い。ですから、おそらくここら辺の車が軒並みやられた。中にいたらどうなっているか。もう命に関わる状態だということで、車は決して安全ではない。」

最大瞬間風速は全国100か所の観測点で記録を更新。700人余りがけがをし、4,800棟以上の建物に被害が出ました。最も大きな被害が出た大阪では、場所によっては最大瞬間風速が50メートルを超えました。

「めちゃくちゃ飛んでる。」

強い風は、身近なものを凶器にしました。

「あれ、なに飛んでんの。」

飛んできたクーラーボックスに当たり、40代の男性が亡くなりました。当時、近くにいた人に話を聞くことができました。

近くにいた人
「かなり立っているのも困難なぐらいな風がここを吹き抜けてて、植木鉢とかガラスが飛んできてましたから、非常に危険な感じでした。ふだん飛ぶはずのないものが真横に飛び交っている。それも相当なスピードで。やはり恐怖はありました。」

今回と同じような猛烈な風で物が飛ばされると、どのような脅威となるのか。
傘を飛ばす実験では、住宅で一般的に使われるガラスが割れてしまいました。

そして、ぬれた雑誌でも…。

京都大学防災研究所 丸山敬教授
「都市部というのは田舎に比べて飛散物による危険性は高まる。通常あまり危険と思われないような身近な物がたくさん飛んできます。本当に速いスピードでくると、危ない、危険な物となってしまう。」

今回の台風では、家の中にいる人たちにも大きな被害が相次ぎました。
このマンションでは、風で飛ばされた屋根が8階の部屋に飛び込み、中にいた70代の女性が亡くなりました。

風で壊された建物の一部などが飛ばされ、さらに別の場所で新たな被害を生む。こうした連鎖被害が被害の拡大を招いたと、専門家は指摘します。

防衛大学校 小林文明教授
「構造物が多い、車が多い、物が多いと、それだけ飛散する可能性があって、そういう負の連鎖、破壊の連鎖が起こりやすい。」

屋根が壁が 台風の“連鎖被害”

連鎖被害を受けたマンションの住民に話を聞くことができました。松田尚之さん・理沙さん夫婦です。被害が大きく、今も避難生活をしています。5階にある部屋は当時のまま。床には一面、ガラスの破片が落ちていました。

松田理沙さん
「(ガラスが)この辺まで飛んできたんです。」

カーテンを閉めていましたが、ガラスの拡散は防げませんでした。窓は分厚いガラス。しかし、それを打ち破ってコンクリートの塊や金具が飛び込んできたのです。そのときの様子を、窓から見ていた尚之さん。目の前にある大学の外壁が壊れて飛んできたといいます。

松田尚之さん
「壁の枠みたいな、たぶん金属だと思うんですけど、それが紙みたいにペラペラしだして、大きな破片が上の階にたぶん当たったんです。それで危ないなと思ったら、あの壁がどんどん剥がれていって、風で突っ込んできたんです。」

4人家族の松田さん。小学2年生の息子が、ひざを4針縫うけがをしました。

松田理沙さん
「やっぱり別の場所で寝ていても、ちょっと風の音がするだけで『ママ、ここのガラスも割れる?』って聞いてきたり、『窓際で寝たくない』って言ったりとか。やっぱり心のケアをしていかないといけない。」

同じマンションに住む住民は、ガラスが刺さるなどして全治1か月のけがをしました。

大けがをした女性
「靴下を脱いだら、それと一緒に皮もべろっと取れて。」

これまでの備えでは対応しきれないことを実感したといいます。

大けがをした女性
「危ないと思って、子どもをとりあえず子ども部屋に入れて、この辺を閉めて自分が戻ろうとしたら、分からないうちに吹き飛ばされて。家にいれば大丈夫かなと思って。備蓄して家の中でおとなしくしようというつもりでいた。まさか家自体がやられるとは思わなかったので。」

なぜここまでの暴風が? メカニズム最新研究

なぜ今回の台風は勢力が衰えないまま、日本列島に上陸したのか。そのメカニズムが分かってきました。
台風の活動を研究している中野満寿男さんが注目したのは、台風21号を押し進めた風の状況です。上空と海上近くの風。この強さの差を「鉛直シアー」といいます。これが大きいと台風は形を崩し、その結果、勢力が弱まります。一方、小さいと台風は形を崩さず、勢力が保たれるのです。

今回のデータです。海上1,500メートルの風と、上空1万メートルの風から、鉛直シアーを求めました。青は、鉛直シアーが小さい場所。赤は、大きい場所です。台風21号は常に青い場所を通っていました。勢力が衰えにくい状況だったのです。

海洋研究開発機構 中野満寿男研究員
「鉛直シアーが小さいところを通ってきたので、非常に強い勢力まで発達した。(勢力が)弱まることなく日本付近までやってきた。」

“暴風直撃”の猛威 台風からどう身を守る?

