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「あなたの子どもは発達障害」 その時、私は、学校は

  • 2023年3月22日

私の長男は、小学3年生だった去年、発達障害である注意欠陥多動性障害(ADHD)と学習障害(LD)と診断されました。

ふだんの生活では気になりませんでしたが、学校では、特定の科目の授業になると、先生の話を聞くことができず、その影響が、学校生活全般にも広がっていました。
ちょっとした「つまずき」が、大きな「ひずみ」になっていってしまう、もどかしさ。
長男に対し、どのような教育が最も適しているか悩む日が続きます。

去年末に、小中学校の通常学級に発達障害の可能性がある子どもが8.8%いると推計される国の調査結果も出される中、同じような思いを抱いている保護者は、ほかにもいるのではないか。
こうした思いから、当事者たちへの取材を始めました。
(首都圏局 都庁クラブ/記者 尾垣和幸)

クラスの3人は発達障害の可能性

「言葉が遅れている」、「対人関係がうまく築けない」、「落ち着きがない」。
文部科学省によりますと、発達障害は、脳機能の障害であって、その症状が低年齢から現れているものを指します。

去年12月、文部科学省は、発達障害の可能性があり、特別な支援が必要な小中学生は通常学級に8.8%、11人に1人程度在籍していると推計されるという調査結果を発表しました。
調査方法などは一部変わっているものの、前回11年前の調査の6.5%から増加しています。

35人学級の場合、3人は発達障害の可能性があるという結果です。

決してひと事ではありませんでした。

学習障害(LD) 
・聞こえていても、話を正確に聞き取ることが苦手
・自分の言いたいことの表現が苦手
・文章をすらすら読むことや形の整った文字を書くことが苦手

注意欠陥多動性障害(ADHD)
・面と向かって話しかけていても、聞いていないように見える
・じっとしていない
・質問が終わらないのに答えてしまう

自閉症
・暗黙のルールがわかりにくい
・人との距離が取りづらい
・会話のすれ違いが起きやすい など

サトシくんの場合

今回、私が取材したのは、ADHDと自閉症の発達障害がある小学6年生のサトシくん(仮名)です。

サトシくん(左)と記者(右)

出会ったのは3月中旬。
初対面のためか、最初、少し恥じらっていましたが、ゲームやアニメの絵を描くのが大好きで、「マリオ」のものまねをしてくれるなど、すぐに打ち解けてくれました。

サトシくんが発達障害と診断されたのは幼稚園の時でした。
母親は、小学校入学にあたって、幼稚園や学校側などと協議したところ、サトシくんの場合、「通常学級に通える」という意見と、「特別支援学級のほうがいいのではないか」という意見で分かれ、保護者の判断に任せられたということです。

そこで、母親は「みんなと同じ学校生活を送らせたい」という思いから、自宅近くの小学校の通常学級を選択しました。
人なつっこい性格で、友だちもたくさんいて、一緒にゲームの歌を歌うなどして遊んでいたといいます。

ただ、あることで学校生活につまずきました。
障害の特性からか、授業中、関心の低い話に注意を向けることが難しく、アニメやゲームのキャラクターを描くことに夢中になってしまっていたといいます。

1年生の1学期。
学校からは「サトシくんには支援員が必要だ。支援員をつける場合、週1回、半日のみになってしまうので、保護者にも協力してほしい」と伝えられました。
学校側と相談の結果、母親は、2学期から毎日、学校に付き添うことになりました。

サトシくんの母親
「何とか自分がついてあげることで、だんだんと慣れて、いずれは1人で、できるようになってくれるのかなと思ったので、そこはちょっと頑張ろうって思いました」

授業中は、サトシくんの横に座って、授業のほうに関心を持つように、鉛筆を持たせたり、声をかけたりを繰り返していたといいます。

しかし、発達障害の子どもをどう授業に集中させるか、専門的な知識もない中、なかなかうまくはいきませんでした。
サトシくんに、当時のことを聞いてみました。

Q.お母さんに『描いてる場合じゃないでしょ』と言われたらどう思った?

サトシくん
「僕、勉強、嫌だから、まだ描きたいって感じ。分かっていたけれど、なんか動けないでいた」

Q.自分でも何で動けないのか、よく分からない?

