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「人生会議」って? 最後まで、望む生き方を

人生のしまい方 あなたは
  • 2024年4月17日

シリーズ「人生のしまい方 あなたは」。

前回の記事では、「みとり」までを支える高齢者施設が増えている状況をお伝えしましたが、各施設ではどうしたらより本人の希望に沿ったケアを行えるのか模索が続いています。今回は、人生の最終段階で望む生活が送れるよう、施設で始まった「人生会議」の取り組みについて取材しました。

NHKでは「人生の最後の時期」、「終活」、「お墓」など、みなさんの抱えている悩みやご意見、体験談などをもとに取材を進めていきます。投稿はこちらまでお寄せください。

(千葉放送局記者・浅井優奈)

施設で開かれた「人生会議」

千葉県八街市にある特別養護老人ホーム「生活クラブ風の村特養ホーム」で生活している、後町誠之助さん(87)です。日常生活全般に介護が必要で、4年前からこの施設で暮らしています。

後町誠之助さん(87)

この日後町さんは、施設が新たに取り組み始めた「人生会議」に参加することになりました。後町さんの妻の光江さんも施設に到着し、会議が始まります。

およそ1か月ぶりの再会を喜ぶ2人

集まったのは、後町さんと妻の光江さん、それに日頃から後町さんのケアに関わっている施設の介護職員や看護師、ケアマネージャーなど合わせて7人です。

施設の職員

これから「人生会議」を始めます。人生会議って何かを簡単に説明すると、その人らしい暮らしを人生の最後まで続けるために何を大切にしようか、また、もしものときに望むケアや医療について、前もって話し合っていこうという会議です。

「元気なうちに」話し合いを

施設ではこれまで、入所者の体調が悪くなったときにどのようなケアや治療を行うか、事前に家族に書面で確認したり、聞き取ったりしていました。

施設で使用している「医療行為に関する希望確認書」

しかし、そのときすでに本人が意思表示をするのが難しい状態になっていると、家族も判断に悩むといいます。

施設の看護師

具合が悪くなってからだと、ご本人に意思の表出をしてもらうことが、やはり難しいです。ご家族が代弁者になった場合、事前に話し合いをいろいろしていれば、選択の材料になります。

そこで施設ではことしから、元気なうちに本人と家族を交えて全員で思いを共有する「人生会議」を開くことにしたのです。

大切にしたいものは?

会議では、施設で手作りしたカードを使って、本人がどんなことを大切にしたいと思っているのかを引き出していきます。

施設が手作りしたカードを使って進めていく
施設の職員

まず設定があって、私たちは「残り6か月の命」です。この期間、何を大事にして過ごしたいかっていうのを3つ選んでいきたいと思います。

机の上に並べられた14枚のカードには、「痛み・苦しみを取ってほしい」「家族と過ごしたい」「医師・看護師にそばにいてほしい」など、本人や家族が大事にしたいことの候補が書かれています。

これらのカードの中から、後町さんが大切にしたいことを3つ、選んでもらいました。

カードを選ぶ後町さん

後町さんが選んだのは、「お金の心配がない」、「家族と過ごしたい」、「おいしいものを食べたい」が書かれたカード。さらに選んだカードについて詳しく聞いていきます。

施設の職員

どうして「家族と過ごしたい」を選んだんですか?

後町さん

やっぱり家族は大事だよな。

施設の職員

「おいしいものを食べたい」を選びましたが、どんなものを食べたい?

後町さん

「すし」かなあ。

また、妻の光江さんにも同じように選んでもらいました。

悩みながらカードを選ぶ光江さん

光江さんが選んだカードは、「家族と過ごしたい」、「旅行に行きたい」、「最後までお風呂に入りたい」、「おいしいものを食べたい」でした。どれも大切で3つを選びきれず、4つ選びました。

選び終わったあとは、2人が選んだカードとその思いをお互いに伝え合います。

一致していた部分も多く、お互いの思いが分かって、2人に笑顔が見えました。

どこまでの医療を希望しますか?

また、医療の選択についても尋ねていきます。

看護師がカードを使って説明していく

まず、胃に直接栄養を送る「胃ろう」をするかどうかなど、食べられなくなったときのことについて尋ねました。

看護師

自分でご飯が食べられない、飲み物も自分で飲めなくなっちゃったときに、おなかに簡単な手術をして穴を開けて、管で栄養を入れるっていうのがあるんですが、どうですか?

後町さん

(首を横に振る後町さん)

看護師

もう一つは、手術はしないで、鼻から管を入れて胃に栄養を直接流す方法があるんですが、これはどうですか?

