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  • 2023年6月19日

牧野博士とめぐる草木の物語 〜東京都立大学・牧野標本館〜

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牧野博士とめぐる草木の物語。  
訪ねたのは、東京八王子市の東京都立大学の中にある「牧野標本館」。博士が生涯をかけて作った「植物標本」を保管しています。植物標本は、新種発表の際の証拠資料として使われ、分類の比較などの際に必須の研究資料です。  
100年以上前の、お宝ともいえる博士の標本はどのように活用されているのか。標本を通し、その人柄にも触れることができました。

東京都立大学、南大沢キャンパス内にある「牧野標本館」。標本の管理を担う、東京都立大学理学部の村上哲明(むらかみのりあき)教授に、普段は非公開の標本庫を案内していただきました。

髙橋  
リポーター

なんだかひんやりしますね?

 

村上さん

標本にカビが生えないように、あるいは虫に食べられにくいように365日年間を通じて温度は20度、湿度も50パーセントに保たれています。

牧野標本館では、博士亡きあと家族から寄贈された40万枚といわれる標本を20年以上かけて整理・分類。博士が所蔵していた標本のなかには、全国の植物愛好家から送られたものもあります。

博士自ら採集したものは、うぐいす色の表紙でMのマークが目印です。

まず見せていただいたのは、博士が特に好きだったという「ワカキノサクラ」。  
牧野博士が名付けた桜で、台紙いっぱいに花びらや葉、枝などさまざまな部分がおさまっています。  
さらに花が散ったあとのワカキノサクラも。牧野博士はひとつの植物を観察し続け、標本にしていました。

 

植物がもっている特徴をできるだけちゃんと現われるように。牧野先生の標本からは必ず美しく作ろうっていう意識も読み取れる。どの標本もバランスよくきれいに作られているんです。

牧野博士が遺した標本はいま、研究資料として様々な形でいかされています。そのひとつが、地域の環境の変化を明らかにすることです。

120年前、東京渋谷で博士が採集した、イカリソウ、アズマイチゲ、ホトトギスの標本です。  
今となっては、都内で見ることが非常に珍しくなっている植物ばかりです。

 

いい状態の田園地帯ですね、里山があって水田があって畑があって、そういうところの環境だけ生えるような山野草ですけれども、この100年の間に東京都は特に環境は激変しましたから、元の状態が分かるもとの状態を知ることができる貴重な科学的資料でもあるってことですね。

地球温暖化の研究対象として、注目されている植物もあります。「ハクサンハタザオ」です。  
牧野博士が31歳と73歳のとき、同じ場所で採集していました。

この2つの標本と、のちの研究者たちが、同じ地域で時代ごとに採集した約200点を集めてDNAを解析。その結果、乾きに耐えられる「乾燥耐性」の遺伝子を持つ、ハクサンハタザオの数が増えていることが分かりました。

 

同じ場所の同じ植物でも、100年ぐらいの期間の間に、ちゃんと地球温暖化に対応するように植物は遺伝子を作り変えている、割合が変化してきているということが読み取れるのです。

私たちは最新の技術を使って牧野先生が想像もできなかった情報を、遺した標本から引き出していきますよという、牧野先生も必ず喜んでくださると思うのです。

大泉宅の標本製作室にて 昭和初年(個人蔵)

いま、国内外の研究者から研究資料として活用されている牧野博士の標本ですが、あまりにも膨大で多くが未整理のままでした。東京・練馬区の自宅から、昭和33年に完成した牧野標本館に、トラックで慎重に運ばれたという標本。その多くが新聞にはさまれたままの状態だったといいます。

当時のことを知る人に話をうかがいました。60年あまり、博士の標本の整理に携わっている、大学の元職員、山本正江さんです。退職した今も分類作業を手伝っています。  
博士の標本に携わって最初の仕事は「そうじ」からだったといいます。標本には、虫食いやねずみのフンの害を受けているものがあり、慎重に作業を進めていきました。

山本さん

小さい筆で細かく、はらっていくわけです。サクラなんかは、すごく虫食いが多いから、枝のズイまで食べられていて、一生懸命そうじをするとボロボロになっちゃうということも。

中でも難航したというのが、標本にそえる「ラベル」づくり。いつどこで誰がとったか、この情報がないと標本は研究資料としていかすことができません。しかし博士のメモは、おおざっぱな地名の記載が多く、場所の特定に時間を費やしたといいます。

これは山本さん自ら作成した資料。牧野博士の行動を時系列にリスト化したものです。山本さんは、博士の自伝や雑誌の書物、手紙のやりとりや写真など、博士に関わるありとあらゆるものと照らし合わせながらまとめていき、ラベルづくりに役立てていました。

