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新宿歌舞伎町の子どもたち 「トー横」に集まる理由は タワー開業で再開発進む

  • 2023年4月14日

東京・新宿歌舞伎町にある「トー横」と呼ばれる一角は、虐待やいじめなどを理由に生きづらさを感じている子どもたちが、全国から集まって過ごしている場所です。彼らが違法薬物や性犯罪に巻き込まれるなどして、社会問題になってきました。

再開発が進む中、なぜ子どもたちは「トー横」に足を運び続けるのか。支援の手はなぜ届いていないのか。8か月にわたって歌舞伎町に通い、子どもたちの声を聞きました。
(前編・後編の全2回/後編の記事へ
(首都圏局/ディレクター 二階堂はるか・竹前麻里子)

さまざまな悩みを相談できる窓口の情報はこちら

家にも学校にも居場所がない

去年の夏、私たちは中学生のゆいさん(仮名)に出会いました。5日間家に帰っておらず、ほとんどの時間を歌舞伎町で過ごしていました。

ゆいさんは幼いころに両親が離婚。一緒に暮らす母親は外出することが多く、一人で過ごす時間が長かったといいます。学校にもなじめず不登校になりました。

ゆいさん
「家に帰らなくても親は何も言わない。話さないもん、家にいても。親はずっと、いろいろな彼氏がいて、放置されることが多かったから、私って邪魔だなって思っていた。私、親にも必要とされていないんだな、みたいな。新宿にいる方が落ち着く。話を聞いてくれる人がいたり、助けてくれる人がいたりするから」

12月下旬。歌舞伎町で出会った友人たちと、その日暮らしを送って来たゆいさん。この日も泊まる場所を探していました。気温は5度まで下がり、ゆいさんは暖をとるため何度もコンビニに出入りしていました。

周辺にはカラオケ店やネットカフェなどがありますが、条例により深夜は18歳未満を立ち入らせてはいけません。ホテルなど宿泊施設も親の同意がなければ断られることが多いといいます。

ゆいさん
「ガチで寒い、本当に寒い。もうイライラする。この時間、お金を払わないと行けるところがない」

ここでの生活費を得ることも簡単ではありません。SNS上で「パパ活」の相手を探し始めたゆいさん。アルバイトをしたくても、中学生は原則、卒業してからでないと働けないからです。

SNSで知り合った見知らぬ男から、「コンドーム無しでセックスをさせてくれるなら1万円払う」というメッセージが送られてきました。

ゆいさん
「生でセックスさせてくれたら1万だって。きもい。生は無理。もう嫌だ、病みそう」

その後、所持金がつき、家に帰ったゆいさんから、ディレクターに連絡がありました。母親とうまくいかず、話を聞いてほしいという内容でした。

ゆいさん
「毎月のお小遣いがないから、何もできない。私が『体売ったりしてもいいの?』って母親に聞いたら『別に好きにすればいいじゃん』みたいな感じで言われた。相談なんて全然聞いてくれないし、放置される。全部私が悪いって言うんだよ。そんな人を親だとは思えないじゃん。必要とされてないところに、いたくないじゃん」

家族を思いながらも家に帰らない少女も

家族を大切に思いながらも、家にいるのがつらいという少女もいました。去年冬に出会ったあおいさん(当時16歳)は、家にはほとんど帰らず、「パパ活」をして暮らしていました。

あおいさんは幼いころ、両親が離婚。そのことで自分を責めてきました。

あおいさん
「ママとパパが大好きだったから、離婚届を出したと言われて、状況が理解できなくて。自分が憎くて。その時、何もしてあげられなかった。もしも私がママに毎日『今日は大丈夫だった?』って声をかけていたら、離婚しなかったかもしれないじゃん」

