紀州漆器の魅力を伝えたい ~漆器の新たな可能性に挑戦~
- 2023年12月07日
400年以上の歴史を誇る、和歌山県海南市の伝統工芸品「紀州漆器」。
漆塗りの美しいおわんや皿など、使うほどに光沢が増し、長く使えるのが特徴です。
伝統の紀州漆器の魅力を知ってもらい、もっと使ってもらいたいと熟練の漆器職人が作ったのは、和歌山ならではの「あるもの」を使った漆器です。
(和歌山放送局 報道カメラマン 小笠原誠吾)
【海南市黒江の町並み】
“紀州漆器の町”海南市黒江です。漆塗りで栄え、歴史を感じる町並みが残っています。
海南市黒江で生まれ育った、漆器作りの「伝統工芸士」林克彦さん(はやし・かつひこ)です。
林さんはおわんや箸などの食器や茶道具など、生活に彩りを添える漆器作りに40年以上取り組んでいます。
林さんはことし11月、ものづくりの分野で特に優れた技能を持つ「現代の名工」に選ばれました。
【新たな挑戦】
林さんは漆器独特の光沢や美しさ、そしてぬくもりをもっと知ってもらいたいと、芸術性のなかに遊び心を取り入れた漆器作りにも取り組んでいます。
漆器の新たな可能性を求める林さんの挑戦です。
そこで目を付けたのは地元“和歌山のみかん”です。手に取りやすい形を求め、5年以上かけてさまざまな「かんきつ類」を試した結果、たどりついたのが皮に厚みがあって大きさもある“はっさく”でした。
林克彦さん「地元の素材を使ってものづくりができないかと考えていた時に出会いました。従来の漆器にとらわれず、いろんなものを作っていきたい。」
【はっさくを使った漆器作り】
はっさくを半分に切って中身をくりぬき、皮は水分がなくなるまで2か月ほど乾燥させます。
器の形は乾燥するまで分からず、熟練の林さんでも自然に任せるしかありません。
乾燥させたはっさくが林さんの納得する器の形になるのは半分ほどだといいます。
【漆を塗り重ねる】
湿り気が帯びないよう、天気のよい日に漆の下地を塗り重ねていきます。
下地を塗って4か月たつと、ようやく器を彩る赤や緑の漆を塗る作業になります。
この作業に、林さんが培ってきた精巧な技が込められています。
林克彦さん「漆は5~6回塗るとみかんの皮の持つ風合いがなくなるので、3回か4回できれいに塗ってみかんの皮の風合いを出すのが難しい。」
【世界にひとつの“みかん盃”】
半年以上かけて作られる漆器には林さんの熟練の技が詰まっています。
それが“みかん盃(はい)”です。1年に30個ほどしか作ることが出来ないそうです。
手ざわりは“みかん独特の質感”があります。
林克彦さん「ひとつひとつ手作りで作っているというのと、同じ形のものができないので“世界にひとつしかない器”というところが魅力です。」
【漆に模様を描く体験教室】
林さんは紀州漆器の魅力を広めたいという思いから、制作のかたわら器に模様を描く体験教室を開いています。
林さんは体験教室に訪れた人たちに、漆器を手に取ってもらい、色彩の美しさや使えば使うだけ違った味わいが楽しめることなどを伝えています。
【体験教室の最後にみかん盃を紹介】
「ご当地ならではのみかんの漆器ができるなんてすごい。」
「初めて見ました。体験に参加して“みかん盃”があることを知りました。実用性もありそうでいいなって思いました。」
林克彦さん「とにかく自分が作ったものを手に取って見てもらいたい。漆器を日常生活の中で使ってもらって、伝統の良さを知ってもらいたい。“また使ってみたい”と思う漆器をこれからも作っていきます。」
【取材後記】
林さんが「和歌山を代表するみかんだからこそ、この“みかん盃”が誕生した」と力強く語って下さったのがとても印象的でした。
古くから伝わる伝統の漆塗りの技法を大切に守りながら、新しいものを生み出す林さんの挑戦は、いまの時代になくてはならないものだと感じました。