NHKスペシャル

アジア巨大遺跡 第2集
黄金の仏塔 祈りの都 
~ミャンマー バガン遺跡~

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第2集の舞台はアジア最後のフロンティアと呼ばれるミャンマーのバガン遺跡。
今からおよそ1000年前に栄えたミャンマー初の統一王朝・バガン。その都のあった場所には、見渡す限りの平原に3000もの仏塔や寺院が林立している。黄金に輝く高さ数十メートルもの尖(せん)塔。シンメトリーな姿が美しい白亜の大伽藍。そして寺院の中では天を衝くほど巨大な金色の仏像が訪れる者を見下ろす。こうした大小様々な仏教遺跡の数々が、所狭しとひしめきあっているのである。
これほどの遺跡群がなぜ生まれたのか?長く軍事政権が続き、国が閉ざされてきたミャンマーでは、充分に学術調査が行われてこなかったが、今、ようやく民主化が進み、研究の門戸が開かれてきた。
明らかになってきたのは、こうした仏塔や寺院の多くは、王や一部の権力者が建立したのではないという事実。何と、ごく普通の民衆が持てる財をなげうって築き上げていたという。なぜ、そんな事ができたのか?そして、彼らは何を求めようとしたのか?そこには、一部の人間に富が集中するのを防ぐ、驚きのシステムが存在した可能性が浮かび上がってきた・・・。
1000年も前に、格差の少ない社会を実現していた、知られざる“ユートピア”の姿を描く。

放送を終えて

 アジアに残る巨大遺跡を通じて現代へ通じる叡智を探る今回のシリーズ。第2回は、ミャンマーのバガン遺跡を中心に、功徳を通じ富が人々の間に巡らされ、幸せを分かち合う姿を描きました。
 番組のテーマとなったのは「功徳」です。しかし、取材当初はこの言葉に非常に面食らったものでした。「なぜ寺院やパゴダを作ったのか?」「今でも熱心に祈りを捧げるのはどうしてなのか?」「なぜ修復を続けるのか?」「そのために私財まで投げ打つのはなぜなのか?」様々な疑問に対するミャンマーの人々の答えは誰に聞いても「功徳の為」の一点張り。頭では分かったつもりでも、それはいったい何なのか?日本で生きる僕には心の底から理解できる感覚ではありませんでした。そんな折、バガンの小学校で寄進を行う機会に恵まれました。少しばかりのお金でしたが、受け取る先生たちの笑顔、感謝の言葉、なんとも清々しい気持ちになったのを覚えています。後日そのお金は机と椅子をそろえるために使われたと聞き、さらにその気持ちが増幅しました。あぁ、ミャンマーの人々が口をそろえて功徳というのは、きっとこの気持ちを感じているからなのだ、そう思うと共に、バガン遺跡から見えてくる叡智はきっとこの感覚をヒントにすれば分かってくるのだ、と腑に落ちた瞬間でもありました。
 日本に比べればまだまだ彼らの暮らしは裕福とは言えません。しかし人々の心の豊かさはどうでしょうか?例えお金は無くとも彼らはいつも笑顔で心に余裕を持ち生きている、それがミャンマーの取材を通して感じた人々の印象です。今回の番組が少しでも多くの方に、幸せのあり方について考えて頂けるきっかけになれば幸いです。

(ディレクター 高木秀也)