NHKスペシャル

知られざる大英博物館 第2集 古代ギリシャ
"白い文明"の真実

収蔵品数800万点を誇る世界有数の大英博物館。しかし、全収蔵品の実に99パーセントは、収蔵庫の中に眠っている。それらの未公開コレクションと、大英博物館の舞台裏で行われている調査研究を中心に、知られざる歴史の真実に迫るシリーズ。
第2集は「古代ギリシャ」。
紀元前7世紀に、突如エーゲ海で花開いた古代ギリシャ文明。真っ白い大理石の彫刻や白亜の神殿に象徴されるように、古代ギリシャは“白い”文明とされてきた。しかし、大英博物館の調査により、その常識が覆りつつある。真っ白だと思われていた彫刻や神殿は、鮮やかに彩られていたことが分かってきたのである。さらに、華やかな古代ギリシャ文明が、なぜ紀元前7世紀に一気に花開いたのかという文明誕生にまつわる謎も、解明されていた。そして貴重な収蔵品を巡り、大英博物館で起きた衝撃の大事件・・・。白い文明、古代ギリシャの真実が明らかになってくる。
ナビゲーター:堺雅人さん(俳優)

放送を終えて

~遠く日本からギリシャを思って~

ギリシャはどれほどヨーロッパなのだろうか。私はギリシャへロケハンに行った時、タクシーのストライキに巻き込まれた。ギリシャの国内便は遅延が頻繁にあり、時間が読めないので、タクシーが一番便利。しかし、アテネの空港には1台もいなかった。こっそり、空港前のホテルに待たせることができるタクシーをなんとか用意。(ちょっとしたチップと労働組合へは絶対に明かされないことを確約して運転手と交渉成立)観光立国でありながら、タクシーストライキは1か月以上続き、結局私は全くタクシーが利用できなかった。
クレジットカードも使えないことが多々あった。税金をなんとか納めないですむように、どの個人商店も工夫を凝らす。消費税が自動的に引き落とされてしまうカードは、ギリシャでは人気がないとのこと。
賄賂の横行と組合の強大さ、そして、時間厳守はありえない社会のなりたち。ヨーロッパをイメージしてこの国を旅すると、面食らうことが多い。
さらに意外だが、イタリア料理とギリシャ料理は似ていないと思った。トマトとオリーブオイルが欠かせないことは共通しているが、ギリシャ料理はずっとスパイシーだ。オレガノ、マジョラムなどハーブを大量に使う。ギリシャには4000種類を超すハーブがあり素朴な使い方が多く、、どちらかといえば、エジプトのハーブ使いと似ていると思った。ギリシャでもエジプトでもローカルなハーブがスープやサラダにザクザク入っていて、芳しい香りを放っていた。ギリシャとエジプトの類似。この番組を制作しなければ全く気付かなかったことだ。ギリシャは、ヨーロッパの原風景というよりは、アジアとヨーロッパとアフリカの特徴を兼ね備えた周縁地域のように思えた。
古代ギリシャはさまざまなエリアと交流を絶やさなかったわけだが、なんでも取り入れたわけではない。自らの美意識に合うポイントだけを取り入れ発展させていった。例えばファラオの威圧感はギリシャの神殿には必要なかった。パルテノン神殿は実は曲線しか使われていないエレガントな建築だ。ファラオの強大な権力を見せつけたエジプトの建築とは大きく異なる。パルテノン神殿で、古代ギリシャは歴史上初めて人間たち(つまり市民たち)をたたえるコンセプトを編み出し、独自にこの建築をつくり上げた。
ギリシャは異なる文明の周縁に位置したからこそ人類のオリジナルな大発明を次々と生み出したのかもしれない。周縁に生きる小国の偉大なる文明。古代ギリシャは日本人にとって、示唆に富んでいると思う。

ディレクター 長澤智美