ページの本文へ

やまがたWEB特集

  1. NHK山形
  2. やまがたWEB特集
  3. 山形ゆかりの医師 ガザ地区支え続ける“友人との絆”

山形ゆかりの医師 ガザ地区支え続ける“友人との絆”

  • 2023年12月21日

 

イスラエル軍による激しい攻撃が続く、パレスチナのガザ地区。
神奈川県に拠点を置くNPO「地球のステージ」は、およそ20年にわたってガザ地区の支援を続けてきました。このNPOの代表を務めているのが、山形大学医学部を卒業した医師、桑山紀彦さん。

多くの避難者が逃れている南部ラファにある公立病院に医薬品や食料品を搬入する新たな支援を決めました。原点にあるのは、‟友人との絆”です。

人間の活動の根本は"心の元気"

 

NPO「地球のステージ」代表 桑山紀彦さん

ガザ地区への支援を続ける、神奈川県海老名市のNPO「地球のステージ」。
山形大学を卒業した心療内科が専門の医師、桑山紀彦さんが代表を務めています。桑山さんが1996年に山形市で立ち上げ、ガザ地区や南スーダンなど過酷な環境で暮らす子どもたちの「心のケア」などの支援を行ってきました。ミャンマーや東ティモール、ウクライナでも活動を続けています。
主な活動は「心のケア」。現地の子どもたちが集まって、経験や思いを語り合ったり、絵を描くなどしてトラウマに向き合う取り組みです。
これまでに、のべ3000人の子どもたちと関わってきました。

人間の活動のすべては、心が元気であることが前提です。その根本を支えるのが「心のケア」です。

また、国内では、現地の状況などを伝える講演会を行っています。

1996年に山形市で初めて開催したのを皮切りに、これまでに学校など全国各地で4000回以上開いてきました。

ただ現地の状況を見ただけで終わっては、何も変わりません。見たものを誰かに伝える。伝わった人がまた誰かに伝える。人と人とがつながっていくことが世界をよくすると思っています。

『戦争』といっても自分ごととして捉える人は日本では少ない。他人事を自分ごとに変えるって本当に難しい。しかし、実は世界を変えていく一番の原動力だと思う。

講演という形で現地で起きていることを日本の人に伝え、停戦に向けた動きを少しでも後押しできるように民間の立場で活動を続けたい。

「心のケア」で出会った ガザ地区の少年との‟絆”

 

モハマッドさんと桑山さん

桑山さんが支援を続ける原動力となっているのは、‟ある出会い”でした。
ガザ地区の子どもたちの「心のケア」を20年前から続けるなかで、14年前に出会った、パレスチナ人のモハマッド・マンスールさん(27)です。

 

モハマッドさんが13歳のときに描いた絵

モハマッドさんは13歳のときNPOの「心のケア」を受けました。
「自分が住む街を描く」という内容で、モハマッドさんが描いたのは、色のない世界でした。

「なんで色を塗らないの?」とモハマッドに聞いてみたとき、すごい目で僕を見ながら「俺たちの街は空爆にさらされ、占領されているんだ。こんな目にあっている街に色はない」と答えた。

まっすぐに自分の意見を伝えてくるモハマッドを見て、「この子はすごい」と思った。

このあと桑山さんは、モハマッドさんと家族ぐるみでの付き合いを10年余り続けてきました。
この中で、モハマッドさんは、「何よりも怖いことは、飢えや渇きではなく、世界から忘れ去れることだ」と桑山さんに訴えました。

モハマッドは、どんなに厳しい戦争のなかにあっても、誰かとつながることで生きていけるということに気づいたんだと思う。彼は僕とつながることで生きる気力を得ている。僕は彼が伝えてきてくれたことを日本の人たちに伝えることで、モハマッドにお返しする。お互いが、命綱でつながっていると思う。

モハマッドさんは、大学を卒業後、NPOの現地スタッフとして働いていて、いまは南部ラファの学校での子どもたちの心のケアを担当し、支援物資の手配や映像の撮影なども行っています。

「最後のとりで」を守りたい ‟友”の訴え

 

マルワン院長と桑山さん

子どもたちの心のケアや医療支援などの活動で、ガザ地区をこれまでに40回あまり訪れてきた桑山さん。先月12日、14年の親交がある、南部ラファにある公立のナジャール病院のマルワン院長から、ビデオメッセージが届きました。

 

マルワン院長からのビデオメッセージ

「ラファの街と病院の状況は壊滅的で生活必需品は何もない。病院で使う物資の量も増え、医薬品や医療機器の必要性が高まっている。日本の人たちは常に私たちを支援してくれたし、医療であれ、救援であれ、皆さんからの援助を心から望んでいる」

