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無縁でも望む墓へ 生前から備える“横須賀方式”とは

人生のしまい方 あなたは
  • 2024年3月27日

シリーズでお伝えしている、「人生のしまい方 あなたは」。これまで、亡くなったあと火葬や納骨を行う家族や親族がいないため、代わりに行政が火葬して「無縁の遺骨」となる実態をお伝えしてきました。

そうした人は、身寄りがないか、親族と疎遠になっている一人暮らしの高齢者が多く、自分の死後を不安に思っていても、誰に託せばいいかわからない場合もあるかもしれません。そこで、生前から本人の希望を聞き取り死後に備えておくという先進的な取り組みを進めている自治体があります。

(千葉放送局記者・木原規衣)

市民が“無縁遺骨”になる前に 横須賀市

神奈川県横須賀市にある遺骨の保管場所です。

並んでいるのは、引き取り手のない遺骨。その数はおよそ500にのぼります。

横須賀市
北見 万幸
福祉専門官

横須賀市の、引き取り手のないお骨です。ほとんどが身元がわかっているんです。市の職員としては切ないですね。

古い遺骨では、昭和30年代に火葬され、いまだに墓に納められていないものも。こうした遺骨は、生前に社会的に孤立していた人ばかりではなく、亡くなった時に親族の連絡先がわからないものも増えているといいます。

横須賀市地域福祉課 北見万幸 福祉専門官

横須賀市地域福祉課の北見万幸さん。福祉の仕事に長く携わり、弔われることのない遺骨を納めているうちに、ある思いが生まれたといいます。

横須賀市
北見 万幸
福祉専門官

ここに運んでくるまでに生前の希望を聞いていないので、何年も弔われずにここに置かれたままなんです。亡くなるまで市民だった方がほとんどですから、生きているうちに、まずは希望を聞いておいたほうがいいんじゃないかと。自分の遺体・遺骨がどこに行っちゃうんだろうって心配な方は相談に来てください、ということをしておいた方がいいんじゃないかと思ったんです。

そうして横須賀市が独自に始めたのが、亡くなったあとに納骨する場所などの希望を、生前に聞き取っておく「エンディングプラン・サポート事業」でした。

エンディングプラン・サポート事業の案内

事業では、1人暮らしで身寄りがなく、経済的に余裕がない高齢者などを対象に、健康なうちから市が葬儀や納骨先の希望を聞き取ります。そのうえで、本人と葬儀社の間で「契約」を結んでもらい、26万円ほどの費用を事前に支払ってもらいます。市は定期的に訪問して見守り、死後も納骨まで見届けるというものです。

身寄りがなくても生前から備える 利用者は

この事業を利用する、佐古正枝さん(89)です。

夫・之男さんと正枝さん

子どもはおらず、警察官だった夫は40代の時に病気で亡くなりました。母親や義母などの親族を看取ったあとは、40年以上1人暮らしです。

三味線を弾く正枝さん

かつては趣味の三味線に打ち込み、100人以上の弟子がいましたが、高齢になってからは顔を合わせることもないといいます。

いまは、家で1人で過ごすことが多いといいます。

佐古正枝さん

全くの1人になりますからね、頼りになる人もいないですから。心配というより、どうすればいいのかなと思っていたんです。

そんな正枝さんのもとを定期的に訪れるのが、横須賀市のサポート事業を担当するケースワーカーです。

ケースワーカーと面談

2、3か月に1回、正枝さんの家を訪ねたり、電話したりしています。

佐古さんの「支援計画書」

佐古さんはケースワーカーと相談を重ね、亡くなったあとのことを決めた計画書を作成。市に協力している葬儀社から1社を選び、火葬してもらう契約を交わし、先に費用を支払いました。遺骨は葬儀社に運んでもらい、親族の眠る寺に納骨してらうよう指定しました。

亡くなったときは病院などから葬儀社や市に連絡してもらい、佐古さんの意思の通りに納骨されるまで、市が見届けることになっています。

佐古正枝さん

ありがたくて涙が出てくるんです。“私たちが最後まで見とってあげますよ”と言ってくださったので、安心しました。私のような身寄りのない人は、こうやってお願いできたことで、迷惑かけないで済むと思ってね。

葬儀社や寺院も協力 納骨場所を準備

横須賀市の総合相談窓口

2015年から始まった事業には、これまで140人あまりが登録。70人あまりが亡くなり、本人の意思どおり弔われました。

市のサポート事業で利用することができる寺の納骨堂

10の葬儀社のほか、およそ20の寺院などが市に協力。生前、決まった寺や墓地がなかった人の遺骨も受け入れています。

横須賀市
北見 万幸
福祉専門官

1人暮らしで亡くなる方が増えてしまうと社会の負担は増え、ご本人の希望もかなわないという危険性が高くなってきます。死後の弔いを家族が担わないときに誰が担っていくのかということなんです。健康なうちに聞いて記録にとどめて、それを登録してもらう制度を行政側が整備することが必要じゃないかなと思います。

“墓場まで”行政が支える意義

民間にも死後の葬儀や納骨などを支援するサービスはありますが、今のところ規制や監督官庁がなく、過去にはその費用などをめぐりトラブルになったケースもあります。横須賀市が行政として死後をサポートするのは、こうしたトラブルを防ぎ、民間の葬儀社にお金を預ける高齢者に安心してもらうするためです。市は、預けられた費用が適切に管理されているか、年に一度チェックしていて、万が一葬儀社が倒産した場合なども火葬の費用は市が負担し、事前に聞いていた納骨先に納めることができます。また、市の事業では本人の負担する費用を低く抑えることで、収入や貯金の少ない人が利用しやすいようになっています。

ほかの自治体では、首都圏では鎌倉市などが同様の事業を行っていますが、こうしたところはまだ少なく、専門家によると全国でも10数か所にとどまっているということです(2023年8月時点)。ただ問題意識は広がっていて、横須賀市にも問い合わせが複数寄せられています。また、国も2024年度から、葬儀や納骨、法要など死後のことについて、自治体が本人の意思に沿って支援する取り組みに、補助金を支給することになっています。

取材後記

横須賀市の事業は、無縁遺骨の問題を取材するなかで、自治体や専門家など多くの関係者が注目している取り組みでした。自治体にとっては、増え続ける遺骨の保管場所や火葬の費用などの問題解決につながります。一方で、対象となる高齢者が元気なうちに相談に来てもらうことや、地域の葬儀社・寺院などの協力を得ることなど、市からの周知や積極的な働きかけが必要で、横須賀市のような丁寧な支援を行うことは簡単ではないといいます。

ただ、事業を利用する高齢者にとっては、自分の死後を託せるところがあるというだけで、生きていくための大きな安心につながります。「人生のしまい方」シリーズへの投稿にも、こうした登録事業がある自治体に住みたいという声が届きました。

国もこうした問題について実態調査や支援策の検討に乗り出していますが、それぞれの自治体が住民の死後の問題に対してどこまで本気で向き合うかが鍵になると思います。

「人生のしまい方」、「お墓」、「遺骨」、みなさんの抱えている悩みやご意見、体験談などをもとに取材を進めていきます。投稿はこちらまでお寄せください。

「首都圏ネットワーク」での放送内容は、「NHKプラス」で4月3日(水)午後7時までご覧いただけます。

  • 木原 規衣

    千葉放送局 記者

    木原 規衣

    故郷を離れ1人暮らしをしている自分にも他人事ではないと思いました。

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