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保育士の配置基準 4、5歳児 76年ぶりに見直し

シリーズ保育現場のリアル
  • 2023年12月26日

先週、大きな出来事がありました。政府の「こども未来戦略」に盛り込む少子化対策の費用に「保育士の配置基準」の一部を来年度、見直すことが盛り込まれたのです。
私たちは「保育現場のリアル」と題して、人手不足や保育士の処遇、さらに不適切保育などの問題を1年以上取材してきましたが、この長年変わらない配置基準は最も力を入れたテーマでした。実に76年ぶりとなる見直しへの現場の受け止めや今後の課題について取材しました。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

来年度から配置基準見直し

保育士の配置基準は、保育士1人が受け持つ子どもの数のことで、1948年に国が定めました。
今は0歳児が一人当たり3人、1、2歳児が6人、3歳児が20人。4、5歳児が30人となっています。
こども家庭庁は、保育の質を向上させるためとして、4、5歳児の保育士の配置基準を、来年度から「子ども30人に1人」から「25人に1人」に見直すことになりました。この見直しは76年ぶりとなります。

来年度1兆6617億円を計上

保育士の人件費は国や自治体が負担します。
この配置基準を元に計算した人数分が出る仕組みで、国は来年度予算に今回の配置基準の改善や保育士などの処遇改善のため、1兆6617億円を計上しました。国が3月末に方針を示した際は、基準は変えず、保育士を増やした場合は加算という形で費用を補助するとしていました。それが最終的には、一部の年齢ですが、基準そのものを見直すことになったのです。

保育現場 “念願が叶った”

取材を続けてきた私たちも土壇場での見直しに驚きました。保育現場の受け止めはどうだろうと、早速、以前取材させてもらった杉並区の保育所で聞いてみました。
こちらの園では、国の基準どおりの人数の保育士では保育が難しいとして、独自に人件費を捻出して、手厚く配置しています。

社会福祉法人風の森 野上美希統括
「保育士は子どもと接するだけでなく、保育記録をつけたり休みを取ったりしますし、4、5歳児の保育が30対1では難しいのは、日々、感じています。75年間行われなかった基準の改善がされたことは本当に念願といいますか、第一歩だと思います」

基準見直しの背景は

このタイミングで基準が見直されたのは、各地で保育事故や不適切保育が相次いだこと、そして、ことし4月にこども家庭庁ができたことなどが大きな要因かと思います。
ただ、それとともに忘れてはならないと思うのは、保護者や保育士たちが切実な声を上げ続けたことです。
保育士の配置基準の改善を求めてきた保護者や保育士でつくる団体では、現状を広く知ってもらおうと、シンポジウムや街頭活動を重ねてきました。また、SNSでも思いを発信し続け、活動を始めた2021年末頃と比べ、共感の輪が広がっていると感じてきたといいます。

 

3人の子の母 下里世志子さん
今の保育所の環境に対して、“同じ働く者としてどうなのだろうか”と感じているので、お世話になっている先生たちが安心して長く、楽しく働けるよう願っています。いろんな方の尽力があって、基準見直しという形で思いが実を結んだのだと思います。

 

「子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会」 保育士 平松知子さん
ずっと、保育士を増やして欲しいというのを訴え続けてきていたわけですが、その声が聞き届けられてすごくありがたいです。私たちが呼びかけてきた “子どもたちにもう1人保育士を”ということが、社会の声になったのかなと思っています。

経過措置は期限未定

ただ、今回の見直しには課題もあります。
まず、この見直しにより、現場の保育士不足という問題が解決するわけではありません。今の保育現場はその人手不足に加え、保育士の処遇など課題が山積だからです。
さらに、注意が必要なのは、正式な基準の見直しまでに経過措置が設けられている点です。
地域によっては保育士を急に確保することが難しいという事情があることが考慮され、「こども未来戦略」には、「当分の間は従前の基準により運営することも妨げない」とも明記されました。
ただ、この経過措置の期限は未定とされているため、本当に実現されるのかは注意が必要です。
取材した専門家も次のように指摘しています。

保育研究所 村山祐一所長
「改善されたということでは一歩前進だと思いますが、ほんのわずかな改善。4、5歳児のクラスを保育士1人だけでみるのは難しいので、多くの保育現場ではもう1人配置しているのが現実だと思います。特に、5歳児クラスは小学校に提出するために成長を記録した書類をつくる、大切な仕事もある。こうした実態を踏まえて、保育指針に書いてあることができる保育士配置の実現に向けて、国には方向性をしっかりと示してほしい」

さらなる改善を

今回の見直しは1年以上にわたり取材班を作って保育現場を見てきた私たちから見ても前向きなものと思っています。ただ、保育現場の疲弊は想像以上で、これだけで事態が好転するほど甘くはない状況です。
今回取材した保育所に、基準の見直しによって増える運営費で、保育士の増員がどのくらい可能になるのか尋ねました。すると、園の事情によって異なると断った上で、「無資格のパートを1日3時間、雇用できる程度」だということでした。つまり、フルタイムの保育士をもう1人増やすまでにはいかないということです。
それでも、「長年変わらなかったものが変わったことは非常に大きい」として、意義があるものとして受けとめています。私たちも、子どもたちの保育環境を守るための取り組みが、これをきっかけに今後も進められるのか、取材を続けたいと思います。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    2010年入局。水戸局、岡山局、新潟局を経て首都圏局に。生活の中で感じる疑問が取材の出発点。おしゃべりな次男は保育園が大好き。

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