後町さん

(首を横に振る後町さん)

このあとさらに、心臓が止まったときに心臓マッサージをするかどうかや、呼吸が止まったときに人工呼吸器を使うかどうかなども聞きました。

後町さんと光江さんの答えは、いずれも「望まない」というものでした。

看護師

きょう決めたものが絶対じゃないので、またご相談しますので、そのときは一緒に考えてくださいね。

会議を終えて、夫婦の間でも初めて気づくことがあったといいます。

妻 光江さん
医療とかそういうのをやってほしくないっていうのは、きょう初めて知りました。自分だけの思いでなく、(夫と)思いが一致したので、夫がそういう考えなんだというのが分かってよかったです。

後町さんの人生に触れる1時間に

およそ1時間の会議。後町さんの人生について触れる時間となりました。長年、金型職人として働きながら4人の子どもを育てあげた後町さん。昔は職人気質だったといいますが、今はとにかく笑顔の多い毎日を送っています。今回の会議で「好きな飲み物は?」の質問には、「ビール」と答えた後町さん。この日の最後は大好きなビールで乾杯しました。

大好きなビールを飲み、おいしいと話す後町さん

人生会議は、施設のスタッフにとっても、本人の思いを知るよい機会になったといいます。施設ではこれまでも、年に一回、胃ろうなどの処置を受けたいかどうかなどを訪ねる書面を入所者の家族に送ってきていますが、後町さんの家族は今まで迷って回答することができていなかったそうです。施設の職員は、「今回の取り組みによって少しでも今後のことを考えていくきっかけになってくれれば」と話していました。さらに、「今回のようにあらかじめ本人やご家族と気持ちの土台を作っておくことで、いざというときに選択肢を出したり、アドバイスをしたりすることもしやすくなる」とも話していました。

本人を交えて話し合っていく

人生会議は国も推進している取り組みですが、施設でのみとりに詳しい佐久大学の島田千穂教授は、「この施設のように本人を交えて話し合えている施設はまだまだ少ない」と指摘しています。

佐久大学 島田千穂教授

その上で、「単に胃ろうなどの医療を受けるかどうかという選択ではなく、本人が何を大切にしたいのかという価値観のところから話し合うことを大事にしてほしい」と話していました。

編集後記

今回、同じ施設に入所している他のご家族にもお話を伺いました。辻かつゑさんと南久美子さんの親子です。

左:娘の南久美子さん 右:母の辻かつゑさん

辻さんは、70歳のころに脳梗塞になったあと1人での生活に難しさを感じるようになり、それから子どもたちが生活をサポートしながら暮らしてきました。しかしおよそ3年前、転倒して大腿骨を骨折してしまい入院。医師から「この先、家で1人で生活するのは難しい」と言われたこともあり、施設が自宅よりも安心できると、入所を決めました。

辻かつゑさん

最初、施設には行きたくないという思いだった辻さん。いまの暮らしを聞いてみると、「まあまあだよ」とのことでした。家族としても、当初は家の方が良いと話す母に対し、他の選択肢はないのだろうか、と悩む思いがありました。しかし、娘の南さんは、面会に行くたびにとても元気で、顔色が良くなっていく母の姿を見て、少しずつ安心する気持ちが大きくなっていったといいます。

一方で、簡単には割り切れない気持ちがあるとも話していました。

娘の南さん

やっぱり最後まで本当は家でみてあげたいって実際は思うんです。ただ、自分たちの生活状況を考えると、やっぱりどこかに無理があるので、そこの無理な部分を施設ですごく手厚くケアしてもらえてるから、やっぱりこっちで良かったんだなって思い直すんですけど…。

「大好きな母親だからこそ」と話す南さん。これまで、母と家で一緒に暮らしたいという思いと、施設での生活を続けるという選択肢のあいだで、ずっと揺れてきたといいます。そして先日、施設での生活が良いのではと覚悟を決めたところなんです、と打ち明けてくれました。

大事な家族だからこそ簡単に決められない。

今回の人生会議の取り組みは、家族でなかなか話し合うことが難しい話題について、触れやすくなるきっかけとして良い機会だと感じました。一方で、その中で問われる選択肢は簡単なものではないとも感じました。施設では会議の終わりに「きょう決めたことが絶対ではないので、これからも一緒に考えてくださいね」と伝えていました。簡単に答えが出るものではありませんが、私自身も考え続けていき、家族と話し合っていきたいと感じた取材でした。

 

「首都圏ネットワーク」での放送の内容は、「NHKプラス」で4月24日(水)午後7時までご覧いただけます。

  • 浅井 優奈

    千葉放送局 記者

    浅井 優奈

    2018年入局。函館・札幌での勤務を経て千葉局へ。医療や福祉の取材を続けています。

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