みかんの産地で あの南国フルーツが!?
- 2023年12月11日
和歌山県有数のみかんの産地、海南市下津町。
およそ800軒の農家がみかんの栽培をしています。
みかん畑が広がる下津町に、実は“ある中南米原産のフルーツ”を栽培している農家があります。
そのフルーツには“地域を盛り上げたい”という思いが込められています。
(和歌山放送局 報道カメラマン 柏瀬利之)
《みかんの産地であの果物?》
青々とした葉が生い茂る、およそ15メートルの高さの木から、長い竿を使って収穫するのは15センチほどの緑色の実“アボカド”です。
11月、収穫の最盛期を迎えていました。
農家の橋爪道夫さん(73)と妻のよう子さんは35年ほど前からアボカドを育てています。
いま農園には30本のアボカドがあり、10月下旬から11月下旬にかけてアボカドの実の収穫が行われます。
【すずなりのアボカド】
1本のアボカドの木からは“およそ1000個”もの実が収穫できます。
橋爪さんが育てているのは「ベーコン種」と呼ばれる品種で、クリーミーで濃厚な味が特徴です。
橋爪道夫さん「収穫の時が一番うれしいです。それ以外の作業は大変ですが、収穫しているとこれまでの疲れが吹き飛びます。」
国内で流通するおよそ9割が輸入のアボカド。
なぜ海南市で栽培されているのか?背景には「地域を悩ます」課題がありました。
《アボカド栽培のわけ》
海南市下津町は、県内有数のみかんの産地として知られていますが、農家の高齢化と後継者不足を抱えています。
橋爪道夫さん「みかん畑の耕作放棄地が年々増えていてます。みかんの段々畑も耕作を放棄すると3~4年で森のような雑木林になってしまいます。そんな風景をみるのはさびしいです。」
年々増える耕作放棄地をなんとか出来ないか。
地域の現状を変えたいと橋爪さんは新たなフルーツ栽培に挑戦しました。
失敗を繰り返しながら、たどりついたのが下津町の温暖な気候を生かすことの出来る“アボカド”の栽培でした。
橋爪道夫さん「耕作放棄地になった所を開拓してアボカドを植えました。地域の若い人にも作ってもらって、下津町の新たな特産品として胸を張って出せるようにやっていきたいです。」
一緒にアボカド栽培に取り組む仲間を増やそうと、橋爪さんは苗木も育てています。
橋爪さんの地域を活性化させたいという思いが広がり、いまでは10人ほどがこのアボカドの苗木を植えて栽培しています
《アボカド栽培は自然との闘い》
橋爪さんはこの35年で100本を越えるアボカドを植えてきましたが、いまも自然との闘いが続いています。
これまでに植えた木のおよそ半数が大雨による根腐れで枯れてしまったのです。
橋爪道夫さん「最近は強烈な雨が非常に増えています。木の根が24時間水につかると呼吸ができなくなって枯れてしまいます。30年以上かけて育てて大木になって枯れてしまう木もあって、非常に残念です。」
《大切な一本のアボカドの木》
農園のかたすみに橋爪さんを勇気づける1本のアボカドの木があります。
30本の苗木を植えて始まったアボカド栽培。
橋爪さんが案内してくれた先にあったのは最初に植えて”いまも残るアボカドの木”でした。
その木は20年前の台風の強風で倒れてしまい、枯れてしまうと思われました。
しかし気がつくと根元から新たな芽がでているのを見つけたのでした。
それから20年、再び立派なアボカドの木に成長したのです。
橋爪道夫さん「倒れた時はもうだめかと思いました。こうやって復活してくれて、すごいなと思いました。枯れないぞ、頑張ってるんだぞという生命力を感じます。」
橋爪道夫さん「この木は自分の歴史ですね。いろんな失敗を繰り返してきましたが、その失敗が糧になっていくのだと思います。」
橋爪さんの思いのつまったアボカド。最後に夢を話してくれました。
「果物王国として知られる和歌山ですが、その中でも下津町、そして海南市が、アボカドなどの“トロピカルなフルーツもあるよね”と言ってもらえるようになったらいいなと思います。」
【取材後記】
橋爪さんはアボカドのほかにも「ピーカンナッツ」と呼ばれるクルミに似た木の実の栽培にも取り組んでいます。「ピーカンナッツ」はこれから収穫の時期を迎えるそうです。橋爪さんは季節ごとに「南国の味」を楽しんでもらいたいと笑顔で話してくれました。
新しいアイデアで地域の課題を解決しようと挑戦する橋爪さんの輝く目と力強い姿がとても印象的でした。