ハロウィンの前後、「渋谷に来ないで」。
渋谷区長が出した異例のメッセージ。背景にあるのは、急増する「路上飲み」の存在です。センター街を中心に路上で飲酒する人の姿が目立つ渋谷の夜。ケンカなどのトラブルや散乱するゴミが後を絶たず、ハロウィーンの時期に深刻なトラブルを招く温床になると警戒を強めているのです。
なぜ、渋谷に「路上飲み」が根づいてしまったのか。その理由を求めて「路上飲み」の現場に密着すると、SHIBUYAから世界に広がった誤解が顔をのぞかせていました。
(首都圏局/記者 眞野敏幸)
「渋谷に来ないでほしい」。本来、街を訪れる人を歓迎する立場の渋谷区長が出した異例のメッセージが「路上飲み」の現場に密着しようと思ったきっかけでした。区長は9月の会見に続いて、10月には海外メディア向けにもメッセージを出し、地方自治体としては異例の海外発信に踏み切りました。
区が特に警戒しているのが、「路上飲み」が横行していることです。多くの人が集まるハロウィーンでは毎年、飲酒が原因のケンカや器物損壊などの迷惑行為が後を絶たないため、トラブルの芽をつもうと、区は「路上飲み」をしないよう指導するパトロールを9月から始めました。
週末の夜に行われた区のパトロールに同行すると、「路上飲み」をする人の数は想像以上に多く、異様な光景が広がっていました。
パトロール隊は渋谷センター街やスクランブル交差点付近を中心に見回り、拡声マイクや直接声をかけて「路上飲み」をしないよう呼びかけます。しかし、多くの人は指導されても「路上飲み」をやめるわけでもなく、パトロールの効果は限定的なように見えました。
こっちの言うことを聞いてくれる人もいますが、その場返事の人も多いです。正直言うと、いたちごっごの面はあると思います。
しばらくすると、コンビニ脇で路上飲みをしている3人の若者に出会いました。新型コロナで飲食店が時短営業をしていたころから、渋谷で「路上飲み」をしていたという若者たちは、新型コロナが5類に移行されてから街の様子が様変わりしたと話しました。
昔から路上飲みをしているけど、最近、日本人より外国の人の方が増えたなという感じはあるよね。
確かに「路上飲み」をしている人を見ると、外国人の姿が目立っていました。区に確認すると、これまでのパトロールで「路上飲み」を控えるよう指導した人のうち、およそ3分の2は外国人だったということです。
どうして、外国人たちは渋谷で「路上飲み」をしているのか。直接、話を聞いてみることにしました。
アメリカでは外でお酒を飲めない。外でお酒を飲んで、いろんな人と交流できる。渋谷は安全だしいいところ。
バーに行くより安いから。自分の国ではこのような形でお酒が飲めません。
アメリカ人
男性
渋谷のような繁華街で、路上飲みができるというのはおもしろい。初めてコンビニでビールを買って路上飲みをした時は、こんなことをしていいのかなと思った。アメリカではダメだから。
多くの人が理由としてあげたのが、自分の国では公共の場で飲酒ができないことでした。
では、彼らはどこで渋谷の路上飲みの存在を知ったのか。
オーストラリアから来日した留学生は、日本の若者の姿を見てまねをしたと言います。
日本ではみんなが路上飲みしているよ。だから私たちも大丈夫だと思った。
日本のルールを紹介する動画を見て、路上飲みが日本の文化だという誤った認識を持っている人もいました。
渋谷で路上飲みができるというのは、かなり有名な話だよ。ネットにもあるし、人から聞いたりもした。日本には暗黙のルールや文化がある。だから、ネット動画でルールをチェックするんだ。
日本にいる留学生の友人から「路上飲み」を紹介されたという観光客もいました。
友だちは東京に住んでいるんだけど、路上飲みができる所があると言っていたんだ。東京で夜遊びするなら渋谷だと聞いた。クールな場所で気に入りました。
日本人が路上で飲酒する姿を見て、日本に住む外国人がまねをした。
ネットの動画やSNSで「路上飲み」が日本の文化だと誤解する外国人もあらわれた。
新型コロナが5類に移行されて、知人やネットから、そうした情報を得た外国人が来日して「路上飲み」を体験する。
SHIBUYAから世界に発信された誤ったメッセージが急速に広がり、渋谷に「路上飲み」が根づいてしまった。
これが今回の取材の結論です。
多くの人が集まる渋谷のハロウィーンでは、これまでも酒によるトラブルが相次いだことから、区は2019年に渋谷駅周辺の路上や公園などでの飲酒を制限する条例を制定しました。条例で路上飲みを制限する時期はハロウィーンの期間などに限られていて、罰則もありません。パトロールはこれまでは条例の期間中に行っていましたが、ことしは路上飲みが急速に広がりを見せているため、条例の対象期間に入る前の9月から実施しています。広がる路上飲みの現状について、渋谷区の担当者は、こう話しています。
渋谷区安全対策課・東浦幸生課長
「パトロールによる指導は、やはりお願いベースですので限界があるのを感じています。公共の場でお酒が飲めるという自分の国でできないことが、この国でできるっていうのは大きい。そしてこの渋谷、東京を代表する繁華街でできることが開放感につながっているんだろうと思う。ごみ、通行の邪魔、騒音の問題を含んだ迷惑路上飲酒をやめていただきたいと本当に心から思っています」
ことしのハロウィーンについて、渋谷区は条例に基づいて週末の10月27日から渋谷駅周辺で「路上飲み」を制限します。期間はハロウィーン当日の31日までで、いずれも午後6時から翌朝午前5時までの間です。また、最も混雑が予想される28日と31日は、渋谷駅周辺のコンビニエンスストアなどに酒の販売の自粛を求めます。これでも路上飲みがなくならなければ、区は路上飲みを制限する期間を通年化することや、罰則規定を設けることなどを検討するということです
今回、私は30人以上の外国人に話を聞きました。いずれの人たちも「路上飲み」に対して「悪いことだ」という考えは持ってはおらず、心から楽しんでいる様子でした。もちろん「路上飲み」をしているのは外国人だけではなく、すべての人が迷惑行為をしているわけでもありません。一方で、渋谷区は、急速に広がった「路上飲み」が引き金になって、最悪の場合、ハロウィーンの時期に、去年、韓国の繁華街で150人以上が死亡した群集事故のような深刻な事故が起きることを懸念しています。
「ハロウィーン目的で渋谷に来ないでほしい」。異例のメッセージに込められた思いに、もう一度耳を傾けてもらいたいと感じました。