 

縁の下の力もちほどではないですけれど、そういう気持ちでやってきました。本当に尊い経験で、これから命続く限り役に立つことはなるべく皆さんのために記録していきたいと思っています。

94歳で亡くなる7年前に採集したツバキの標本

晩年になっても自宅の庭の植物を採集し、標本を作り続けた牧野博士。その志が宿った標本はこれからも植物学の発展につながっていきます。

 

牧野先生の全ての植物に対する愛とか情熱を標本から感じられると思います。とことん突き詰めていけば、とてつもないことができるということです。牧野先生が最も恐れられたのは自分の集めた標本が収蔵され使われないままになってしまうというのが最も恐れられていたと思うので、積極的に活用していきたいと思っています。

あなたも牧野博士になれる!?家で手軽にできる標本作り

植物採集!最も大切な心得とは?

 

採集していい場所かどうか、採集していい植物か、まず真っ先に確認しましょう。

許可を得てキャンパス内で植物探し。見つけたのは黄色い花「ブタナ」という植物です。  
根も重要な情報源なので、傷つけないよう周りからほっていきます。  
●根についた土はカビの原因になるので水できれいに洗いましょう。  
●時間が経つほどしおれてしまうので、郊外に行く際は新聞紙にはさむのがおすすめ。

はさむための材料はこちら。新聞紙、重し、2枚の板、重しは2リットルのペットボトルに砂や水をいれたものでもオッケーです。

板の上に、一面を半分に切った新聞紙を用意しその片側に、植物を置いていきます。新聞からはみ出してしまう場合は、茎を折って、新聞の中に納まるようにしていきます。一番大事なのは、植物のあらゆる情報を見せること。花の全体だけでなく、付け根もわかるようおさえます。

葉も同じように、表だけでなく一部は裏の状態が見えるようにするのもテクニック。  
バランスよく配置ができたら、新聞紙で覆います。

上下を新聞紙の束ではさみ、サンドイッチの状態に。2枚目の板を上に置いて、重しをのせます。

 

上と下にはさんだ新聞の束が吸い取り紙がわりなので、両側にはさんだ古新聞をどんどん交換して乾かしていく。

 

両側のほうをかえていくんですね。

~早く乾いてきれいな標本を作るポイント~  
●最初の2日間は吸い取り紙の新聞の束を1日2回取り替える。3日目からは1日1回。  
●内側の植物にふれている新聞紙がしめっていなければOK!  
●早ければ1週間、乾きにくいものだと2週間程で乾く。

植物が乾いたら台紙にはっていきます。牧野標本館では、専用の器具を使って細かな部分をとめていきますが、家では「マスキングテープ」がおすすめ。半分に細くカットして貼っていくときれいに固定できます。

忘れてはいけないのが「ラベル」です。いつどこで、誰がとったかの基本情報と、生育環境や標本になると失われてしまうような情報、例えば「花の色」はどんどんあせていくので、そういった情報を記載することが一番のポイント。

完成した標本がこちら!

樹木など、根のまま標本にするのが難しい植物の標本作りのポイントも教えていただきました。  
教えてもらったのは初夏の花、クチナシ。

●枝は、枝分かれの仕方も植物の特徴がでるので、可能ならば枝分かれしているところからカット。  
●全体の花の形はもちろん、つぼみがついている枝を選ぶと尚よい。

 

【編集後記】

「ヤクシマスミレ」

「ヤクシマミヤマスミレ」

【タイプ標本】  
新種発表の際の証拠として使われる標本を「タイプ標本(基準標本)」といい、牧野標本館にも800点あまりのタイプ標本が保管されています。博士の「ヤクシマスミレ」のタイプ標本と比較して、後の研究者が分類、新しい植物として発表したのが「ヤクシマミヤマスミレ」。素人ではどこをどう見ていいやら…まったく分かりません。植物学者の方々のすごさが身にしみます。

 

ハワイとウクライナで採集された植物標本

【重複標本】  
また牧野博士の標本は、世界とつながる役割も果たしています。同じ植物標本が何枚もあることを「重複標本」といい、博士の重複標本を世界各地の研究機関へおくり、代わりにその地域の標本と交換しています。その一部が、「ハワイ」「ウクライナ」の植物標本。似た種類でも地域によってどのような違いがあるか、また戦災などから標本を守るという意味でも世界各地の標本を集めて保管しておくことも大切だと村上先生はおっしゃっていました。牧野博士の標本はとてもきれいなので、海外の専門家からも喜ばれるそうですよ。


 
リポーター 髙橋香央里

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