武田:非常に強い勢力を保ったまま台風が上陸したのは、25年前の平成5年以来。今回、台風による死者は12人に上りました。従来の備えでは限界があることを突きつけています。

田中:私も今回、現地で取材をしましたけれども、映像を撮った人の中には、身の危険を感じたという方もいらっしゃいました。災害時は、どうぞ安全を最優先にしてください。
飛散物による被害から身を守るためには、竜巻と同じレベルの対策が必要だと専門家は言います。例えば、「ガラスが飛び散らないよう保護をする」、「ブラインドや雨戸をおろしておく」。そして「窓には近づかないこと」などです。

今回多かったのは、ベランダにあったはずのものがなくなっているという声でした。突風が窓に当たると、ベランダの底からものを巻き上げるような形で、外に飛び出していきます。自宅のベランダにあったものが、他人に危害を加えているのではないかと心配している方もたくさんいらっしゃいました。
そして台風の被害に悩まされてきた沖縄県では、台風が近づきますと、こんなCMが流れます。「とめる、しばる、かたづける、まとめる」。これは、ものを飛散させないための対策です。

さらに、飛散物で窓が割れることは、屋根が飛びやすくなることにもつながるというんです。

東京工芸大学工学部建築学科 松井正宏教授
「屋外からこのような風が吹いてきたときに、室内に空気が流れ込んできて、室内の圧力が高まる。非常に大きな力で屋根が持ち上げられる。そういう結果になって、屋根に損傷が生じる。風に対する意識もしっかり高めていかないといけない。」

田中:家の中にいても、危険な場合があります。専門家は、状況によりましては、事前に頑丈な建物や指定避難所に避難することが必要だと指摘しています。

武田:猛烈な風は、もう一つ深刻な事態を引き起こしました。関西空港を機能停止にまで追い込んだ「高潮」です。その新たな脅威が、映像に記録されていました。

高潮“都市直撃” 防潮堤こえ住宅街へ

視聴者が捉えた、高潮による浸水の映像です。

「うわー、あかん。」

勢いよく道路に流れ込む海水。今回の台風は、私たちが思い描く高潮のイメージを大きく変えました。

「これ、動画一回切りますね。やばい。」

撮影した住民は、圧倒的な水量にこれまでにない恐怖を感じたといいます。

三島博樹さん
「津波みたいな感じやった、押し寄せてくる津波ですか。」

今回、高潮が襲った地域には、防潮堤が築かれていました。高潮は、その防潮堤をいとも簡単に乗り越え、住宅街にまで押し寄せました。

なぜ、これほどまで大規模な高潮が発生したのか。専門家とともに分析しました。
まずは、風向きです。午後1時ごろ、東から吹いていた風が、午後2時には南からの風に変わり、大阪湾に吹き付ける形になりました。そして、風が強まり続け、過去最高を記録。そこに満潮に向かう時刻も重なり、潮位は一時、過去最も高くなりました。さまざまな条件が重なり発生した高潮は、巨大なエネルギーを抱え、住宅街に押し寄せていったのです。

早稲田大学教授(海岸工学)柴山知也さん
「(各地で)埋め立てをして新しい住宅地をつくることは行われてきたが、これまでの経験を超えるような台風が来たときには、被災することがありうると考えておく必要があると思います。」

“スーパー台風”で東京は?

もし、大規模な高潮が東京を襲ったら…。今年(2018年)3月、東京都は、スーパー台風と呼ばれる最強クラスの台風が上陸した際の被害をシミュレーションしました。
東京の3つの区では、9割以上が浸水。深い所では5メートル以上に達します。想定では、およそ250万人が、住んでいる区の外への避難を余儀なくされます。

東京都港湾局 課長 鈴木俊一さん
「こういう最悪の事態が起こる可能性があると、ぜひ受け止めていただいて、いざというときの皆さんの避難につなげていただけたらと考えています。」

地下空間 浸水の恐怖

さらに専門家は、最強クラスの台風でなくても、甚大な被害が発生する場所があると指摘しています。

東京大学大学院特任教授(災害社会工学) 片田敏孝さん
「やはり地下空間というのは、ひとたび水が流れ込んだ場合、すべて水に満たされてしまうという状況になりますので、被害が一挙に起こってしまうという状況になると思う。」