マルワン院長は、鎮痛薬「トラマドール」や消毒液「ベタジン」、抗炎症薬「ケトロラク」など、戦闘や空爆でけがをした人の治療に使うための6種類の医薬品のほか、入院している人たちの食料品の支援を求めていました。

心の支援も重要ですが、命あってこその心じゃないですか。命が失われたら心も失われる。

命を守るべきだという視点に立った場合、病院は最後のとりでです。病院が機能していなければ、あとは死しかない。

マルワン先生のメッセージを聞いて、医薬品と食料品をナジャール病院に届けることを決めました。

医薬品や食料品は、ガザ地区への物資の搬入が限られる中、現地調達するほかありません。現地スタッフとして働くモハマッドさんと毎日メッセージアプリを使って連絡を取り続けている桑山さん。
モハマッドさんからのメッセージには、現地での物資の調達が、困難を極めていることが記されていました。

【モハマッドさんから届いたチャット】

今の状況はこれまでの戦争とは違い、水や食料など、生きるために必要なものが全くない。南部ハンユニス方面からの避難者がラファに逃れてきていて、小麦粉を2週間ほど探しているがほとんどなく、在庫を見つけても価格が12倍になっている。これほど悲惨な日々は想像もしていなかった。

さらに、今月15日のテレビ電話では・・・

 

桑山さんとモハマッドさんのオンライン通話の様子

状況は極めて悲惨で、ラファなどはことばでは言い表せないほど激しい空爆にさらされています。ナジャール病院の状況は極めて悪く、食料品と医薬品の援助を待ち望んでいる。

ガザ地区の人たちを救うための支援物資は数日のうちに運び込まれるだろう。ラファ検問所に加えて、別の検問所からも入れるようになる。

NPOは当初、今月10日に支援物資をナジャール病院に搬入する予定だったものの、ラファの物価がふだんの10倍以上に高騰し、医薬品や食料品の確保が難航していることから搬入の時期をいったん見送りました。その後、今月15日に改めて搬入しようとしましたが、現地は激しい戦闘や空爆でけがをした人や避難してきた人などで混乱していたため、ふたたび、延期を余儀なくされました。

消毒液や麻酔薬、鎮痛剤を使って手術ができるような環境づくりに励みたい。
友達から頼まれたことは守らねばならない。

医薬品や食料品は、国内からの寄付や、日本のNPOやNGOの活動を支援している「ジャパン・プラットフォーム」からの資金あわせて700万円ほどを使って購入するということです。NPOでは、今月下旬に医薬品や食料品を搬入したいとしています。

モハマッドさんと描く未来

 

モハマッドさんが14歳の時に描いた絵

モハマッドさんが14歳の頃に描いた絵です。お題は「夢」。
描かれていたのは、日の丸が掲げられた船と離陸・着陸する飛行機。
モハマッドさんは絵を描いた当時、「ガザから出たことはないが、外国人に自分たちのことをもっと知って欲しい。自分に一番近い外国人は桑山さんだから、日本に行きたい」と伝えたそうです。

モハマッドの一番願いは停戦・平和ですが、もう1つ望んでいるのは、自由に日本に遊びに来られる日です。その夢をかなえてあげたい。

日本では、話したことが、頑張ればすべて叶うというような幻想がある。しかし、頑張っても手に入らない世界を見てきているし、そこに生きる人たちを知っているので、モハマッドが本当に日本に来られる日がくるかどうかはわかりません。しかし、私は諦めません。諦めないことが、唯一、モハマッドに対する正義だと思っているからです。

桑山さんとモハマッドさん、マルワン院長は、固い‟友人との絆”でつながっています。

 

取材後記

困難な状況でも支援することを諦めない桑山さん。取材を通じて、根底には、モハマッドさんやマルワン院長といった‟大切な友達を放っておけない”という気持ちがあると知りました。

桑山さんが今も大切にしているのは『一番怖いのは、飢えや渇きではなく、世界から忘れ去られることだ』というモハマッドさんのことば。桑山さんは「伝える」活動にも力を入れています。私たちにできることは限られているかもしれませんが、「思いを寄せ続けていくこと」が、現地の人たちにとっての希望につながるのだということ、「決して他人事ではなく、誰でも、どこにいてもできることはある」ということを改めて強く感じました。

動画はこちらから👇

  • 永田哲子

    NHK山形 記者

    永田哲子

    2020年入局
    警察担当・米沢支局勤務を経て2023年から行政担当
    保育士資格保持。
    自然・文化・歴史など置賜地方の魅力を深く知り、山形がもっと好きになりました。
    おしょうしな~!

  • 山田真夕

    NHK山形 アナウンサー

    山田真夕

    2021年入局。
    山形が初任地。
    NHK山形夕方のニュース『やままる』のキャスター。
    「防災」や「戦争・平和」などのテーマを中心に県内各地の話題を幅広く取材。

ページトップに戻る