房総半島の中ほど、木更津駅から上総亀山駅を結ぶJR久留里線。赤字路線として存続が危ぶまれる中で、ことし5月から県などが地域の交通体系をどうするかについて検討する協議を行っています。県が久留里ー上総亀山間の沿線住民に対して実施したアンケートでは、通勤や買い物、通院に鉄道を利用していると答えたのはそれぞれ住民の1割未満でした。一方で、有志団体からは「協議の透明化」や久留里線の存続を求める強い声があがっています。久留里線はどうなっていくのか。詳しいアンケート結果もあわせてお伝えします。
(千葉放送局記者・渡辺佑捺)
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12月27日、君津市の会場で「第3回 JR久留里線沿線地域交通検討会議」が開かれました。千葉県、君津市、JR東日本の担当者、交通システムの専門家や沿線住民の代表者らが出席しました。
この日の検討会議では、ことし10月から11月にかけて行われた沿線住民へのアンケート調査結果が県から報告されました。
このアンケートは、9月に実施された第2回の協議の場で、「潜在的なニーズも含めた地域住民の移動実態に関する調査を実施する」ことを目的に県が実施すると決めたものでした。
「久留里・松丘・亀山地区住民の移動実態に関するアンケート」概要
▼久留里駅~上総亀山駅の沿線住民2243世帯を対象に実施。
▼10月19日~11月10日までに郵送もしくはWEBで回答受付。
▼久留里地区からは860人、松丘地区からは725人、亀山地区からは617人
→1110世帯2231人から回答を得た(世帯回答率49.5%)。
●鉄道の最寄り駅●
▼上総亀山駅 661人
▼上総松丘駅 511人
▼平山駅 197人
▼久留里駅 842人
▼無回答など 20人
●自宅から最寄り駅までに徒歩でかかる時間●
▼5分以下 210人
▼6分~10分 354人
▼11分~20分 430人
▼21分~30分 475人
▼31分以上 729人
▼無回答など 33人
アンケートでは、▼目的別の主な移動手段や、▼外出をする時間帯や頻度、▼将来的に自家用車の運転を免許返納などでやめる可能性、などについて尋ねています。
アンケートの結果、通勤や買い物、通院のために鉄道を利用している沿線住民は1割未満であることが分かりました。7~8割前後の住民が自家用車を運転して移動していました。
●通勤●
▼自分で自家用車を運転 85.1%
▼家族などの送迎 5.1%
▼公共交通を利用 7.4%
→このうち鉄道利用 5.3%
▼その他 2.5%
●買い物●
▼自分で自家用車を運転 79.5%
▼家族などの送迎 12.5%
▼公共交通を利用 4.7%
→このうち鉄道利用 2.9%
▼その他 3.3%
●通院●
▼自分で自家用車を運転 69.0%
▼家族などの送迎 21.3%
▼公共交通を利用 7.2%
→このうち鉄道利用 3.5%
▼その他 2.5%
※複数選択はそれぞれ1件として計上
また、中学生や高校生についても通学時の主な移動手段について尋ねたところ、登校時や、部活動や習い事がない下校時に鉄道を利用しているのはいずれも2割あまりで、半数以上がスクールバスを利用していることが分かりました。
●登校時●
▼鉄道 18人
▼スクールバス 43人
▼家族などの車で送迎 4人
▼バイク・自転車 2人
▼徒歩 3人
▼無回答など 4人
●下校時(部活や習い事がない日)●
▼鉄道 19人
▼スクールバス 41人
▼自分で車を運転 1人
▼家族などの車で送迎 4人
▼タクシー 1人
▼バイク・自転車 2人
▼徒歩 3人
▼無回答など 4人
※複数選択はそれぞれ1件として計上
また、将来の免許返納を念頭に、仮にいま自家用車の運転をやめた場合にJR久留里線の利用がどれだけ増えるかという問いでは、多くが「週に1日未満」か「利用しないと思う」と答えました。
●いま自家用車の運転をやめた場合、JR久留里線の利用がどの程度増えるか●
▼週に5日以上 8人
▼週に3~4日 6人
▼週に1~2日 20人
▼週に1日未満 23人
▼利用しないと思う 24人
▼無回答 27人
会議後、協議の内容について出席者から記者への説明の機会が設けられました。
日本大学理工学部 藤井 敬宏 特任教授(検討会議 座長)
地域の大半のかたは、公共交通を利用していない現状を確認しました。また、実際に利用している、使いたくても使えない潜在的ニーズについても確認し、現状の公共交通のあり方では満たせていないニーズがあるため、地域にとってより良い形を提供できないか、あらゆる交通体系の検討を深める必要性があると関係者の認識が一致しました。
千葉県総合企画部 横山 尚典 次長
沿線住民の現在の利用実態を明らかにできました。今後は調査で出た分析結果が実態と合っているかを確認するために、地区の代表者などに説明する場を設けて、さらに意見を聞くなどし、今後の検討会議をしていく上での一助としていきたい。
一方、沿線住民などの有志で作っている「久留里線と地域を守る会」では、久留里線の存続を求めるとともに、検討会議のあり方やアンケート調査について改善を求める声を上げています。
検討会議の内容は要約したものしか公表していないので、さらに広く内容を開示してほしいですし、公募した住民も参加させるなど、透明性を高めてもらいたいです。また、アンケートの内容は、いまの久留里線の現状のなかでどういう交通手段があるんだ、と聞かれれば、住民は歩いて行くとか、自動車で行くとか、鉄道が(利用しやすい時間帯に)ないからそう答えるしかありません。上総亀山駅~久留里駅間で運行しているのは朝晩だけなので、こういう状況でアンケートをとることが偏った意見が集まることを前提にしているとしか思えない。さらに潜在的ニーズを調べるための追加調査を求めます。
さらに「守る会」は、君津市議会に「JR久留里線の久留里~上総亀山駅間の存続について、賛同を求める陳情書」を提出し、趣旨採択されました。これをもって、より丁寧な議論を求めることなどを県や市にアピールしていくとしています。
JR東日本がことし11月に発表した、利用が特に少ない34路線・62区間の昨年度の収支で、100円の運輸収入を得るためにいくらの費用がかかるかを示す「営業係数」は、上総亀山駅と久留里駅の区間で1万6821円と最も採算が悪くなりました。100円の収入のために168倍の費用がかかっている計算です。
▼1日あたりの利用者数の平均
1987年度:823人 → 2022年度:54人(9割あまり減少)
▼「営業係数」(100円の運賃収入を得るためにかかった費用)(2022年度)
1万6821円(※JR東日本の路線の中でワースト)
引き続き沿線地域の交通に関する議論が進められます。地方鉄道の存続が各地で課題となる中、久留里線をめぐる「協議」の行方を、今後もお伝えしていきます。