NHKスペシャル

アジア巨大遺跡 第1集
密林に消えた謎の大都市 
~カンボジア アンコール遺跡群~

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数千年、あるいは1万年以上昔からアジアに花開いてきた文化や文明。その多くは滅び、記録は失われ、歴史の表舞台から消え去っていった。在りし日の華やかさを伝える巨大な遺跡だけを残して・・・。アジア各地に残る謎に満ちた巨大遺跡を巡り、そこに秘められた絢爛たる古の文化や文明をひも解きながら、アジアならではの叡(えい)智を探ってゆく4回シリーズ。
第1集の舞台はカンボジアのアンコール遺跡群。
9世紀からおよそ600年にわたってインドシナ半島に栄えたアンコール王朝は、世界最大の石造寺院「アンコール・ワット」で知られ、その一帯は世界遺産にも登録されている。しかし、アンコールがどんな王朝だったのか、そこにどんな文明が栄えていたのか、真相は謎に包まれてきた。当時の記録の多くがヤシの葉や動物の皮などに記されていたため、朽ち果てて消失してしまった上に、近年の内戦で各地に地雷が埋められ、研究調査が阻まれてきたからである。
そうした中、ヘリコプターによるレーザー調査など最新の科学技術を駆使した研究や、長年の考古学的アプローチによって、その謎が、徐々に解き明かされようとしている。そこから浮かび上がってきたのは、密林の奥地に存在した世界有数の巨大都市の存在である。そこには、極めて緻密に設計され張りめぐらされた高度な水利システムがあり、これまで全く知られてこなかった世界との交易ネットワークの実態も見えてきた。
そして、それを可能にしていたのは、争いを避け、お互いに共存してゆこうと知恵を絞った人々の、平和を希求する姿だった。 空前の繁栄を誇り、密林に消えていった謎の文明の真の姿を伝える。

放送を終えて

 「アジアを舞台に、文明の大型シリーズを開発する」という大きなミッションを背負ってから、実に2年半。道なき道を、多くの方に助けていただきながら、進んできました。長期に渡ったロケを振り返り、心に刻まれている瞬間ベスト3を発表します。
 第3位。2014年10月、ベトナム・クイニョンで、波の音が耳に飛び込んできたこと。カンボジアの密林に残るアンコール遺跡群を取材していて、まさか海とつながるとは思いませんでした。眩しい南シナ海を眺めながら、「アンコール王朝が、世界に開かれていた」という新たな発見が、胸に迫ってきました。
 第2位。2015年9月、フランス・パリ。思想家のジャック・アタリさんへのインタビュー。半年間に渡る交渉の末、取材が許可されたのはわずか30分。緊張して訪ねた自宅の書斎に置かれていたのは、あのジャヤヴァルマン7世の頭像でした。西洋を代表する偉人の眼差しは、確かに、古のアジアへ向けられていました。
 第1位。2014年9月、カンボジア・シェムリアップ。アンコール・ワットで、小型のラジコンヘリを飛ばして、初めて空から中央塔を撮影した瞬間。晴れ男が揃った今回のロケクルー。雨季にもかかわらず、その日は快晴に恵まれました。4Kカメラが捉えたのは、それまで誰も見たことのなかったアンコール・ワットの神々しい光景…。まさにアンコールの神々が微笑んでくれたように思います。
 多くの出会いに恵まれ、色々忘れられない経験ができました。支えてくださった皆様に心よりお礼申し上げます。

(ディレクター 渡辺隆文)