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「こども寺子屋」でお寺を身近な存在に 埼玉県加須市 龍興寺

  • 2023年05月25日

埼玉県加須市にある臨済宗の龍興寺。平安時代から続く由緒あるこの寺では、平日の午後、たくさんの子どもたちの歓声や笑い声が響き渡ります。寺の住職の保科基晴さん(48)が2013年から始めた「こども寺子屋」に集まる子どもたちの声です。

サラリーマンから住職に

サラリーマンの家庭に育ち、仏教とはほとんど縁のなかった保科さんが、龍興寺と縁を結ぶきっかけとなったのは、当時の住職の長女と結婚したことでした。

「これまでお寺との接点といえば、祖父や祖母の葬式や法事しかありませんでした。ただ、結婚してから義理の父とお会いすることが多くなりまして、私自身、剣道を小学校から大学まで続けていたものですから、座禅を中心とした臨済宗と剣道がどう結びつくのだろうと知りたくなったのがきっかけです」

大学卒業後、いったんは食品会社に勤めるものの半年で辞め、住職になるため修行を積んだ後、龍興寺の副住職となります。37歳のときに住職を継ぎますが、これまでほとんど付き合いのなかった地域の人たちに仏教の教えをどう伝えればいいのか、長い間、悩んでいました。

地域に開かれたお寺にしたい

ほかの寺の取り組みなどを参考に、保科さんが始めたのがコンサートやヨガ教室です。地域の人たちとの距離が縮まるにつれて、地域にとって寺がどれだけ大切な場所だったか、実感できるようになったと言います。

「お年寄りから昔の話をよく聞いたんです。境内で野球をしたり、お墓で鬼ごっこをしたり。境内で開かれたお祭りに行くのが本当に楽しみだったという話も聞きました。私の子どもの頃の寺との関わりは儀式だけでしたが、寺を地域の拠り所としていただくためには、小さい頃の思い出がやはり大きいんだなと感じました」

こども寺子屋ではスマホ禁止

こうして始まったのが「こども寺子屋」です。平日はほとんど毎日、学校帰りの10人ほどの子どもたちが龍興寺に集まります。本堂には卓球台やおもちゃが用意され、子どもたちは自由に遊ぶことができます。座禅の体験や宿題のサポートもしてくれます。

「知らないことをたくさん教えてくれて覚えられるようになった」、「勉強できるし、みんなと遊べるし、めちゃくちゃ楽しい」と子どもたちにも大好評です。

こども寺子屋には今の時代ならではのルールがあります。寺にいる間はスマートフォンや携帯電話を使ってはいけないんです。友達との時間に集中してほしいと保科さんが決めました。

「今の時代はデジタルも大切ですが、頼りすぎるのもよくないと思っています。目の前のものだけにとらわれるのではなく、その先の目に見えないものに視点を向けて、感性を養うことが情操教育になるのではないかと考えています」

夏休みにはイベントも開催しています。青空の下で座禅を組んだり、ALS患者の講演を聞いて命の大切さを学んだり、毎回、100人近くの子どもが集まります。5月には、市内で働くベトナムの若者との交流会も開かれ、一緒にクローバーの花冠やメッセージカードをつくったりしました。

保科さんは、これからも地域のさまざまな人たちが関わりを深める居場所として貢献していきたいと考えています。

「今いる子どもたちもみんなが地元にずっといるわけじゃないですし、それぞれに出会いがあってほかの地域に定住していくんだと思います。ただ、地域には必ず神社仏閣がありますし、思い悩んだときには手を合わせてお参りできるような拠り所になってもらいたい。大人も一緒になって子どもたちを育てていくことができるような、開かれたお寺の在り方をこれからも務めていきたいと思っています」

キャスターからひと言

こども寺子屋が始まって10年。最初通っていた子どもたちは高校生や大学生になっていて、イベントのときなどには、運営スタッフとして参加してくれることもあるそうです。

「参加している高校生や大学生を見て、子どもたちが数年後にあんな大人になりたいと思ってくれればうれしいです」と保科さんは話していました。

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