母親と妹と暮らし始めたあおいさん。生活は一変したといいます。

あおいさん
「母親が工事のバイトとかして、やっと貯まったお金でぼろいアパートを借りたの。母親はお金がないのに、部活のユニフォームとかいろいろと買ってくれるわけ。高いんだよ、2万とか3万とかするの。ママが一生懸命出してくれたの。笑って、財布を出して。

私からしたら万札なんてびっくりする額だから、いつも胸が本当に痛かったの。素直に喜べなくて。ママは、私には素直に喜んでほしいし、だからこそ買ってきてくれたのはわかったけど、『ママ、そんなのって買わなくていいよ』って思っちゃう自分も嫌だった。本当に、惨めだった。

でもママが頑張っているし、私は学校が楽しいよって言わなくちゃいけないと思っていたから、『勉強も頑張っているよ』って言っていた」

家族を思い本心を言えず、明るく振舞ってきたあおいさん。次第に家にいることがつらくなっていきました。

あおいさん
「ママと妹は、世界で一番大事なの。私が家に帰るのが一番いいんだよ、家族にとっては。でも家に帰ると、親のこと心配しちゃうんだ。心配しても何もしてやれないし、胸が苦しくて。

人間って逃げたい生き物じゃん。歌舞伎町は日本一、ぴったりな場所なんだよ。ここにいると感情がいろいろなものに邪魔される。人の声だったり、変なやつにからまれたり。そうすると悲しみが見えなくなってくる。歌舞伎町って夢の世界だよ」

去年のクリスマス。新宿の街がイルミネーションで彩られ、プレゼントを買い求める人や食事をする人であふれる中、私たちは路上で、意識がもうろうとしていたあおいさんを見つけました。

友人からもらった市販薬を数十錠、一気に服用したといいます。大量の薬を飲む行為はOD(オーバードーズ)といい、死に至る可能性もある危険な行為です。私たちはあおいさんを介抱して、救急車を呼びました。

そうした中にあっても、あおいさんが気にかけていたのは母親のことでした。

あおいさん
「ODしたってお母さんに言わない?ODしちゃったっていうとママが心配しちゃうから嫌なんだよね」

病院に運ばれ容体が安定したあおいさん。救急隊から連絡を受けた母親は病院にかけつけました。

この日は母親と家に帰ったあおいさん。翌日、その姿は歌舞伎町にありました。

あおいさん
「今日、お母さんが、私が好きな鍋作ってくれたらしいんだけど。やっぱり私の居場所はここです。なんかもうゴミの中にゴミがいるのがちょうどいい。きれいなところじゃ生きられない気がする。自分の醜さがわかるから」

届かない支援 いったいなぜ?

再開発によって地上48階建ての複合施設が開業した新宿・歌舞伎町。施設前の広場ではイベントも実施されるなど、「トー横」の環境は大きく変わることになります。

開業した地上48階建ての複合施設(中央)

この変化をどう受け止めているのか子どもたちに聞くと「広場に居づらくなれば別の場所を求めて、街をさまようことになる」という声が多くあがりました。

警察が子どもたちを補導する動きもありますが、補導しても家に帰すことが多く、根本的な解決にはつながっていません。児童相談所に保護される場合もありますが、多くの子どもが、「児童相談所にはいきたくない」といいます。

いったいなぜなのか。利用経験者と元職員に取材しました。(後編の記事へ)

悩みがある方へ 相談窓口まとめ

厚生労働省「まもろうよ こころ」(※NHKサイトを離れます)
厚生労働省が運営するホームページ。SNSや電話での相談窓口がまとめられています。

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
性犯罪、性暴力に関する相談窓口。被害にあった直後から医療や法律、心理面などの支援を総合的に行っています。各都道府県に設置。24時間365日対応するところもあります。
「#8891」に電話すると、最寄りのワンストップ支援センターにつながります。通話料は無料です。

  • 二階堂はるか

    首都圏局 ディレクター

    二階堂はるか

    2016年入局。沖縄局、ニュースウオッチ9を経て現職、2年ほど前から「性暴力」をテーマに取材。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

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