サトシくん
「まあ、そんな感じかな。絵をめっちゃ描きたくて、『授業なんかいいや』みたいになっていた」

頭では分かっていても、うまく動けないつらさ。
こうした思いを、当時のサトシくんは、ことばで表現することが難しく、母親も「なぜ、注意しても聞いてくれないんだろう」と思っていたといいます。

友達たちには「好きなように絵を描いている子」と映っていたかもしれませんが、本人も、苦しんでいたのではないか。
自分の息子と状況が重なるところもあり、胸が痛みました。

また、サトシくんが授業に集中できない理由は、それだけではなかったようです。

撮影機材

 

取材中、撮影機材のファンの音が断続的に鳴ったり消えたりしていました。
私はまったく気付きませんでしたが、サトシくんは、「くすぐったい」と、その音に敏感に反応しました。昔から音に敏感で、授業中も同じような状況だったといいます。

サトシくんのために学校側は「指導計画」を作っていました。

「いつもと違う場面、大きな音、大勢の人が集まる場が苦手」
「気になる友達がいると大きな声を出す」
「じっとできず、動いてしまうことが多い」

などといったことが、記されていました。

心身ともに限界

1年、2年、3年。
母親は、サトシくんにかかりきりになることで、生活に余裕がなくなり、強い口調での注意が増えていきました。そして、学校だけでなく自宅でもつらく当たってしまったといいます。
1人で抱え込んでしまって、心身ともに限界を迎えていました。

サトシくんのためにもならないと感じた母親は、4年生から、特別支援学級がある別の小学校に転校させることを決めました。

母親
「すごくボロボロに疲れ切っていたんだと思います。(サトシくんは)仲の良い友達と離れなきゃいけないっていうのが、少し寂しかったみたいです。ちょっと残念な、悔しい思いはあります」

私の場合

サトシくんの気持ち、そして母親の痛切な思いは、とてもよく分かる気がしました。

私の息子の場合、最初に、兆候に気づいたのは、保育園の時。
保育士から「自分の好きなことに熱中して、なかなか次の行動に移れない。小学校に入ると集団行動で苦労するかもしれない」と告げられました。

息子のプリント

その時は深刻には考えず、小学校は通常学級に入りましたが、授業参観では、1人だけノートを開いてなかったり、親のほうばかりを振り向いたりするなど授業に集中できない様子に気づきました。

そして、学年が進んでも、ひらがなで小さい「や、ゆ、よ」や「つ」を書くことが難しいほか、助詞の「は」と「を」をうまく使えず、「▲▲わ◎◎だ」や「▲▲お◎◎する」などと書いてしまっていました。

ただ「いずれ落ち着くのではないか」とどこか気楽に構えていました。

『不登校になる』と言われ転校を決断

対応を迫られたのは、3年生の時。
担任の先生から、息子の授業の様子を映像で見せられたときでした。

授業中、腕で顔を隠し、机に突っ伏している息子。
授業を拒否しているようにも見えました。

担任によると、特定の授業で、そのような行動をとり、テストの時も例外ではないとのことでした。

そして、その様子を一部の友だちにからかわれることもあったようです。

本人に聞いてみたところ、「授業が始まると頭が真っ白になってしまう」らしく、理由はよく分からなかったようです。

しだいに本人も「学校が楽しくない」と言うようになり、学校側からの提案で相談した教育委員会の担当者に「このままでは不登校になる」と言われました。

学校側からは、息子の特別支援教育についての提案がありましたが、その小学校に通い続けるために必要と感じた支援を受けるには支援員が足りず、特別支援学級のある別の小学校に転校することを決めました。

息子に転校のことを話したとき「仲の良い友達がいるんだけどな」とつぶやいていたことが、記憶に残っています。

教育現場も手探り

文部科学省は、障害のある子どもも、障害がない子どもも、一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」を推進する理念のもと、特別支援教育の充実を目指しています。

しかし、サトシくんの母親も私も、通常学級に通い続けるために必要な支援を受けることが難しく、最終的に、転校という選択肢を選びました。

私の息子は、転校先では充実した学校生活を送っているようですが、今後の勉強や進路のことを考えると、本当にこの選択が正しかったのか、悩みはつきません。

発達障害があっても、一部の授業の時間に、別室で自立活動の指導を受けながら、通常学級に通い続けられる子どももおり、障害や特別支援教育への考え方はさまざまです。

しかし、取材を通して、一人ひとりの子どもが必要とする支援を受けられる仕組みは、まだ道半ばで、教育現場も、手探りの状況ではないかという思いを強くしました。

今後も、保護者や教育現場の声を集め、特別支援教育のあり方について取材していきます。

ぜひ発達障害をめぐる学校での悩みや体験談、情報やご意見をこちらの投稿フォームよりお寄せください。

  • 尾垣和幸

    首都圏局 都庁クラブ 記者

    尾垣和幸

    都庁担当 東京オリンピック・パラリンピック競技会場のレガシー活用などを取材。神宮球場にはプロ野球観戦で足繁く通う。

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