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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年04月08日 (金)

いまこそ「人と人とが共生する経済」への転換を。【経済評論家・内橋克人さん】②

では、今の社会を覆いつつある市場原理至上主義が、人間の尊厳や労働の報酬を奪い、どん底へ向けての競争―レース・トゥー・ザ・ボトム(Race to the bottom)が行われていく社会を形成しつつあるという状況に触れました。内橋さんはそれに対し、人々の連帯・参加・共生によって自給圏を形成する「FEC自給圏」を目指す地域づくりを提案します。FEC自給圏とは、食糧(Foods)とエネルギー(Energy)、そしてケア(Care=医療・介護・福祉)をできるだけ地域内で自給していく考え方です。後半では、そのために必要な3つの考え方をお話しいただきます。


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-- FEC自給圏の基軸となる考え方とは、どのようなものでしょうか。

内橋氏  第一に、 Think small first (シンク・スモール・ファースト)、つまり、小さき者、弱きものの利益と生き抜く権利を守っていこうということです。強き者、富を持つ者の利益を優先する政治ではなく、弱き者の利益をまず優先して考えていくことが、社会の中で共有する理念として大事なんです。

第二に、そうしたムーブメントに参加する人々の「使命共同体」です。共同体の種類には、ゲゼルシャフト(利益共同体)とゲマインシャフト(地縁共同体)という2つがあると言われますが、私は第3の共同体があると思っています。それは、協同組合やNGOなど、自らなすべき使命や役割、共同体としての価値観を共有する共同体です。私はこれを「使命共同体」と呼んでいます。コミュニティとは単なる地域社会ではなく、使命共同体でなければならない。そのような使命共同体を形成していくことが、FEC自給圏形成の基盤となっていくと思います。
第三に、「生存条件優位型社会」です。これまでは「生産条件優位型」の社会が長らく続いてきました。ものづくりのために、いかに効率的で合理的な社会を作るかを考えてきたのです。これは日本だけでなく世界中がそうです。貧しい時代には、まずものづくりがあって初めて生存条件がかろうじて保たれました。だから生産条件を優位にしなければならない。しかしやがて、生産条件を良くすれば良くするほど、人間の生存条件が悪くなってしまう時代に入ってきました。たとえば公害問題がそうです。私たちは今、生産条件と生存条件の関係を見直して人間の生存を優先する「生存条件優位型社会」を築いていかなければなりません。持続可能性をもつ社会とは、人間の生存条件を優位におき、生産条件はそれに従うという社会のことです。原子力発電やエネルギー問題も、人間の“生存条件”をまず第一に考える。そのような価値観を確立していかなければ、私たちの未来はありません。
弱きものを優先すること。使命を同じくする人々のコミュニティーを形成すること。そして、人々の生存を第一に考える生存条件優位型社会を作ること。この3つを基軸理念として、F、E、Cをそれぞれの地域社会で自給していく。そういう社会を築いていくべきでしょう。


-- E(エネルギー)に関して言われた廃棄物ゼロ社会について、いくつか具体例を紹介していただけますか。
内橋氏  ゼロ・エミッション、廃棄物ゼロの社会とは、グンター・パウリという人が唱え始めた概念です。Aという産業の廃棄物はBという産業の原料になり、Bという産業の廃棄物は、Cという産業の原料になる。これを永遠に回し続ける循環です。
たとえばビールを作るときに出る高たんぱく質の廃棄物は、今までヘドロにして埋め立てに使っていました。それを魚を育てる餌にして、ビール工場の隣に養殖の池を作る。魚の糞は、特殊な藻を繁殖させて吸収させる。そしてその藻を、作物を育てる肥料として使う。これ全部循環しているわけです。
あるいは古紙。日本は新聞インクを抜く技術がものすごく進んでますから、白い紙に戻すと同時に、パルプに還元できる。そのパルプを使って、たとえば合板を作る。これは遮音効果や遮温効果も高いんです。それからコーヒー。私たちはコーヒー豆を焙煎してコーヒーを飲むわけですけれど、実際には豆の0.02%しか使っていないらしい。あとは全部捨ててしまっていたのを、繊維の材料として再生させたり、肥料として使うことができるわけです。これからは、価値を高めるための“ものづくりの匠”が必要なんですよ。


