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「外国にルーツ」子ども増え 保育現場は~神奈川県の事例で考える

シリーズ保育現場のリアル
  • 2024年3月7日

「お子さんにお水かお茶を水筒に入れて持たせてください」と保育園から伝えられた外国人の保護者。しかし、園側は麦茶を想定していても、国によってお茶はミルクティーからレモンティーまでさまざま。
外国にルーツがある子どもが保育園でも増えるなか、その現場で起きている日常のエピソードをイラスト漫画にした冊子が、関係者の間で注目を集めています。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

対応に苦労する保育園

神奈川県綾瀬市にある深谷保育園です。園児90人が通っています。
工場などが集積し、外国籍の人たちが多い土地柄のため、およそ3分の1の園児がベトナム、フィリピン、スリランカ、中国、ブラジルなど外国にルーツがあるといいます。

ふりがなを振ったお便り

保育現場では、子どもたちの安全のため生育歴や体調、ミルクや離乳食の進め方について保護者とのやりとりが欠かせません。しかし、日本語が堪能でない保護者が少なくないため、身ぶり手ぶりを交えたり、翻訳アプリに頼ったりしながらコミュニケーションをとっているといいます。

中でも、伝えるのが難しいのが、離乳食への対応だといいます。保育現場では、初めての食材を口にした子どもにアレルギー反応が出ないよう、事前に家庭で食材を与えて確認してもらった上で給食として提供しています。しかし、こうした取り組みを理解してもらうことが難しいケースもあり、園まで来てもらい、食事の様子を見せながら説明することもあるというのです。

深谷保育園 高野緑園長
「小学校入学に向けて乳幼児期にしっかりと土台をつくってあげられるよう、保護者の方にも安心して預けてもらえるよう努めています。ただ、外国につながるお子さんを受け入れるのに保育士の加配というものはありませんので、いまの職員体制の中で個別に対応することに日々、クラスを担当する保育士は苦労しています」

外国にルーツのある子どもは増加

日本で働く外国人労働者の増加を背景に、外国にルーツがある子どもは増えています。
出入国在留管理庁によると、国内で暮らす外国籍の0~5歳児は、おととし(2022年)6月の時点でおよそ11万人、10年前から3割増えました。

外国人の支援にあたる「かながわ国際交流財団」によると、保護者からは「保育園に入れたいけれど書類の書き方がわからない」とか、「園に入ったけれど先生とのやりとりが難しい」などの悩みが寄せられる一方、園側からも「保護者との意思疎通が課題となっている」とか「手探りの対応をするしかなく不安だ」という声が寄せられているといいます。

受け入れの知恵

こうした保育現場の声をうけて、この財団がことし(2024年)作成したのが、こちらのガイドブックです。

日本語や日本の習慣を知らない外国人の保護者にどのような配慮が必要か、具体的なエピソードをイラスト漫画を使ってわかりやすく紹介しています。漫画はアフリカ・カメルーンから来日し、日本の保育所に通った経験のある漫画家、星野ルネさんに依頼しました。

保護者が「水筒にお水かお茶を」と伝えられたエピソードでは、園側は麦茶を想定していても、国によってはミルクティーやレモンティーを連想し、すれ違ってしまうケースが紹介されています。国や文化が違うところで育った保護者には、日本の当たり前がわからないこともあるため、より細かく説明することが大切だと伝えています。 

また、別のエピソードでは、園の手紙の冒頭で季節の挨拶からはじまり、文章の構成がわかりにくかったりすると趣旨を理解できないことがあると指摘。手書きの文字は翻訳アプリでは認識されないこともあることを紹介しています。

ガイドブックに込められた思いは

このガイドブックの作成には外国人の保護者も携わっていました。その1人、ベトナム人のティンさんは、6歳と4歳の2人の娘を保育園に通わせています。通い始めたころは、連絡帳の内容がわからずに困ったり、上履きを持ち帰る理由がわからなかったりして戸惑ったといいます。 

ティンさん
「日本にはこれからも海外からいろいろな人が来ていっしょに生活していくことになると思いますが、それぞれの文化を尊重することで仲良く暮らすことができるのではないでしょうか。言葉や文化が違っても誰もが同じ情報を受け取ることができる、平等な社会であってほしいです」

ガイドブックを作成した財団の担当者も、外国人の子どもが保育園に通う機会が増えるなか、このガイドブックがそうした保護者と保育園の橋渡しになればと期待しています。

かながわ国際交流財団でガイドブックの作成を担当 福田久美子さん
「子育てはその国の文化が色濃く出るので、自国との違いに戸惑う外国人が多いと思いますし、保育現場では、保育士の努力ありきで手探りの対応をしているのが実情だと思います。ガイドブックは保育者だけではなく、自治体の担当者にも手に取ってもらい、外国人の子どもをスムーズ受け入れていくための仕組みづくりに役立ててほしい」

専門家は「国や自治体も取り組み進めて」

外国にルーツがある子どもを支援する小島祥美・東京外国語大准教授は、さまざまな言語を母国語とし、多様な文化を背景とする子どもが増えており、それを前提とした保育環境の整備や取り組みが欠かせないと指摘しています。

小島准教授
「外国ルーツの子どもたちが年々増加する中で、就学前の子どもたちに対するサポートがそれに伴っていないのが現状だと思います。希望する子どもが入園して日本社会に慣れることは、スムーズな就学につながるという意義もあります。自治体も園に任せきりではなく補助員を配置したり、先輩の外国人ママやパパとつないだりするなど取り組みを進めてほしいですし、国にも後押ししてほしいと思います」

すべての子どもの成長を支えるために

こども家庭庁が去年12月に打ち出した「こども大綱」のなかでは、「幼児期の教育・保育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なもの」とした上で、「外国籍のこどもを始めさまざまな文化を背景にもつこどもなど特別な配慮を必要とするこどもを含め、ひとりひとりのこどもの健やかな成長を支えていく」と明記しています。
外国人の子どもが増えるなか、現場の工夫は重要だと感じます。しかし、保育現場はただでさえギリギリの状態です。こうした現場をしっかり支える行政の動きが欠かせないと思います。

ガイドブックは、「かながわ国際交流財団」のホームページから無料でダウンロードできます。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    2010年入局。水戸局、岡山局、新潟局を経て首都圏局に。生活の中で感じる疑問が取材の出発点。おしゃべりな次男は保育園が大好き。

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