かつて、高潮と大雨の影響で地下が被害を受けた場所があります。平成16年、強い台風が接近した横浜です。当時、水が押し寄せたビルの映像です。周辺では地下にも流れ込みました。

居酒屋店主 飯田忠敏さん
「ここは地下だから分からないわけですよ、どんな状態だか。」

当時、地下の居酒屋で仕事をしていた飯田忠敏さん。外の状況が全く分からず、避難が遅れました。階段を上ろうとしても、流れ込む水で思うように体が動かず、地上に出るのは容易ではなかったといいます。

居酒屋店主 飯田忠敏さん
「怖かったね、いちばん怖かった、生きてきたなかで。ちょっと間違ったらもうアウトだったね。ざーっとくるから、上がっていけないわけじゃない。」

今できる対策は?

武田:取材にあたった頼富記者に聞きます。こうした高潮の被害、海に面した大都市であれば、どこでも起こりうると考えるべきなんですね。

頼富重人記者(社会部 災害担当):三大都市といわれる東京・名古屋・大阪、いずれも南側が開いた湾の奥に位置しています。例えば、この湾の西側を台風が北上しますと、暴風が湾の奥に吹き続けるということになります。そうしますと、その風によって海水が吹き集められるということなので、高潮が起こりやすい地形になっているわけです。

武田:そして、特に都市部の地下空間によるリスク、これは怖いですね。

頼富記者:対策も始まっていまして、VTRでもあった横浜市の地下街では、浸水する前に、危険が迫っていることを知らせるという取り組みも行われています。

川の河口付近にこのようなセンサーを設置して水位を捉え、その情報をもとに、地下街の防災担当者が利用者に避難を呼びかけるということも行っています。

横浜駅西口共同防管 荒卷照和さん
「浸水防止対策をやっている以上の水位が出てしまって、侵入してくる可能性もありますから、やはり人命安全第一となりますから、避難しかないと思うんですね。」

田中:危険が迫った場合、地下には近づかない、そして事前に避難をするということが大切ですけれども、例えば東京で、多くの人が一斉に避難するということはできるのでしょうか?

頼富記者:VTRでもありましたけれども、大きな浸水被害が予想される江東区など5つの区では、強力な台風が接近すると予想された場合には、「広域避難勧告」というものが出されます。そうしますと、対象のおよそ250万人の人が区の外に避難するということになります。ですが、その避難所というものは、今、現段階で行政が決めているというものはありません。親類とか知人の人を頼れる人はいいんですけれども、そのほかの人たちの、具体的な避難計画というものを作ることを加速させていく必要があると思います。

武田:そして強力な風を伴う台風は、今後、より増えると予測する研究もあります。

将来さらに強い台風が 最新研究からの警告

将来の気候予測を行う、山田洋平さんたちのグループ。スーパーコンピューター京(けい)を使って、温暖化の進行を想定した21世紀末、30年分のシミュレーションを行いました。
浮かび上がった映像です。より強力な風を伴うと予測される台風の発生は、6.6%増加。強風域の大きさも、10.9%拡大するという結果になりました。

海洋研究開発機構 山田洋平研究員
「現在よりも大きな強風域を持った台風が、強風災害を引き起こす要因になる。より信頼できる情報をつくれるような、精度の高いシミュレーションを行いたい。」

暴風 高潮の脅威 台風から身を守るには?

武田:こうした巨大な台風が次々と迫る時代に、私たちは今回、どんな教訓を学ぶべきなのでしょうか?

頼富記者:今回の台風は、強さでいきますと、気象庁の区分では上から2番目の「非常に強い」というランクです。今後は、その上のさらに強い「猛烈な」台風でありますとか、いわゆる「スーパー台風」というものも接近してくるという危険性も指摘されているんです。

武田:そうしますと、これまでの常識にとらわれない対策が必要ということになりますね。

頼富記者:個人のレベルで外に出ないということも、もちろん必要なんですけれども、専門家は、社会活動を一時的にストップさせるということも考えなければならない時代に入ってきているというふうに指摘しています。今回は、交通機関は事前に運休を決めたほか、会社とか学校のほうも休みにして、台風に備えるという動きも多く見られました。今後はさらに強力な台風というものが襲来するということが懸念されていますので、どこまで社会活動を止めて、台風に備えていくのかということを、事前に決めておく必要があると思います。

武田:災害が相次いでいます。私たち一人一人ができる備えを徹底すること、地域や社会ができる対策を見直すこと、今すぐ始めなければならないと感じます。