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秋のお出かけ 俳人西村麒麟さんと吟行!in江東区

  • 2023年10月4日

さわやかな秋に一句。外を散策しながら俳句を作る「吟行」第二弾!
2021年の正岡子規ゆかりの地、台東区に続き、今回の舞台は江東区。江戸時代、俳句を芸術へと高めた松尾芭蕉が14年住んだ地です。
一緒に吟行をしたのは、西村麒麟さん。若手の登竜門「石田波郷新人賞」など数々の賞を受賞している注目の若手俳人です。江東区在住の西村さんイチオシの場所を巡りました。

松尾芭蕉ゆかりの場所“音で”一句

まず向かったのは、芭蕉記念館。芭蕉は37歳のとき、江東区深川に移り住み、「古池や蛙飛こむ水の音」この有名な一句も深川で詠みました。記念館では、芭蕉の業績を後世に伝えるため貴重な資料を展示し、俳句講座や句会など文化交流の拠点となっています。敷地の中には散策できる庭園があり、芭蕉の句に登場する様々な草木が植えられています。

麒麟さん

俳句の世界でただ虫というとカブトムシなどの昆虫ではなく、スズムシ・コオロギなどの鳴く虫の事を表します。音をテーマに一句作ってみましょう。

古谷
アナウンサー

「真っ先に 空から届く 秋の声」
秋晴れの秋の空、空から何か来るんじゃないかと思って作りました。

 

これはもう、直すところは一切ないすばらしい句です。うまくできてると思います。秋は空が大事。秋空、空が高い感じがする。秋の声は、秋の何かしらの声、これは特定の何かというよりは心できくような音なんです。これは空から降ってきてますね。

髙橋
リポーター

「秋風や コロコロゴホン 虫と吾子」
さっき柳を見ていたら風で揺れたんです。秋だから風が吹いて涼しくなってきて、虫も気持ちよさそうにコロコロとないている。でも実はけさ、5歳の娘がゴホゴホちょっとしだして、これは風邪の季節がきたなと。「風」と「ゴホゴホの風邪」を引っ掛けてみました。

 

読み方でだいぶごまかされたような、いい句に聞こえるが、ダジャレを兼ねたという風と風邪。風邪なのかは解説を聞くまで僕はわからなかったので、どういうことなんだろう?と相手に伝わらないと損をしちゃう。

添削した句がこちら。
「深川や コロコロコロン 虫と吾子」

病気の風邪の要素はなくし、季語は「虫」だけ。コロコロコロンと、虫の声を強調しました。

 

 

「秋高し 心の耳に 手を当てて」

 

芭蕉さんが深川で詠んだ句に、「蓑の音を聞きに来よ草の庵(みのむしの ねをききにこよ くさのいお)」っていう句があるんです。もちろんミノムシって鳴けないんです。ただ先人の人はミノムシが鳴いてると思って遊ぶわけです。きょうは、秋空に思いをはせながら私も心の耳でいろんな音を聞いて遊びましょう。と、芭蕉さんに答えたという句ですね。

 

さすが先生芭蕉さんと対話しちゃってんだ。

昭和の俳人石田波郷“第二の故郷”砂町の商店街にて一句!

次に向かったのは「砂町銀座商店街」。およそ670mの通りに180店あまりが軒を連ねています。
青果店や総菜店など、下町の雰囲気が残ります。ここにゆかりのあるのが、昭和を代表する俳人、石田波郷。愛媛県出身で、戦後間もない昭和21年から12年間、江東区砂町に住んでいました。
砂町を「第2の故郷」と愛し、特に商店街はお気に入りの場所だったそうです。

 

「ひとり寒し砂町銀座過ぎるとて」という、波郷さんの句があります。波郷さんは大変無口な人で、家族にもあんまりしゃべらないがみんなから愛されているという。実際は波郷さんも人の事が好きで人の営みを見ることはきっと波郷さんにとっても楽しい事だったんだろうなっていうのが感じられる。波郷さんの砂町で、俳句を詠んでみましょう。

二手に分かれて商店街へ!古谷さんが立ち寄ったのは、あさりが売りの総菜店。
お店を切り盛りするのは小川勝子さん。代々浦安であさり漁師をしていた家にとつぎ、50年にわたり、この砂町であさりを使ったこだわりの総菜を販売しています。

小川勝子さん

あさりごはんとか、あさりのコロッケ、むきみが中にゴロゴロと入っています。あさりコロッケは磯の香りを楽しんでもらいたいのでソースをかけずにどうぞ。

一方の麒麟さんは、商店街に来ると立ち寄るという食堂にやってきました。ここで生ビールを一杯!きのうも来たそうです。麒麟さん、飲みすぎには気を付けて、俳句もよろしくお願いしますね!