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-- 価値を高めるとはどういうことでしょうか。
内橋氏 商品の価格は、安ければ安いに越したことはありません。しかし、安ければそれで良いのかと考える消費者は、増えていると思います。そうした「自覚的消費者」は、安さだけでなく、商品の価値を見ているのです。このような「自覚的消費者」をいかに増やすかです。
北欧諸国では、商品すべてにA、B、C、Dとラベルが貼ってあるんですね。Aは、値段は安いが製造技術が古いので、材料を浪費する。それを改良したのがBで、値段はちょっと高い。さらに改良したものはC。そして最も合理的、効率的に作られたものがD。これは、技術開発に要した費用を回収するために少し高いんですが、本当の意味で価値が高いものといえます。自覚的消費者は、少し高いけれどもエネルギーの消費効率がよくて大気汚染を出さないものを選ぶわけです。すると、それをモデルとして一般の消費者が選ぶようになり、Dが売れていく。そうやって、良いものに量産効果が発揮され、だんだんと安く作れるようになり、その商品がスタンダードになっていくわけです。そして、より価値の高い商品作りは、終わりがないわけです。また新たな技術革新がおこれば、またこのサイクルが動き出す。

-- 消費者の、消費行動を通しての参画が必要なのですね。
私は、複合巨大災害が起こった直後に東北に招かれて、お話ししたんです。何をお話ししたかというと「どうか声を上げてください」と。阪神淡路大震災で私の実家は倒壊して犠牲が出た。戦争の時にも神戸空襲の時、私の身代わりになった犠牲者があって、それで今日の私があるんです。だからいつもお願いするのは、どうか声を上げてくださいということ。阪神淡路大震災の後、被災者のための補償制度ができたのは、今は亡き小田実さんや私たちも一緒に国会の周りでデモしたりして声を上げたからです。東北の方々はあまりにも謙虚ですから、どうぞ声を上げてくださいとお願いしたんです。
そうしたら数名の方がおっしゃったんですよ、悲しそうな顔で。
「――よくわかりました、声を上げなければならないのはよくわかりました。しかしそれは私たちにはできないと。私たちは田んぼが流れても家が流れても、海があると思っていた。その海は津波の後、より豊かになると思っていた。その海からセシウムですよ。どうすればいいんですか」と私に話しかけられたんです、優しい声で。いまだに忘れることはできません。
そういうことを日本人は何度も繰り返してきた。戦前にもそうでした。私は子どもでしたが、覚えています。変わらない日本、変わらない日本人、それをどう変えていくか。FEC自給圏という生存条件の基礎を作り上げて、そのことによって日本人の意識改革ができるかできないか。

-- FEC自給圏作りは、被災地を始め、さまざまな地域で始まっていますね。
内橋氏 いま私たちは、経済政策という名の下に、競争へ競争へとかき立てられています。競争の全てを否定するわけではありませんが、一方で、日本の未来を考えた時、私たちはその逆も育てていかなければなりません。世界市場化に対抗できる主張、そして同時に運動性と事業性を両立させる必要があります。地域で始まっていることは単なる事業ではありません。生存条件を高めていく、そうした中で新たな産業、新たな社会を築いていく、そういう時代に向けて、変わっていかなければいけません。(終わり)


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内橋克人さん

1932年、神戸市生まれ。経済評論家。神戸新聞社記者を経て1967年にフリーとなり、経済、テクノロジー、医療など、日本が直面する様々な社会的課題の解決に向けた評論活動を続けている。著書に『匠の時代』『共生経済が始まる-人間復興の社会を求めて』『もうひとつの日本は可能だ』など多数。

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