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ひとりでも最後まで自宅で 「在宅みとり」のいま

シリーズ「人生のしまい方 あなたは」
  • 2024年4月4日

「人生のしまい方」について考えるシリーズ。これまで、墓じまいや無縁遺骨など、死後のことを中心にお伝えしてきましたが、今回のテーマは「人生の最後をどこで、どのように過ごすか」についてです。

亡くなる場所として最も多いのは医療機関ですが、近年「自宅」で亡くなる人の数も増えてきています。一方で、住み慣れた自宅で最後までを過ごしたいと思っていても、核家族化が進むなかで、頼れる人がいないなど、難しいと諦めてしまうケースも少なくないのではないでしょうか。

今回は、たとえ1人でも「自宅での生活を諦めてほしくない」と地域で連携してみとりまでをサポートする現場を取材しました。

「人生の最後の時期」、「終活」、「お墓」など、みなさんの抱えている悩みやご意見、体験談などをもとに取材を進めていきます。投稿はこちらまでお寄せください。

(千葉放送局記者・浅井優奈)

1人暮らしの高齢者 支える現場は

千葉市に住む木本匡彦さん(91)です。足腰が弱く、車いすで生活しています。高血圧のほか、肝臓や腎臓などに持病があり、週に2回は訪問看護師が訪れて、健康状態のチェックを行っています。この日は、腰にできている床ずれのケアも行いました。

看護師が床ずれの状態を確認

この自宅に住んで50年になる木本さん。現役時代は仕事一筋で家庭を支えてきました。子どもが独立し、20年前に妻を亡くしてからは、この家でひとりで暮らしてきました。

木本さん(左)と妻の佐宜子さん(右)

木本さんの自宅の近くには子どもも住んでいますが、「負担はかけたくない」と今の生活を選んでいます。

木本さん

できる限り、いまの生活スタイルを守っていこうと思う。子どもの負担にはなりたくない。子どもには子どもの生活があるので、頼ってしまったらお互いに共倒れになってしまうと思う。

在宅のみとりまで寄り添う「訪問看護ステーション」

木本さんの生活を支えているのが、千葉市にある「まくはり訪問看護ステーション」です。看護師たちが24時間体制で、看護が必要なおよそ140人の在宅生活をサポートしています。

ステーションでは、高齢者や病気を抱えた人などが最後まで自宅で過ごせるよう、みとりの支援も行っています。この日行われたミーティングでは、利用者の1人が自宅で息を引き取ったと報告がありました。

ミーティングで報告する看護師

訪問看護師
朝6時半頃に呼吸が止まったとご家族から連絡があって訪問しました。そのあと医師の先生も1時間ほどで到着して、家族みんなで体をふいて、きれいにできました。ご家族は『家に連れて帰ってきて良かった』とおっしゃっていました。

最後の時期を“チーム”で支える

12年間、このステーションの所長をつとめてきた佐藤富子さんです。在宅での「みとり」というと、同居する家族に見守られて旅立つイメージがあるかもしれませんが、佐藤さんはこれまでに1人暮らしの人の在宅のみとりにも数多くあたってきました。

去年2月に亡くなった70代の男性のケースを教えてもらいました。胃がんを患い、身よりはありませんでしたが、本人の希望で最後は1人でも自宅で過ごすことを決めたといいます。

自宅の布団で寝ている70代の男性
佐藤富子さん

男性は病院ではなく家にいたいとはっきり希望をおっしゃっていました。だんだん病気が進行していくと、寝たきりになって、お話もできなくなっていきました。

寝たきりになった男性の自宅を、訪問看護師やヘルパーが代わる代わる訪れて生活を支援したといいます。男性が好きだったコーヒーを飲んでもらったり、ペットボトルで手作りした湯たんぽで体を温めたりして過ごしやすい環境を作りました。

当時の対応がメモで残っていた
佐藤富子さん

ヘルパーさんとか往診の医師とか、ケアマネさんと頻回に様子を見に伺って、家族じゃなくてもチームですごく温かい雰囲気で見守れました。

そして、ある日の朝、ヘルパーが訪れると、男性は亡くなっていました。

佐藤富子さん

独居の場合、看護師も24時間付き添えるわけではないので、1人の時間がどうしてもできてしまいますが、1人でも過ごすことができれば自宅での生活は可能です。本人が望む最後を実現できるよう、いろんな新しい仕組みを、相談しながら作っていくことができる時代になってきていると思います。

数々のみとりに関わってきた佐藤さん。自宅で最後まで過ごすためのカギは、サポートに関わる人たちの「連携」だといいます。

看護師やケアマネが連携プレー

1人暮らしをしている木本さんは、身の回りのことを自分だけで行うのは難しいため、様々なサービスを組み合わせて生活しています。

週に3回デイサービスを利用し、火曜日と金曜日は看護師が訪れて体調を確認します。さらに、火曜日と木曜日にはヘルパーが訪れて買い物や洗濯などを行い、日曜日以外は食事も受け取っています。

この日は、木本さんを支える看護師やケアマネージャー、ヘルパーなど6人が自宅に集まりました。体調の変化や生活状況を確認し、全員で共有して支援に生かすためです。

木本さんの家で行われた担当者会議
デイサービスの
担当者

おかゆを残されることが増えてきています。連絡帳を見ると食事の摂取量がわかるんですけど、少なくなっている状況です。

訪問看護師

訪問看護師としても栄養が少し気になるなと思っています。栄養補助食品を持ってきてみたので、訪問介護の買い物のときにこういうものを買ってきてもらうことはできますか?

