渋谷ハロウィンに異変が起きています。「ハロウィン目的で渋谷駅周辺に来ないでほしい」という自治体のトップによる異例のメッセージが発せられ、“史上最大”規模の警戒態勢がとられているのです。
背景には、コロナ禍で急速に広がったトラブルや、去年大惨事がおきた韓国のイテウォンとの共通点が見えてきました。なぜ渋谷ハロウィンはここまで巨大化したのか、取材しました。
(首都圏局/記者 眞野敏幸、ディレクター 林秀征)
駅前のスクランブル交差点周辺だけで数万人もの人が集まる、渋谷ハロウィン。これまでたびたびトラブルが発生してきました。
5年前の10月28日には、酒に酔った若者たちがトラックを横転させる事件が発生。
翌年も暴行や痴漢などで逮捕者が相次ぎました。
多くの人出が見込まれる今年、「大惨事につながりかねない」と危機感を強めているのは、渋谷センター商店街振興組合・常務理事の鈴木大輔さんです。
毎朝、商店街の清掃をおこなっていますが、今年、新型コロナが5類になって以降、路上飲酒によるゴミが急増。その量は日に日に増え、毎日2時間かけて回収を行っています。
アルコールの瓶が粉々に割られる行為も頻繁に発生しているといいます。
さらに、鈴木さんが営むカフェでは、この夏、オープン席のテントが壊されました。
鈴木さんは、路上飲酒がまん延する中でハロウィンを迎えれば、かつてない危険な事態になるのではないかと不安を募らせています。
渋谷センター商店街振興組合 常務理事 鈴木大輔さん
「われわれ街の一般人からしたら非常に怖いです。1年で1番嫌な日ですね。シャッターを蹴られたりエレベーターが壊されたりといろいろと被害があるので。早く普通のハロウィンに戻ってもらえないかなと思っています」
そもそもなぜハロウィンは日本で広がったのか。
世界のハロウィンについて調べている武蔵野学院大学の副学長、佐々木隆さんによると、ハロウィンの起源は古代ケルト人の伝統行事「サウィン」。この時期には死者の魂が家に戻ってくるとされていました。
武蔵野学院大学 佐々木隆教授
「サウィン祭りというものが11月1日に行われていて、その前夜というのが最初の原点と言っていいかもしれません。死者の魂が帰ってくるときに悪さをされないように、自分も実はその死の世界の者だよということで、死者のまねをする、いわゆる仮装でした」
この行事が世界に広がり、おなじみのハロウィンへと変化。カボチャのランタンを飾ったり子どもにお菓子を配ったりするイベントになっていったといわれています。
日本でのハロウィンの原点は渋谷のすぐ隣、原宿だといいます。
原宿にある70年以上の歴史がある玩具店。社史には少なくとも40年前にはハロウィンイベントを開催していたと記録されています。
開店当時、近くに在日米軍の居住施設があったためアメリカの文化を積極的に取り入れてきました。そうした中、海外の子どもたちに楽しんでもらおうと始めたのがハロウィンのイベントだったといいます。
その後、ハロウィンはテーマパークや地域の商店街などが主催するイベントとして日本中に広がっていきました。
一方、渋谷のハロウィンはこうした他のイベントとは異なる特徴があるといいます。それは、中心となる主催者がいない中で、数万もの人が自然と集まってくるという点です。
佐々木隆教授
「主催者がいない中で、若者が集まってくる。その様子を毎年毎年、若者が見て、じゃあ次の年に自分も行ってみようかというようなことが繰り返されていく」
ではなぜ人々は渋谷に集まるようになったのか。佐々木さんは20年ほど前に大きな転機があったと考えています。
2002年、サッカーワールドカップ。当時、日本が決勝トーナメント進出を決めたときに起きた現象です。スポーツバーなどで観戦していた人たちが、試合が終わったあとに、渋谷駅周辺で行き交う人たちとハイタッチをする姿が注目されました。
その後、新年のカウントダウンなどもおこなわれ、「イベントの際は渋谷に集まる」というイメージが定着したといいます。
佐々木隆教授
「街を盛り上げるには絶好の機会だったということも理解できますが、いい面と悪い面と、両方出てきてしまった。自然発生的に、人がたくさん流れてくるところをどうやってコントロールするかということを考えていくしかないと思います」
渋谷区では、渋谷ハロウィンで相次ぐトラブルに対処するため、試行錯誤を重ねてきました。
区が対策に乗り出した2015年から区長を務める長谷部健さん。区長になったころには、すでに街が汚される問題が顕在化。ゴミ袋を配ったり、臨時の更衣室を設置したりしてきましたが、コントロールしきれませんでした。
渋谷区長 長谷部健さん
「どうやったらこのエネルギーをいい方向に向けられるか、ということは当然考えてトライしてきましたが、やっぱりうまくいかなかったというのはあると思います。対処するだけで広がってきてしまったっていうのはあると思います」
区長が今年、懸念しているのが群集事故のリスクです。
最悪の事態として想定しているのは去年、韓国イテウォンで150人以上が亡くなった事故。
主催者がいないこと、多くの外国人観光客が訪れたこと、街に細い路地があることなど、渋谷との共通点がいくつもあるからです。
長谷部健さん
「凄惨(せいさん)な事件が起きる可能性が高い。間違いなく今年何もしなければ、大勢の人が、特に世界中からさらに集まってきてしまいます。今の空気感でハロウィンに突入していくことには非常に危機感がある」
渋谷区では今年、次のような対策を打ち出した上で、「ハロウィン目的で渋谷駅周辺に来ないでほしい」と呼びかけています。
・渋谷区は条例に基づいて週末の10月27日から渋谷駅周辺のエリアで「路上飲み」を制限。期間はハロウィン当日の31日までで、いずれも午後6時から翌朝午前5時までの間。
・最も混雑が予想される28日と31日は、エリア内のコンビニエンスストアなどに対し、酒の販売を自粛するよう要請。