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元気を取り戻す新たな居場所

不登校の子どもたちが集まる”フリースタイルスクール”
  • 2023年08月29日

NHK富山アナウンサーの岩﨑果歩です。
夏休みが明け、2学期が始まったという人も多いのではないでしょうか。
早く学校に行きたかったという人もいれば、ずっと夏休みが良かったという人もいるかもしれません。

学校が再開するこの時期は、子どもの自殺や悩み相談の件数が増える傾向にあります。
何かしらの理由で学校に行けないことを自分一人で抱え込んでいる人がいるのではないか。
何とかして学校に行かせなきゃと葛藤している親御さんがいるのではないか。

そんな思いを持って、生きづらさを抱える子どもたちの居場所を取材し始めました。
今回ご紹介するのは、ことし4月に新たにオープンした不登校の子どもたちが集まる場所です。

一軒のカフェから始まった子どもの居場所

富山県西部・砺波市の山あいにある、築40年ほどの民家。 
毎週月曜日から水曜日には、午前中から子どもたちの声が響きます。 

多くは“学校”という環境になじめず、ここに集まってきました。 
決まったルールの中で生活することにつらさを感じた人たちです。

運営するのは、教育現場に携わってきた2人。

Ponteとやま代表理事 水野カオルさん

水野さんは21年間、公立学校の教員を務め、
現在は県内の小学校と高校でスクールカウンセラーをしています。

Ponteとやま理事 加藤愛理子さん

加藤さんは盲学校の教員を務めたのち、長年フリースクールの講師として活動していました。

始まりは2人が9年前に開いたカフェでした。
自分自身の親の介護で悩んでいた加藤さんには、介護をする人が集まって情報交換できる場を設けたいという思いがありました。
介護者が集まる”ケアラーズカフェ”として活動を始めましたが、だんだんと、カウンセラーや教員の経験が豊富な2人を慕って“学校に行けない子どもたち”が集まるようになりました。 

はじめは数人でしたが、次第に小さなカフェでは受け入れが難しくなるほど大勢の子どもたちが集まり、新型コロナで密を避けなくてはいけない事態になりました。

「居場所を求める子どもたちがもっと伸び伸びと過ごせる場所を作りたい」 
ことし4月、カフェの近くで空き家を借り、新たな拠点をオープンしたのです。

名前は…”フリースタイルスクール”

ここで大切にしているのは、 “枠組みを設けないこと”です。
 椅子に座って勉強をすることも、 決まったプログラムに取り組むこともありません。 

ひたすらゲームをしている人もいれば・・・

得意のピアノを披露する人もいます。

自由に過ごす中でそれぞれがやりたいことを見つけてほしい、 
そんな思いで“フリースタイルスクール”と名付けたと言います。

水野さん

来ている子どもたちっていうのは、やっぱり学校という枠組みの中でうまくいかなかった人。息苦しいなと思う子たちとか、あるいは学校の流れに乗れないなという子たちが多いので、一回そこを取り払って本来の子どもたちの元気なところを
もっと耕してあげたいなと思ったんです。

学校のルールが苦しかった

このフリースタイルスクールに、富山市から1時間ほどかけて通っている人がいます。
小学6年生のこうたろうさんです。 

電車が走っているレールの音とか機械の音が好き。
電車が好きだから行き来の時間は苦痛じゃない。逆に楽しく感じる。

こうたろうさんは2年生のときから学校に行くのが難しくなりました。

こうたろうさん

学校の中のルールが苦しかった。あとは給食が苦手で、自分の量が決まっているから結構食べづらかった。友達には「少しだけよそって」って言ったりもするけど、その子の少しは自分にとっては大盛だった。みんなと同じ量を残さずに食べなきゃいけないって思うのがつらかった。

母親の里奈さんは、学校に行かせなくてはという葛藤があったと言います。

母・里奈さん

自分が子ども時代にはあまりそういうことを思ったことがなかったので、
まずびっくりしたのと、こういう未来は自分の中で予定していなかったので、
この先どうしたらいいんだろうなと。学校に行っていないと将来どうなってしまうのかなとか、勉強もついていけなくなってしまって、ちゃんとゆくゆく進学とか就職ができるのかなとか、
人付き合いとかコミュニケーションもうまく取れなくなるのかなとか、
そういうことをすごく考えて悩みました。

年間30日以上の欠席が不登校とされる中、
1年前は、1学期だけの欠席日数が24日になっていました。

学校に行けなくなってから2年間、専門家に相談したり、他の施設を見学したりして、最後にたどり着いたのが、いま通うフリースタイルスクールだったと言います。

里奈さん

本人がここだったら通えると思うって言ったので、その言葉を信じてみようと思いました。朝お互いが「今日休むの?どうするの?」ってそういうことを言い合うこともなく、険悪な雰囲気もなく、ただ時間とともに朝の時間が流れて、
「行ってきます」「行ってらっしゃい」と言えるのがすごくうれしいです。

意欲的な活動は出席扱いに

自分でやりたいことを見つける”フリースタイルスクール”。
多くの子どもたちがゲームをする中、こうたろうさんは昼食作りを手伝います。

こうたろうさん

料理はまぁまぁ好き。ゲームはあまりしないかな。
ご飯の炊き方とかはここに来て教えてもらった。

自宅でも、ご飯を炊いたり味噌汁を作ったり、積極的に手伝うようになったと言います。
 

水野さん

その日どうやって過ごすかを決める、小さいことですけど食事の量とか自分で決める。自分の考えがない人なんていないと思うんですよ。自分で考える、そして決める。自分で考えて決めたら責任も取れますでしょう。

こうたろうさんが意欲的に調理に取り組む様子や仲間との関わりは小学校にも伝えられていて、
学校はここに通う日を出席日数として認めています。

里奈さん

学校に行っているときは、たぶんあまり楽しくなかったからだと思うんですけど、こんなことがあった、あんなことがあったって話はしなかったんです。でも今だったらフリースタイルスクールでこんなことあったとか、〇〇さんとこんな話したとか、そういういろんなことを楽しく伝えてくれるのは、変わったところですね。
今はただ元気に生きてもらえればそれでいいのかなって思っています。

「学校だけじゃないよ」

こうたろうさん

ここはもうひとつの学校かな。学校に行ってるんだな、同じになってるんだなって思ったら、
さらに行きやすくなった。学校行けない人は学校だけじゃないよって伝えられるかな。

Ponteとやま代表理事 水野カオルさん

いま学校に行けなくなったからといって、大人になれないわけでもないし、すごく怠けたダメな人間になるわけでも決してないということは、ここにいる若者たちが証明してくれているので、そういうことも発信していきたいなと思います。

取材の中で、こうたろうさんの母・里奈さんの「元気に生きてもらえればそれでいい」という言葉がとても印象に残りました。
このフリースタイルスクールは、ひと休みして本来の元気を取り戻す、そしてもう一度前を向いて歩くことができる、子どもたちにとってそんな場所になっているのではないかと感じました。
学校に行きたくないと悩んでいる人、そしてその親。多くの葛藤を抱えている人がいると思いますが、居場所は必ずあるということを伝えられたら幸いです。

  • 岩﨑果歩

    アナウンサー

    岩﨑果歩

    ニュース富山人キャスター

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