この番組で草刈正雄さんがご出演の場面は、ある個人宅をお借りして撮影しています。昭和の初めに建てられたお家で、正面はスパニッシュ・スタイルの洋館ですが、奥に和館がつながっているという、いかにもこの時代らしい設計。内部も、細かいところまで意匠が凝らされており、お邪魔するたびにいろいろな発見があります(一般には公開されていません)。
谷啓さんがご出演のころは、さらに古い日本家屋をお借りしていました。江戸時代にさかのぼるという富農の屋敷です(こちらも公開されていませんが、映画やCMの撮影にも使われることがあるので、お気づきの方もいらっしゃるのでは)。どちらの家も、隅々まで家族の歴史が染み付いているようで、慌ただしい収録の合間にも、ふと厳粛な気分にさせられる瞬間があります。人格ならぬ〈家格〉が、立ち現れてくる感じとでもいうのでしょうか。
私ごとですが、親が転勤族で、住まいに家族の歴史を刻むというようなことと縁がなかったせいか、子供の頃から古い家にとても興味がありました。小学校の裏にある傾いたような洋館に、一体どんな人が住んでいるのか、窓から覗いてみたい衝動にかられたものです。大人になってからは、短期間ではありますが、築120年の古民家に住んだことも。
古い家は通りすがりの人間をも懐かしい気持ちにさせますが、その〈家格〉には、どこかいかめしく、恐ろしげなところもあります。なにしろ、たくさんの人生を見届けてきた家たちですから。大地震や戦争や高度経済成長を経てきたこの国では、そんな古い家の存在自体が、きわめて貴重なものになりました。そのうち〈古い家〉をテーマに番組を作ってみたいとも思っています。
(美術映像プロジェクツ・プロデューサー 高橋 亘)