訪問介護の担当者

はい、大丈夫です。

さらに、本人の思いに沿った支援ができるよう、今後の希望についても聞き取って共有しました。

ケアマネージャー

今後の生活についてはどう考えていますか?

木本さん

今後も公的な保険を精一杯使わせてもらおうと思っている。少なくとも私が元気というか、そこそこ頭のほうも、ある程度大丈夫なあいだは、自宅で生活していこうかと。

最後はどこで、どのように過ごしたいですか

木本さんに、人生の最後をどこで、どのように過ごしたいかを聞きました。

木本さん
朝起きたら息がなかった、という人がいると思うけど、できたらそうなればいいなと思っている。私はそこまで行きたいと思うんだけど、まあそれは希望なんだけどね。

「在宅」の選択肢を知ってほしい

在宅でのみとりに詳しい神奈川県立保健福祉大学の末田千恵さんは、まずは多くの人に、最後まで在宅で過ごせる選択肢があることを知ってほしいと話しています。

末田千恵さん

地域差はあるものの、各地で訪問看護や、その他様々な福祉サービスが充実してきています。まずは多くの人に希望すれば在宅でも亡くなることができるということを知ってほしいです。

今は医療機関で亡くなる人が6割を超えて最も多いですが、末田さんによると、このなかには本当は自宅で人生の最後を過ごしたいと思っていても、家族に頼れないとか、家だと不安だなどの理由で、自宅が選択肢にあがってこないケースもまだまだあるといいます。そのため、地域で受けられるサービスの知識を持った上で、1人1人が自分の最後の時期について、早い段階から考えてほしいと話しています。

末田千恵さん

まずは1人1人が地域で受けられるサービスの情報を知ってほしいです。その上で「自宅」で過ごすことも選択肢の1つとして持っていられたら良いと思います。自宅での最後が良いものだというわけではなくて、病院や施設、自宅などさまざまな選択肢の中から選べる環境であることが大切だと思います。そして『自分は人生の最終段階をどこで、どのように生活したいのか』、元気なうちから考えて、家族などと話し合っておくと良いと思います。

一方で、社会に対しては、「社会資源の量と質をさらに増やしていく必要がある」と指摘しています。高齢者だけの夫婦や独居が増えるなか、「家族に頼れない部分の介護や医療などをどうしていくのか、地域によって差があるほか、足りていない現状もあり、さらに体制や支援を強化していくことが求められている」と話していました。

「自宅」を希望する場合には?

もしも最後まで自宅で過ごしたい場合、どうしたらいいのか聞いてみました。末田さんによると…

まずは、自宅で生活したいという意思を周囲に伝えることが第一歩。最後は特に周囲のサポートが必要になることも多いので、訪問看護や訪問介護など、どういった地域のサービスを受けられるかを確認していくことになります。

具体的には…

《自宅にいる場合》
自宅に住んでいて生活が難しくなりつつある場合などは、住んでいる地区の「地域包括支援センター」に相談する方法などがあります。(※現在サービスを受けていない場合)
《病院にいる場合》
病院から退院して自宅に戻りたい希望がある場合には、病院の医師や看護師などに相談します。そこからソーシャルワーカーや地域のケアマネージャー、訪問看護ステーションなど、様々な担当者が連携して環境を整えていくことになります。

取材後記

今回は1人暮らしの高齢者を支える取り組みを紹介しましたが、本当に地域のつながりの温かさを感じる取材でした。ご自宅まで取材させていただいた木本さんは、家で1人孤独で寂しい…という感じでは全くありませんでした。地域の看護師やデイサービスの職員、ヘルパーなど様々な人とつながり、関わりをもって生き生きと生活していらっしゃる姿が印象的でした。在宅医療の現場では、この数十年でだいぶ、痛みのコントロールなどができるようになってきたそうです。人生の最終段階に入ったとき、どこでどのような生活を送るのか。人によって価値観は違うと思いますが、だからこそ、自分なりの生き方を考え、話し合い、選んでいくことの大切さを感じました。

 

「首都圏ネットワーク」での放送の内容は、「NHKプラス」で4月11日(木)午後7時までご覧いただけます。

  • 浅井 優奈

    千葉放送局 記者

    浅井 優奈

    2018年入局。函館・札幌での勤務を経て千葉局へ。医療や福祉の取材を続けています。

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