巣鴨の商店街が「おばあちゃんの原宿」と呼ばれたのも今は昔。今、作り物ではない本物のレトロ、いわば「ガチレトロ」にはまる若者が増加。東京・豊島区の巣鴨や、台東区の商店街など、昭和の雰囲気を残した場所が、人気スポットになっています。昭和を知らない若者たちが、いったいなぜ? ガチレトロに出会える、首都圏のスポットもご案内します。
(首都圏情報ネタドリ!取材班)
都内で開かれた昭和レトロ市です。そこには、当時を知らないはずの若者の姿が目立ちました。
雑誌の付録やマッチ箱など、昭和の時代に実際に使われていた雑貨やおもちゃなどが人気を集めていました。
かわいい。どうしよう悩んじゃうな。
小物が好きですね。デザインとかが好きですね、色とか。
2018年に発足した早稲田大学のサークル、レトロ研究会でも、それぞれが愛するガチレトロを語り合っています。
1980年代のぶっとびアイドルを紹介します。こちらは、宇宙から地球に『A・I(愛)』を伝えるためにやってきたというコンセプトの、性別不明の3人組アイドルです。
今は作っていないので見ることはできないですけど、変な信号機ですね。
月に1回、街に出てレトロを探す活動をしているというこのサークル。メンバーにおすすめスポットを案内してもらうことに。
メンバーの1人、田湯仁晟さんは、ガチレトロを求めて全国を巡っています。
田湯仁晟さん 23歳
推しレトロ:古い建物や商店街巡り・歌謡ロック
おすすめスポットは東京・荒川区の「三の輪銀座商店街」。昭和レトロな店が数多く残っているといいます。
田湯さん
「アーケードをくぐると、タイムスリップしてきたような感覚になる」
中でも特におすすめというのが、こちらのお店の看板。
「中がプラスチックでできていて、ちょっと透明な感じになっていて、こういう古い商店街に来たときにならではのネオンっぽさというか、この感覚も僕は好きです」
さらに、この看板。
「独自のキャラクター。この商店街で見られるこういう広告物って、デザインとかちょっと現代っぽくないじゃないですか。現代は、やっぱり3Dとかちょっと立体的な絵が多いなか、ちょっと古めなキャラクターのデザインが面白いなと思います」
再開発が進む首都圏では、これだけのガチレトロが残っている場所は珍しいといいます。
「チェーン店が少ないというところも非常に大きなポイントで、みんなでこの商店街を作り上げている。都内でここだけじゃないかってぐらいの雰囲気で僕はもう大好きです」
「三の輪銀座商店街」
アクセス:東京メトロ日比谷線三ノ輪駅から徒歩6分、または都電荒川線三ノ輪橋駅から徒歩2分、または都電荒川線荒川一中前駅から徒歩3分
そしてもう1人。サークルの中でも特に強いガチレトロ愛で知られる林律輝さん。おすすめは「フォント」だそうですが、いったいどういうことでしょうか。
林律輝さん 19歳
推しレトロ:昔のフォント
待ち合わせたのは東京メトロ銀座線・稲荷町駅。ここにもうレトロがあるのだそうです。
向かったのは駅の出入り口の壁。
林さん
「ここに地下鉄という文字があるのですが、鉄の文字のかねへんに特徴があって、本当だったら点にするところ。横と縦にして文字の形を変えているのが特徴的なことがわかります。文字は当時の雰囲気も出してくれるし、いろいろ語ってくれると思います」
次に向かったのは、食器や調理器具などの専門店が立ち並ぶ、かっぱ橋道具街。
店に入りましたが、商品を気にしつつも、立ち止まったのはまたもや壁の前。
「この文字は、昔の家電とか機械類にはやっていた文字です。かくかくしているから機械的な感じとかが出るのですかね。博物館みたいに古いのを演出しているのも結構楽しいですが、やっぱりこういうのが一番雰囲気を感じられるので、一番いいレトロの題材ではあるかなと思います」
「かっぱ橋道具街」
アクセス:東京メトロ銀座線「田原町」駅から 徒歩5分、または東京メトロ日比谷線「入谷」駅から徒歩6分、または山手線・京浜東北線「上野」「鶯谷」駅から 徒歩15分
レトロブームは、ここ20年以上、形を変えながら繰り返されてきました。
初期の2000年代には、昭和の街や暮らしを再現した施設が作られ、昭和を舞台にした映画も大ヒット。
このころは、自分が経験した時代を懐かしむ、中高年がブームの中心だったといわれています。
変化が起きたのは2015年ごろ。SNSに写真をアップしたい若者がけん引役となり、純喫茶や昭和歌謡がブームとなりました。
若者の間でのガチレトロ人気を背景に激変したのが、巣鴨地蔵通り商店街です。
愛称は“おばあちゃんの原宿”。かつて、若者の姿はほとんどありませんでした。
