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千葉県 「多様性尊重条例」が成立 どんな条例? パートナーシップ制度など規定せず“理念”掲げる

  • 2023年12月19日

千葉県議会で、障害の有無や性的指向など、多様性を尊重する社会づくりを目指す条例が可決・成立しました。

全国の都道府県で唯一、男女共同参画に関する条例がない千葉県。今回、およそ20年越しに理念が盛り込まれました。

新たな条例の内容とともに、「男女平等」から「多様性尊重」を巡る千葉県の歴史を元知事への取材でひもときます。

(千葉放送局記者・木原規衣)

「首都圏ネットワーク」での放送内容は、12月28日午後7時まで「NHKプラス」でご覧いただけます。

千葉県の新条例とは?

12月19日、千葉県議会で賛成多数で可決・成立した「多様性尊重条例」。条例で特に規定されているのが、多様性を尊重する「理念」です。

基本理念(抜粋)

●人々が様々な違いを尊重しながら、互いに関わり合い、影響を及ぼし合うことが、社会の活力や創造性の向上に効果を発揮する

●障害のある人もない人も、誰もが、互いの立場を尊重し合い、支え合いながら、安心して暮らし、個性と能力を発揮して活躍する

●国籍および文化的背景、性的指向および性自認、その他さまざまな違いに関わらず、全ての県民および事業者が理解し、尊重し合うことで、誰もがその人らしく活躍する

その上で、▼県が社会づくりに向けた施策を実行する責務を負うことや、▼県民や事業者の役割などが規定されています。パートナーシップ制度や選択的夫婦別姓といった、具体的な制度については盛り込まれていません。

熊谷知事は、多様性を尊重する条例の制定を公約に掲げていました。

熊谷知事

多様性を尊重する理念を多くの議員の方々と共有し、スタートに立つことができた重要な節目だと思います。

条例の意義を広く周知し、具体的な政策を実施していくとともに、誤解に基づく懸念に対して理解してもらえるようにしたいと思います。

今回の条例制定にあたって、最大会派の自民党はほとんどの議員が賛成しました。

一方で、将来的に「パートナーシップ制度」や「夫婦別姓」といった制度が導入されるのを懸念し、慎重な対応を求める申し入れが、熊谷知事に対して行われました。

自民党千葉県連
阿部紘一幹事長

さまざまな問題で生きづらさを感じている方々がいることは事実であり、理解促進が必要なことや、その人らしく活躍できる社会づくりが必要なことは理解します。しかし、次の内容には特段の配慮をしながら県政運営を行うよう申し入れます。

歴史や伝統、文化を大切にすることや、夫婦別姓やパートナーシップ制度など、国民の間で意見や価値観がまとまっていない事柄について慎重に対応すること、それに、女性を自称する男性が女子トイレや公衆浴場等を使用することによる女性の不安を払拭するとともに、安全安心な環境を守ることなどです。

全国唯一!「男女共同参画条例」なし

実は千葉県は、全国の都道府県で唯一、男女共同参画の理念を盛り込んだ条例がありませんでした。今回の条例には、その理念も盛り込まれました。

基本理念(抜粋)

●男女のいずれもが、性別を理由とする不利益を受けることなく、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画し、共に活躍する

男女共同参画に関する千葉県の歴史は、21年前の平成14年にさかのぼります。当時、男女共同参画の条例案が県議会に提出されましたが、結果的に廃案となった過去があります。

当時、県知事を務めていた堂本暁子さんに話を聞きました。

堂本暁子さん

平成11年、男女が平等に活躍できる社会の実現を目指す「男女共同参画社会基本法」が国会で成立し、全国の都道府県でも地域の実情に沿った条例が制定されていました。

国会議員として法律の制定にも関わった堂本さんは、全国で3人目の女性知事として千葉県の条例制定へ準備を進めました。

堂本さんが目指したのは、女性がみずから出産や中絶を決定する権利など、当時では先進的な考え方を盛り込んだ条例です。

条例案には、「男女が性および子を産み育てることについて、理解を深め、自らの意志で決定することができるよう性教育の充実及び促進を図る」という規定が盛り込まれました。

