大衆演劇で地域の魅力を伝えたい ~劇団存続をかけた団員たちの挑戦~
- 2023年12月26日
和歌山の文化や歴史を、演劇を通じて知ってもらおうと活動する劇団が、和歌山県海南市にあります。
地域を盛り上げようと奮闘する団員たちを取材しました。
(和歌山放送局 報道カメラマン 川口和徳)
【『恋のから傘』の公演】
11月18日、「劇団紀州」(げきだんきしゅう)の公演が行われました。
演目は、海南で実際にあった逸話をもとに創作した『恋のから傘』。
芸者と傘問屋の番頭とのかなわぬ恋を描いた大正時代の物語です。
【劇場 すわん江戸村】
海南市且来(あっそ)にある劇場「すわん江戸村」。
劇団紀州はこの劇場を拠点に、6人の団員で活動しています。
【団員を指導する市川昇次郎さん】
劇団代表を務める市川昇次郎(いちかわ・しょうじろう)さん。
地元・海南市出身で、長年、大阪を拠点に舞台俳優として活躍してきました。
昇次郎さんが劇団紀州を立ち上げたのは20年前。
以来、忠臣蔵や水戸黄門などの「時代物」を中心に上演し、さらに全国での巡業も行ってきました。
昇次郎さんは、舞台の魅力について「お芝居は一発勝負で映画みたいに撮り直しがきかない。
そこにだいご味があるのではないか」と話します。
【コロナ禍で公演が休止に】
順調だった劇団を襲ったのがコロナ禍です。
1年以上にわたって公演が休止となり、劇団は解散の危機に見舞われました。
どうしたら劇団を存続できるか。
昇次郎さんはこれまで以上に地域のお客さんを大切にし、「地元に愛される劇団」を目指すために、海南市の文化や逸話を作品に取り入れることにしました。
昇次郎さんは「劇を通じて海南や和歌山の歴史や魅力を多くの人に知ってもらえればうれしい」と話します。
【稽古の様子】
公演を前に団員たちは『恋のから傘』の稽古に励んでいました。
この劇には和歌山弁がふんだんに使われています。
しかし、6人の団員のうち4人が県外出身。細かなニュアンスの習得は簡単ではありません。
【和歌山弁が書き込まれた台本】
埼玉県出身の団員が見せてくれた台本には『当たり前やいしょ』、『わだわだ』など、
和歌山弁に直されたセリフがびっしりと書き込まれていました。
【公演当日の客席】
劇場には以前のようなにぎわいが戻ってきています。
芝居の序盤は、登場人物たちが、和歌山弁での軽妙なやりとりで観客の笑いを誘います。
【一番の見どころ】
そしてクライマックス。
ヒロインの芸者と芸者が思いを寄せていた客との別れの場面です。
客席には涙を浮かべる人の姿も。観客は海南に伝わる悲恋の物語に見入っていました。
【観客】
終演後、観客からは「あんな恋があったんだと初めて知って、すごく感動しました」とか
「私たちの地元のことを広めてもらえてうれしいです」といった声が聞かれました。
【市川昇次郎さん】
「地域密着の演劇を続けることで、親近感を持ってみんなに愛される。これが“すわん江戸村”のいいところだと思っています。今後も和歌山にまつわる作品を上演していきたい」と昇次郎さんは熱く語り、公演に手応えを感じていました。
演劇で地域の魅力を発信する「劇団紀州」。団員たちの挑戦が続きます。
【取材後記】
演劇を見たみなさんの笑顔が印象的でした。
その“笑顔”を見て、芸に対する団員たちのまっすぐな気持ちが、観客のみなさんに伝わっていると感じました。
劇団紀州は、2024年の春には海南市黒江(くろえ)に新たな劇場を設ける予定だということです。
昇次郎さんはさらに海南市を盛り上げていきたいと話していました。