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香川の高校生が挑戦!「キノコを食べるタイ」のブランド化

  • 2023年10月03日

さまざまなブランド魚を開発してきた多度津高校。今回取り組んだのは「キノコを食べるマダイ」です。出荷までおよそ2年。ブランド化を目指す高校生の挑戦を追いました。

キノコ×マダイ 高校生の挑戦

去年12月、訪れたのは瀬戸内海にある多度津沖の生けす。中には縦横無尽に泳ぎまわる魚群が見えました。その正体はマダイ。育てているのは香川県で唯一水産科がある多度津高校の海洋生産科の生徒たちです。およそ5メートル四方の生けすで200匹ほどを養殖しているといいます。

この日は2年生(当時)がマダイにエサやり。船で沖まで移動し、海に浮かぶ生けすに乗ってエサをまきます。生徒にエサを見せてもらうと、見た目や色は市販のものと変わりません。いったいキノコはどこにあるのか。マダイのブランド化を目指す生徒の1人、西川永遠さんに聞いてみると聞き慣れないことばが返ってきました。

西川さん

キノコの「菌床(きんしょう)」がエサに入っているんです。

キノコの「菌床」とは何なのか。実物を見せてもらいました。

ボトル状の容器を持つ西川さん。
キノコの部分を取り外し、容器の中をこちらに向けてくれました。

キノコの菌床とは、栽培されるキノコが成長する土台となる部分です。細かく砕かれた「トウモロコシの芯」や「米ぬか」といった穀物などでできています。中には菌糸が入っていて、キノコの成分がたっぷり詰まっているといいます。

多度津高校では、この「菌床」を食べるマダイとして、およそ2年前からブランド化に着手。西川さんたちの代でようやくめどがたちました。

ブランド名は、その名も「健康キノコ真鯛」。西川さんは自分たちでブランド化することへ期待を寄せていました。

西川さん

貴重な機会だと思っています。普通に高校生活を過ごす上で、自分たちでマダイを育ててブランド化するということはないと思うので楽しみです。

なぜ「キノコ」?

そもそも、なぜマダイのエサにキノコを使おうと思ったのか。きっかけは、県内でキノコを栽培するキノコ生産大手からの相談でした。

西川さんたちのもとを訪れたキノコ生産大手「ホクト」の濵野明孝さん。県内にある会社の工場で、キノコの収穫後に出る「菌床」の活用を模索していたといいます。

1日およそ70トン出る菌床にはキノコに含まれるさまざまな栄養素が詰まっています。
これまでは、主に農作物の堆肥として利用されてきました。濵野さんは、近年価格が高騰している魚の養殖用のエサとして使えないかと思い、サーモンやサヨリなどさまざまな魚の養殖・ブランド化に成功してきた多度津高校を訪ねました。

濵野さん

高校生の発想からすごくおもしろいものができるんじゃないかと思いました。

高校ではさっそく実験を開始。すると意外な発見がありました。
市販のエサと菌床を入れたエサの2種類を高校で育てていたタイに与えて成長を観察すると、菌床入りのエサを与えたタイは、病気にかかって死ぬ割合が低い結果になったのです。

生徒や教諭たちは、菌床に含まれる免疫力を高める成分、「βーグルカン」によるものではないかと仮説を立てました。

さらに、費用面で期待も。市販のエサに添加物として含まれるビタミンなどが、菌床にはもともと含まれていたため、添加物にかかるコストを抑えて、より安いエサに出来ると考えたのです。

課題も カギは「発酵」

試行錯誤を続ける中で、菌床の弱点も見つかりました。

菌床にはたんぱく質が少ないため、菌床入りのエサを食べたマダイの身が増えづらい結果となったのです。

十分に身を付けられるようエサに含まれるたんぱく質をどう増やせばいいのか。生徒たちが仮説をもとに取り組んだのが「発酵」です。

発酵前の「菌床」

菌床を発酵させて温度を上昇させると、微生物が増加します。
増えた微生物は、たんぱく質の元となる「窒素(N)」を含んでいるため、この微生物を増やせば増やすほどたんぱく質も増加するのではないかと予想したのです。

実験は成功しました。およそ3か月の発酵で、発酵前より3パーセントほどたんぱく質が増加。目指していたキノコの菌床入りのエサが完成しました。

新しいエサの開発は、ブランド化に向けた大きな一歩となりました。
西川さんたちは、新ブランド「健康キノコ真鯛」を、地元の学校給食で提供できるよう、出荷に向けて本格的に取り組み始めます。

西川さん

最初は地元の子供たちに食べてもらって、いちばんは『美味しい』と思ってほしいです。地元の高校の先輩たちが作っているんだっていう気持ちを味わってほしいと思います。エサやりとか結構大変ですけれども、それにめげずに、どんな天候であっても魚たちにエサを届けられるように頑張りたいです。

マダイ出荷 地元の子どもたちは

およそ2年かかった「健康キノコ真鯛」の開発。この夏、ひとつの節目を迎えました。およそ160匹を県内に出荷。地元の子どもに食べてほしいと思いながら育てたマダイのブランド化がようやく実現したのです。

7月中旬、開発に携わった生徒たちが訪れたのは地元の小学校。出荷された「健康キノコ真鯛」が学校給食としてふるまわれました。給食前には、新ブランドの特徴を知ってもらおうと、生徒が講師を務める特別授業が開かれました。

西川さん

いままでこつこつやっていたんですが、出荷されて報われた気持ちです。いちばん達成感を感じる時間でした。給食としておいしく調理してくれたと思うのでみるのが楽しみです

特別授業が終わり、ようやくやってきた給食の時間。

この日の献立は、油であげた「健康キノコ真鯛」に夏野菜としめじのトマトソースをかけたメニュー。

メインは「キノコづくし」です。

生徒が見守る中、「健康キノコ真鯛」を口に運ぶ子どもたち。反応が気になります。
子どもたちに聞いてみると…、

おいしかったです。

身がもちもちしていました。

(魚が)嫌いな人でもおいしく食べられると思います。

子どもたちからは好評。机には完食して空になったトレーが並びました。

ブランド化に成功した西川さんたち。思いを聞くと、すでに次の挑戦を見据えていました。

多度津高校海洋生産科 西川永遠さん 
「おいしそうに食べてもらって、長期にわたって頑張ったかいがありました。
養殖にかかるコストを抑えられるのが、今回のブランド魚の魅力だと思っているのですが、今後はコストだけでなく味も追求していきたいと思います」

  • 藤松俊太郎

    高松放送局記者

    藤松俊太郎

    2021年入局
    警察や司法取材のかたわらグルメ担当も。

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