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インボイス制度とは 10月開始 税制度に詳しい記者が解説

  • 2023年09月29日

消費税の正確な納税額の把握を目的とした新しい税額控除の方式「インボイス制度」が10月から始まります。
「インボイス」とは請求書やレシートのこと。請求書やレシートに記載されている登録番号がポイントで、消費税を店側が国に納める際などに必要になる大事なものです。
制度開始を直前にして登録をめぐって、事業者の間では対応が慌ただしくなっています。

さいたま局記者/江田剛章

準備進める登録事業者

東京・三鷹市にある電器店は、地元の企業に家電を販売したり電気設備の工事などを請け負ったりしています。
すでにインボイス制度に登録し、制度開始前から、国から付与された「T」から始まる登録番号が印字された新たなレシートを発行しています。

また、取引先から手書きの領収書や納品書を求められた場合に備え、登録番号が刻印された専用の印鑑をつくりました。

さらに、自社の経理処理でも、取引先が登録しているかどうかでレシートや領収書を分けて管理する必要があるとして、今のうちから仕分けを進めています。

山本眞一郎店長
「登録番号が正しいとか、正しくないとか、そういうのはかなり手間がかかると思いますけど、税理士事務所さんと相談してやっていくしかないですね」

“インボイス残業”も 経理担当者は負担懸念

インボイス制度では、レシートや領収書の書式が変わるだけでなく、適切な納税のためにこれまで以上に厳格に管理する必要があります。
慣れないうちは特に経理などの担当者の企業の経理担当者などの負担が増えることが懸念されています。

SNSなどでは“インボイス残業”として話題になり、経理担当者向けのセミナーも開かれています。
東京・港区で行われたセミナーでは、担当者から制度の説明を受けた上で、専用のソフトを使ってインボイス制度に対応した請求書や精算書の記入方法などを体験していました。

参加者
「概要はきちんと知っておくべきだし、それぞれ自分たちがやるときになった時に対応できるようにしたいなと思います。正直始まってみないとわからない」

セミナーを主催した企業 稲田宙人さん
「多くいただいている声としてはやっぱり思っている以上に大変だとわかりましたと。企業における経理や従業員の方の業務負担を増やさずに対応できる形で寄り添ってサポートしていく」

消費税とインボイス制度 税制度に詳しい記者が解説

上原アナ

税制度に詳しい、さいたま放送局の江田剛章記者に聞きます。
「インボイス制度」ですが、やっぱり難しい、よくわからないという方が多いと思います。

江田記者

そうですよね。まずは消費税の仕組みから、お伝えしたいと思います。
わかりやすくするため、実際の手続きなどよりも簡略化しています。

たとえば、おもちゃ店の「おもちゃの井上」から客が税込み3300円で商品を購入したとします。
そのとき客は10%を消費税として300円支払っていますよね。
この300円は、「おもちゃの井上」から国に納める必要があります。

ただ、「おもちゃの井上」も製造している仕入れ先に消費税を支払っています。こちらは手作りおもちゃを作る「上原工房」です。
「おもちゃの井上」は「上原工房」から2000円プラス消費税10%、2200円で仕入れています。
200円は「上原工房」から国に納められるわけです。

これで行くと、おもちゃの販売価格にかかった消費税が300円に加えて、「上原工房」の200円で、国には500円が納められることになりますよね。

そうなんです。そこで、受け取った消費税300円から仕入れにかかった消費税200円を差し引く、つまり控除する形で、差額の100円を納める「仕入れ税額控除」ができます。
こうした控除があることで「おもちゃの井上」は100円を納めればよくなるんです。

国に納められるのは、200円と100円のあわせて300円ということですね。

ただ、この仕入れ税額控除の仕組みはインボイス制度が始まると、登録した事業者どうしの取り引きでしか認められなくなるんです。

井上アナ

登録事業者になるための手続きをしないといけないわけですね。

小規模事業者は負担増加? 迫られる難しい選択

そうです。そこでこちら、「江田ファクトリー」です。売り上げは年間1000万円以下の規模。こうした事業者は消費税を納税する義務が免除されています。

この「江田ファクトリー」がインボイス制度に登録しない場合、どうなるかといいますと、「おもちゃの井上」は「江田ファクトリー」から同じように2200円でおもちゃを仕入れて、3300円で販売したとします。

この場合、「江田ファクトリー」はインボイス制度に登録していないため、「おもちゃの井上」は先ほどの税額控除が認められず、300円をそのまま納めることになります。

そうなると「おもちゃの井上」としては、インボイス同士、費用の負担が少なくすむ「上原工房」から仕入れたくなりますよね。

「江田ファクトリー」としては、「おもちゃの井上」との取り引きの関係上は制度への登録を検討せざるを得ませんが、登録すれば新たに消費税の納税負担が生じ、難しい選択を迫られることになります。
このように判断に迷う事業者も多いなか、各地で税務署による相談会も開かれています。

制度開始直前 判断に迷う小規模事業者は

9月27日、東京・練馬区の税務署で開かれた説明会。個人事業主などが参加しました。

税務署の担当者
「登録を受けるかどうかの判断にあたっては、売上先がインボイスを必要としているかなどを検討する必要があります」

今回のインボイス制度、登録は強制ではないものの、小規模事業者などが取引先から登録を強要されるおそれもあることなどから中止を訴える声が根強くあります。
登録は、各事業者が経営や取り引きの状況をふまえて判断します。

参加者の中には、自分が登録すべきかどうか税務署の担当者にアドバイスを求める姿も見られました。

イラストレーターの女性
「どうしようかなと悩んでいる感じですね。選択として免税でもと思っている部分はあるんですけど、長い目で見てインボイスないと仕事がとれなくなっちゃうみたいなことを考えると、早めに手を打っていた方が仕事を今後進めていくうえではいいのかな」

個人事業主の男性
「いやー、大変ですねこれは。高齢者にとっては大変じゃないかなと思います。取引先からやってくれたらありがたいということで言われたので、税務署の方にもお聞きしながらやってみたいと思っています」

事業者の負担軽減策は

制度開始直前になってももまだ、迷っている人が多いんですね。
事業者の皆さんの負担を何とか減らすことはできないんでしょうか。

小規模・零細事業者にとっては、登録しても、しなくても、どちらにしても影響が大きく、国は軽減措置や経過措置を設けています。
制度に登録すると生じる新たな納税の負担を、3年間は20%に減らすなどとするものです。

一方で、小規模・零細事業者からはよりきめ細かい対応を求める声も多く聞かれ、制度への反対意見もいまだに根強くあります。

専門家からは、制度の周知や説明、理解を求めるための取り組みが足りないという指摘もあり、10月1日の開始後もさまざまな対応が必要になると思います。
国税庁をはじめ制度に関わる機関は今後も、さまざまな事業者に対する丁寧な対応を徹底して欲しいと思います。

国税庁は、制度について不明な点がある場合などは電話の専用窓口 0120-205-553 や、最寄りの税務署などに問い合わせてほしいと呼びかけています。

  • 江田 剛章

    さいたま局 記者 

    江田 剛章

    2013年入局 徳島局 名古屋局 社会部を経て 2023年から現所属

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