堂本さん

子どもを産むことなど、性の決定権を女性が持つということは究極的な問題で、1つのキーワードではありました。

中絶などの自己決定権を女性にという考え方は、その時には大変革新的なことだったとも思います。

この条例案に対し、全員が男性議員で過半数を占める自民党などから、「『自らの意志で』という部分が、性の自己管理を強調するあまり、性の乱れにつながるおそれがある」などの意見が出されました。

その後、自民党からも条例案が提出されましたが、「男らしさ」「女らしさ」といった表現が盛り込まれたことで、こちらも成立には至らず、結果的に両方とも廃案に。

結局、千葉県に「男女共同参画条例」は制定されませんでした。

堂本さん

当時の県議会では、成立を後押しする女性議員は定数98のうち9人でした。議会で少数派の意見を通すことは非常に難しく、何より、全員男性の最大会派が反対、というのが大きかったです。

条例を成立させられなかったことは非常に残念でした。条例がなかったことで 男女共同参画の施策が全く進まなかったわけではありませんが、条例という後ろ盾があれば、その後の県政運営でもっと正々堂々と主張できたと思います。

現在の千葉県議会でも、定数95のうち、女性議員は14人にとどまっています。

堂本さんは今回、およそ20年越しに男女共同参画の理念が盛り込まれたことは評価する一方で、今後、1人1人の行動が重要だと考えています。

堂本さん

条例が文言として存在するだけでは意味がありません。県民それぞれが条例に書かれていることを自分の問題として 守っていかなければなりません。

ようやくスタートラインに立ったところで、誰もが生きやすい社会づくりができるかどうかは、私たちの責務にかかっています。

条例の受け止めは?当事者に聞く

今回成立した条例について、性的マイノリティーの当事者や、多様性の尊重を実践している事業者は、どのように受け止めているのでしょうか。

船橋市で障害者の就労支援などを行っている事業所では、LGBTQなど性的マイノリティーのスタッフが3人働いています。

事業所の様子

事業所を運営する一般社団法人「honeybee」の西島希美さんは、多様な背景があるスタッフの存在によって、利用者に対する細かい気配りや、「男性だから」「女性だから」といった、固定観念にとらわれないサービスの提供が実現できていると感じています。

理念が先行している条例の成立については、複雑な心境を明かしました。

西島さん

事業所として理念を掲げていなくても、多様性を受け入れる環境があれば、働き先として選んでもらえていると思います。

今回の条例がいいか悪いかというのは、答えを出すことが難しいです。

一方、レズビアンだという事業所の30代のスタッフは、前の職場で、性的指向の異なる人が気持ち悪いという意見に同調を求められた経験があり、半年ほど前に転職してきました。

いま必要なのは、パートナーシップ制度など具体的な施策と考えていますが、多様性を尊重する理念を掲げた今回の条例によって、社会で少しでも理解が広がることを期待しています。

スタッフ

多様性について局所的に意識している人はいるが、全く意識していないか、意識する必要性を感じていない人が多いと思います。

条例があるだけで、全くないよりは少しは気持ちが楽になると思います。

条例制定で今後はどうなる?

条例案の検討過程で、県が行ったパブリックコメントでは、のべ1279件の意見が寄せられました。

このうち、性犯罪の危険が高まるなどLGBTに関する意見が175件、外国人の問題に関する懸念が81件と、条例を巡ってさまざまな問題を懸念する声が出されました。

条例が成立した今後は、まずは理念を浸透させ、具体的な施策を実行していくことになります。

県は、条例成立を受けて、多様な人材の就労や社会参加、安心して暮らせる環境の整備などを進めるとしていますが、今後こうした施策に多様な意見が十分に反映されるのか、注目していく必要があります。

  • 木原規衣

    千葉放送局記者

    木原規衣

    2018年入局。千葉県政キャップ。

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