 

 

「コロッケの あさり溺れる 芋の海」

 

あさりの専門の総菜屋さんで、何がおいしいですかといったらコロッケがおいしいと。いただいたおかげで創作意欲が湧きまして。作った句がじゃんってこっちです。もう見たまま感じたまま「コロッケのあさり溺れる芋の海」。もうコロッケかじったら中にもうゴロゴロあさりがもう溺れるようにいて、まさにそれがね。芋の海で泳いでいるようでした。

 

このあさりコロッケを、食べた事のない人にも伝わるかなというところが、難しいかもしれない。例えばコロッケ「に」にして、「コロッケにあさり溺れる」だとコロッケの中にあさりが入っているのかなと、「の」と「に」だけで意味が相手に通じやすくなるんです。
そして草の花、何気ない秋の草花。これが秋の季語ですから、これで秋のちょっと涼しくなった頃に、あさりがたくさん入っているあさりコロッケおいしいなと。草の花の季語でちょっと涼しい感じにしてあげると、熱いおいしいものが際立つかなと思います。

添削した句がこちら。
「コロッケに あさり溺れる 草の花」

 

 

「秋澄むや 泡の走って ゐるビール」

 

とてもおいしい秋のビールでございましたという、ビール自体が夏の季語になるんです。ビールを使いたかったら秋であることを分からせてあげないといけない。そこで秋澄むは気持ちがすんでいるという気分のよさを演出した。やっぱり泡の走ってるビールがいいですね。

芭蕉・波郷も詠んだ 小名木川で一句!

旅の最後、麒麟さんに案内してもらったのは、全長およそ5キロの「小名木川(おなぎがわ)」。
江東区のほぼ中央を東西に流れています。江戸時代、塩などの物資を運ぶ運河として作られました。今では、遊歩道が整備され、地域の散歩コースとして親しまれています。

 

芭蕉さんも「川上とこの川しもや月の友」という船に乗って月を楽しんだという句が残ってます。波郷さんも小名木川の句はいくつも残ってますので、松尾芭蕉・石田波郷が愛した小名木川という、最後はこの「川」で俳句を作ってみましょう!

 

「芭蕉波郷 行き交う子らの 川流る」

 

小学生とか中学生ぐらいの子が下校の時間なのかけっこう通るんですよね。江戸、昭和、そして現在の令和のこどもたちという、有名人2人も入れてちょっと強気な一句です。

 

今回の旅の締めとしてはすばらしいんだけれども、季語はどこにいますか?

 

季語はね、じゃあこの「川」!

 

川だけだと季語にならないので、「秋の川」とすると行き交うと、秋がいく、といのがうまく響いてくるんじゃないかなと思います。

添削した句がこちら。
「芭蕉波郷 行き交う子らの 秋の川」

 

 

「橋渡る 母の横顔 夕暮れよ」

 

私は小学生の時、陸上クラブに行っておりまして、地元にも大きな川があって橋を渡って、毎日母の運転で通っていたんです。その母の運転する夕暮れのまぶしそうな横顔を見ながら帰っていたなと。この川を見ていると、故郷の川とその思い出がよみがえってきました。

 

横顔と書いたのはよかったかなと思います。ただ顔じゃなくて横顔だから母の懐かしい姿を感じるといういい句なんですが、これもですね。やっぱりここに来てお2人とも感動するのか季語が、どこに?

 

何となく「夕暮れ」が秋の季語なのかなって思っていたんです。

 

「秋の暮れ」としたら意味合いはまったく変わりませんので、惜しかった!

添削した句がこちら。
「橋渡る 母の横顔 秋の暮れ」

 

●麒麟さんの一句で旅をしめくくっていただきましょう!

 

「ふと来たる 月見の友や 小名木川」

 

まだ月は出てないので心の目で見たんですけれど、月見の友というのは月見をしに来ているお友達ということです。 芭蕉さんが、最初に訪ねた深川芭蕉庵のほうから船に乗って月見に来る時に、橋の上の波郷さんにでも会っておーいと手を振ったら楽しいだろうなというような気持ちで。時空を越えたような句ができたらなと思って芭蕉さんの事を想像しながら、作りました。

麒麟流作句法

俳句を上達させるコツ、基本の3箇条、「麒麟流作句法(さっくほう)」をご紹介。

●その一「わかる」
相手にも分かる、伝わるように。コツは赤のことを紅というように格好つけるのではなく、簡単な言葉を選びましょう。

●その二「すっきり」
ターゲットをひとつに絞ることでより分かりやすくなります。

●その三「いきいき」
これが一番大切!うそでない、自分の思いが入った句は詠み手にも伝わります。

 

【編集後記】

俳人ゆかりの地、江東区。昭和の俳人、石田波郷さんのことを、今回の吟行で初めて知りました。
砂町文化センター内にある石田波郷記念館には、180cm以上あったという波郷さんの等身大パネルが迎えてくれます。

地域の学校やお寺には句碑も建立されていて、波郷さんとその句は砂町に根付き愛されていることを感じました。江戸、昭和、令和と続いている俳句の文化を感じながら、ゆっくり歩いてみてはいかがでしょうか。

取材担当:髙橋香央里

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