それが今は、多くの若者が訪れる商店街に変貌を遂げました。
雰囲気は変わったね。前と違ってね。
おばあちゃんの原宿ではなくなったね。
いろいろな街を訪ねて、ガチレトロを探しているという女性に出会いました。都内に住む、金美妍さん、20歳です。
金 美妍さん
「街のレトロチックな雰囲気が好きで、時代が積み重なって残された物が、やっぱレトロチックな部分であるし、そこがやっぱり一番魅力的かな」
金さんは撮った写真をSNSにアップすることはほとんどなく、自分で楽しみます。
写真を見て、当時生きていた人たちの暮らしや思いを想像するのが楽しいといいます。
「レトロの物に感じる魅力は私にとって人間の歩み。人間の生活の跡というか、生活した何かが残ってレトロになっていきます。新しい店ももちろんいいですよ。きっと自分の思いを入れて建てた店だと思うのですが、何か洗練されすぎて、人間味が消されつつあるみたいなところがあるので、老舗の店が多いところだと、あたたかさを感じますね」
「巣鴨地蔵通り商店街」
アクセス:JR山手線・都営地下鉄 巣鴨駅から徒歩5分、または都電荒川線 庚申塚駅から徒歩2分
地域に眠っていたガチレトロを活用しようと動き出した町もあります。
長野県千曲市にある温泉街です。
130年の歴史がありますが、観光客の数は最盛期の半分以下に落ち込んでいます。
この街に眠っていたガチレトロ。それは昭和から続くスナック街です。
例えばこのお店。レトロが好きなママが長年コレクションしてきたグッズが店中に並びます。
うちは特にこういうレトロな感じで、「ただいま 帰ってきたよ」というような感じで、それで癒やされてもらえればいいかなと思っています。
そこでおととし、市の観光局が若者をスナック街に呼び込むプロジェクトを始めました。
作成したのは若者がスナックを訪れるプロモーションビデオ。狙いは、入りづらいイメージを払拭(ふっしょく)することです。
気になる料金も、ホームページに明記しました。
さらに、スナックを体験できるツアーも開催。スナック初心者の若者を中心に、これまで100人以上が参加しています。
プロジェクトの立ち上げに関わった 山崎哲也さん
「昭和レトロな雰囲気がそのまま残っているというのが、この町の売りかなと思います。 こういうのは作ってつくれる物ではないので、この町のそのままの雰囲気を楽しんでもらいたいなと思います」
中には、体験ツアーに参加してスナックの魅力を知り、地元にも貢献できると、働くことを決めた、地元の若者も。
2月から働き始めた20代女性
「こういうイベントがあると聞いて、楽しそうと思って参加させていただきました。のんびりすることもできるし、いろんな面があるから私はすごくおすすめしたいです」
初スナックで、楽しいです。雰囲気が。
皆さん店に入られてきて、挨拶していました。それがおきてなのかなって。
時代が移り変わる中でひっそりと残されていたスナック街。温泉街の救世主となるのではと期待されています。
信州千曲観光局 柳澤彩子さん
「リピーターでこっちに来てくれる人も増えてきて、今までスナックを知らなかった人たちにもっと知ってほしいなっていう、伝えていけたらなと思います」
長野県千曲市「戸倉上山田温泉」
アクセス:しなの鉄道 戸倉駅から車で約5分
20代から60代の1000人を対象に、旅行において「昭和レトロなスポットを巡ることがあるか」と聞いたところ、「よくあてはまる」、「ややあてはまる」と答えた割合が一番多かったのが20代で、43%でした。
昭和を実際に経験した40代以上の世代に比べ、興味を持っている人が2倍近くの割合でいました。
昭和の暮らしやレトロを生かした街作りについて研究している専門家は、その背景を次のように話していました。
立正大学文学部教授 浅岡隆裕さん
「若者たちは、当時をリアルで体験している親世代(青春期が1980年代)、祖父母世代(青年期が高度経済成長)から、昭和をよい思い出として伝えられている可能性があります。思い出だから、つらいことよりも楽しい経験が中心に語られることになり、若者たちは、昭和レトロをポジティブに捉える傾向があると思います。
大学生に映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を見せると、『みんなでテレビを見ているシーンがいい』といいます。現在の人間関係は間接的で、個人化が進んでいます。若者はSNSなどで、人とつながってはいるけど、今と対照的なリアルなつながりのあった昭和に憧れがあるのではないでしょうか」