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文豪にとって机は、切っても切れない相棒です。 |
壱のツボ 夏目漱石「手のひらで愛(め)でた紫檀(したん)の光沢(つや)」
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夏目漱石が『坑夫』から絶筆となった『明暗』まで、その創作のほとんどをともにした机です。 |
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天板や「束立(つかだて)」と呼ばれる装飾部分は、飴(あめ)色の光沢をたたえています。 |
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神奈川近代文学館に展示されているレプリカを製作した創作家具職人の安藤和夫さん。 安藤「見た目のデザインではなく、手で触るデザイン。 1つ目のツボ、 |
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紫檀は中国では古くから高貴な人たちの楽器や調度品に用いられ、重くて硬く、希少なため「木のダイヤモンド」と呼ばれています。 |
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漱石は紫檀をこよなく愛しました。 |
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夏目漱石の研究者、元立教大学教授の石崎等さん。 石崎「漱石の小説には、小道具として紫檀のものが多く出てきます。 |
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紫檀の独特の美しさは、工房の中で生み出されます。 |
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そして、粗さの違う5種類のやすりを使って表面を磨くと紫檀特有の赤みを帯びた艶(つや)を放つようになります。 |
大阪唐木指物協同組合の理事長、出口史郎さん。 出口「緻密(ちみつ)な木だから表面を磨き上げて、緻密な部分を引き出すことですごく良い光沢がでる。」 |
そして、その光沢は、手で触り、指で磨くことによってさらに増していきます。 |
弐のツボ 谷崎潤一郎「古色蒼然(そうぜん)に心和む」
谷崎潤一郎が晩年に使っていたのが、この風格ある大きな机。 |
谷崎潤一郎記念館の学芸員、井上勝博さん。 井上「(谷崎は)美しいものが大好きだったけど、耽(たん)美主義といわれた若いころの作風からすると、(この机は)ちょっと渋い。」 谷崎は使い込まれた時代の味わいに美を見いだしていました。 2つ目のツボ この机はかつて歴史小説の大家、吉川英治が使っていたものでした。 |
吉川英治の長男、吉川英明さん。 吉川「起きると真っ先に机に座る。母が洗面器に歯ブラシ、うがいの水を持っていく。(机の上で)顔を洗って歯を磨いて、片づけてもらって朝食をして、そして仕事をする。(机が)生活の場でした。」 吉川が食事から執筆までともにした机を、谷崎は一目で気に入り、譲り受けました。 |
机は、文豪から文豪へと使い継がれる中で根来塗の独特の味わいを重ねていきます。 |
最後に、朱の漆を薄く1度。 |
根来塗師、角田妙裕さん。 角田「使っているうちに下の黒が出てくるのが美しい。 古くなっていくほど美しさが増す。」 |
谷崎の机も、ところどころ黒漆が浮き出しています。 |
参のツボ 萩原朔太郎「机に理想郷を求めて」
生まれ育った故郷を嫌い、都会に憧れ続けた萩原朔太郎が特別に作らせた机です。 |
朔太郎は自宅のみそ蔵を書斎に改装し、机を置き創作に励みました。 |
セセッションとは、分離派とも呼ばれた芸術運動。 3つ目のツボ |
ヨーロッパへの憧れが詰まった机ができるのを心待ちにしていた様子が日記に書き残されています。
「机と椅子がやつと出来てきた。(中略) しかし、朔太郎は、東京音楽学校に入ろうとしたり、西洋に留学しようとしたりしますが家族の反対に遭い、人生の目標を見つけられず迷いの中。 |
前橋文学館の学芸員、津島千絵さん。 津島「自分の詩は郷愁を追い求める、と書いていますが、一般に故郷を懐かしむ郷愁とは違います。 朔太郎の郷愁とは、自分の理想のイメージに近づきたいけど得られない。ここではないどこかを追い求める、そんな気持ちなのです。」 |
セセッションの机は、朔太郎は遠くへいざなうものであると同時に、かなわぬ夢を巡らせる場でもあったのです。 |
今回は、読書の秋にぴったりなテーマでした。
この物語があの机で生み出されたのか~、
と思いながら本を読むと、また違った味わいがありそうですよね。
どの文机も、文豪の個性や趣味を感じさせるすてきな物でした!
それにしても、今やすっかりデスクと椅子の生活スタイルに慣れてしまうと、文机は新鮮で魅力的に感じました。
どんな姿勢で書いていたのかしら。
あぐらをかきながら?それとも正座しながら?足を思い思いにくずしながら?
座るときの姿勢も、文豪それぞれだったのでしょうね。
実は今回のナレーション収録、苦労しました~!
文豪や妻たちの書いた文章を朗読する部分が、結構あったのです。
あの文豪はどんな声だったのかな~・・・当時のことばの言い回しはこれで良いのかな~・・・などと考えながら向き合いました。
そのあたりも、ぜひ注目(注聴?)して下さい!
楽曲名 | アーティスト名 | 使われた場所 (番組開始後) |
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Moanin' | Art Blakey & The Jazz Messengers | 0分2秒 |
Isn't This a Lovely Day? | Ella Fitzgerald & Louis Armstrong | 1分16秒 |
8 Humoresques, Op. 101, B. 187 | Steven Mayer | 2分39秒 |
Bird Of Paradise | Charlie Parker/Miles Davis | 3分49秒 |
Fraulein, wie war's | Peter Igelhoff | 5分48秒 |
Minuit Aux Champs Elysees | Herbie Hancock | 6分35秒 |
September Song | Chet Baker | 10分12秒 |
Yesterday | Mal Waldron | 12分14秒 |
There's No Greater Love | Richard Davis | 14分17秒 |
A House Is Not A Home | Bill Evans Trio | 14分58秒 |
Mika | Eli Degibri | 17分27秒 |
Adrlatica | Dusko Goykovich | 19分2秒 |
Dance Of The Octopus | Klaus Lessmann | 20分35秒 |
Well, You Needn't | Kronos Quartet | 20分58秒 |
You Do Something to Me | Larry Goldings | 22分28秒 |
You Do Something to Me | Larry Goldings | 23分31秒 |
Espiegle | James Galway & Tiempo Libre | 23分51秒 |
Romantique | Classic Jazz Quartet | 25分19秒 |
The Inner Child | Lars Jansson Trio | 26分57秒 |
Jelly Roll Medley | Klaus Lessmann | 28分36秒 |