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月探査機「SLIM」月の岩石観測“想像以上” 地球のマントルの成分と似ていればジャイアントインパクト説を補強

  • 2024年2月2日

月面への着陸に成功した日本の無人探査機「SLIM(スリム)」。

搭載した太陽電池で発電し、調査を進めてきましたが、着陸地点に太陽があたらなくなる夜に入り、「休眠状態」に入ったとJAXA=宇宙航空研究開発機構が明らかにしました。

また、月面の岩石を観測するチームの責任者を務める立命館大学の研究者がNHKの取材に応じ「岩石は1つ撮影できれば成功だと考えていたので、10個も撮れたのは想定以上の成果で本当に驚いた。世界で初めての観測データを出せそうだ」と語りました。

チームでは現在、観測した岩石がかつて月の内部にあった鉱物「カンラン石」かどうか分析を進めていて、その成分が地球の地殻の下にある岩石の層=マントルと似ていれば月が地球のマントルから誕生したとする仮説「ジャイアントインパクト説」を補強する成果になると考えられています。

「SLIM」休眠状態に

1月、月面への着陸に成功した日本の無人探査機「SLIM」はメインエンジンで異常が発生し、想定とは異なる姿勢で着陸したことから、搭載した太陽電池で発電ができていませんでしたが、着陸からおよそ8日後までに太陽電池が発電して地上との通信を再び確立することができました。

その後、搭載されている特殊なカメラを使って月面の岩石に含まれる鉱物の種類などを測定して月の起源を探る調査が行われていましたが、JAXAによりますと着陸地点は太陽の光があたらなくなる夜に入り、探査機が「休眠状態」に入ったことを確認したということです。

これまでの調査で「あきたいぬ」や「ダルメシアン」など、それぞれ犬の名前をつけた月面の10の岩石について、特殊なカメラを使った観測に成功し、解析を進めているということです。
 

月面では、夜にはおよそマイナス170度に下がることが知られていて、探査機はこうした低温に耐える設計になっていませんが、再び探査機に太陽の光があたる2月中旬以降、機能が維持できていれば調査を再開したいとしています。

「SLIM」“想定以上の成果”

月面着陸に成功した日本の無人探査機「SLIM」について、月面の岩石を観測するチームの責任者を務める立命館大学の研究者がNHKの取材に応じ、「岩石は1つ撮影できれば成功だと考えていたので、10個も撮れたのは想定以上の成果で本当に驚いた。世界で初めての観測データを出せそうだ」と語りました。

1月20日、月面に着陸した日本の無人探査機「SLIM」は想定と異なる姿勢で着陸したため一時、太陽電池による発電ができなくなりましたが、その後復旧し、1月31日まで科学探査を行いました。

月面の岩石を観測するチームの責任者で、立命館大学の佐伯和人宇宙地球探査研究センター長がNHKの取材に応じ、発電が再開したときの状況について「復旧した瞬間はJAXAの管制室にいました。みんな『うぉー』と叫んで拍手がわき起こりました。同時に慌てて準備に入りました」と振り返りました。

佐伯さんのチームは「マルチバンドカメラ」という特殊なカメラで鉱物の種類などを測定する調査を行い、おととい(1月31日)までに10の岩石を観測することに成功しました。チームでは現在、観測した岩石がかつて月の内部にあった鉱物「カンラン石(せき)」かどうか分析を進めています。

「カンラン石」が見つかり、その成分が地球の地殻の下にある岩石の層=マントルと似ていれば月が地球のマントルから誕生したとする仮説、「ジャイアントインパクト説」を補強する成果になると考えられています。

チームでは半年から1年後に観測結果を公表したいとしています。

佐伯さんは、次のように意気込みを語りました。

立命館大学 佐伯和人 宇宙地球探査研究センター長
「岩石は1つ撮影できれば成功だと考えていたので、10個も撮れたのは想定以上の成果で本当に驚きました。もしSLIMが、太陽電池のパネルやカメラを下にして倒れていたら観測はできなかったので、本当に運命の神様に感謝しているし、チームの皆さんにも感謝しています。観測が無事終わったあとにチームのメンバーで祝杯をあげたんですが、朝まで飲んだので、今は少し疲れが出ているかもしれません。世界で初めての観測データを出せそうなので、月と地球の起源の謎を解き明かすような成果につなげたいと思っています」

なぜ犬の名前が月面の岩石に

「SLIM」が観測に成功した月面にある10の岩石には、「トイプードル」や「とさいぬ」といった犬の名前がつけられ、なぜ犬の名前なのかと話題になりました。

はじめに名前をつけたのは、岩石を観測するチームの責任者の立命館大学の佐伯和人宇宙地球探査研究センター長だということです。その目的について佐伯さんは観測に関わる研究者の間で岩石を識別したり、それぞれの大きさをイメージしやすくしたりするためだったと明らかにしました。

立命館大学 佐伯和人 宇宙地球探査研究センター長
「当初は岩石に番号をつけて識別しようとしたものの、観測する順番を話し合う際に『2番目に分析する岩石は1番』などとなってしまい、大混乱するので具体的な名前が必要だという話になりました」

ほかにも、SLIMの管制室がある神奈川県相模原市周辺の地名や、世界の国名、フルーツの名前などが検討されましたが、犬好きの佐伯さんがトイプードルや柴犬など犬の名前を提案すると、チームのほかのメンバーも次々と自分の好きな犬の名前をあげていき、それが定着したということです。

チームでは現在、進めている観測の結果を学会などで発表する際も、これまで公表してきた犬の名前を使用するとしています。

◆「プードル」ではなく「トイプー」が定着◆
公表された資料には、一番手前の岩石の愛称「トイプードル」について「プードル」の前に「(トイ)」という表記があります。

これについて佐伯さんは、「すごく小さいかわいい犬というのでパッと思いついたのがトイプードルで、略して『プードル』と呼ぶつもりでした。日本では『プードル』といえば『トイプードル』を想像する人が多いため『(トイ)』という表記を入れましたが、『トイプー』という略称が定着してしまい、ちょっと私の想像と違いましたね」と苦笑していました。

◆天体などに名前つけるには◆
天体や地形に正式な名前をつけるには、国際天文学連合に申請して承認される必要があります。

例えば、今回、SLIMが着陸したクレーターは「SHIOLI(シオリ)」という名前がつけられていて、今回の着陸が歴史のターニングポイントにはさまれる「しおり」となるようプロジェクトチームが申請し、2019年に承認されました。

そのほか、かつて日本の探査機が着陸し、サンプルを持ち帰った小惑星「リュウグウ」や「イトカワ」も正式な名前として国際天文学連合に認められています。

今回の犬の名前について、佐伯さんは「今のところは申請は特に考えていませんが、求める声が大きければ検討するかもしれません」と話していました。

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