千葉市の稲毛海浜公園にある「花の美術館」。
庭園に設けられていた花壇のほとんどがリニューアル工事に伴って撤去され、千葉市が事業者に対し、施設に花を増やすよう改善を求めていることが分かりました。
なぜそのような事態になったのか。取材を進めると、各地の公共施設が転換点を迎えている現状が見えてきました。
(千葉放送局記者・浅井優奈)
「首都圏ネットワーク」での放送内容は、12月21日午後6時半まで「NHKプラス」でご覧いただけます。
11月、千葉放送局に視聴者から声が寄せられました。
「リニューアルした『花の美術館』に行ってみたら、花がなくなってドッグランに変わっていました。どうしてなのでしょうか」
早速、声を寄せてくれた近藤さんと「花の美術館」で会い、話を聞きました。
「花の美術館」の前庭には、よく花を見に来ていたのですが、いつのまにか花畑がなくなっていたんです。
27年前に開館した「花の美術館」。屋内の温室と屋外の庭園で、四季折々の花が楽しめる公共施設として親しまれてきました。
老朽化に伴って去年4月から一時閉館し、リニューアル工事が行われていましたが、10月にプレオープンすると…。
庭園の花壇のほとんどが撤去され、代わりにドッグランが設けられていました。
春はチューリップとか、夏が過ぎたらポピーとか、ふだん見られないような花もいろいろ植えてくれていたんです。
なぜ花畑をつぶしてドッグランにしなければいけないのか、疑問です。
「花の美術館」を所有する千葉市には、近藤さんのように「花を戻してほしい」といった要望が複数寄せられました。
市は事業者に対し、2024年春ごろの全面オープンまでに花を増やすよう、改善を求めています。
基本的には花や緑といったこれまでの「花の美術館」のコンセプトを踏襲しつつ、時代にあった美術館に生まれ変わることを期待している状況です。
花壇の跡地につくられた広大なドッグラン。週末には多くの愛犬家が訪れ、大盛況となっています。
ドッグランができると聞いて、楽しみに待っていました。散歩もたくさんできるので、本当に楽しく過ごせる場所だと思います。
ドッグランは大歓迎です。ここはもともと花が綺麗だったので、子どもが小さい頃に写真を撮りに来た思い出がありますが、その場所に、今度は愛犬と来ることができてうれしいです。
なぜ花壇を撤去してドッグランを設けたのか。
市の公募で選定され、リニューアル工事と美術館の運営を担っている民間事業者「ワールドパーク」の木村俊孝さんに話を聞きました。
日々の施設の運営にかかるランニングコストを考えると、収支のバランスを取る必要があります。
海辺にある公園といういいロケーションも考えて、ワンちゃんを思い切り走らせることができる「有料」のドッグランを設けました。
事業者には、ドッグランなどで集客を図り、施設の運営費を賄うという狙いがあります。
実は「花の美術館」の運営には、年間1億円以上の費用がかかります。
特にコストがかかるのが温室の光熱費で、これまでは施設管理の委託費とともに市の予算から拠出していました。
また、施設は開館から30年近くとなって老朽化が著しく、改修も必要になっていました。
こうした課題を解決しつつ、施設のにぎわいを高めるにはどうすればいいのか。
市は今回、リニューアルをきっかけに、施設の運営方法を「指定管理」という通常の委託から「設置管理許可」に変更しました。
「設置管理許可」では、民間事業者が整備や管理の方針を提案して自治体の許可を受ければ、施設のあり方を主体的に決めることができます。
整備や管理の方法が細かく定められている通常の委託と比べ、事業者の裁量が大きくなるのが特徴です。
また、施設は独立採算になります。管理の委託料は発生せず、逆に事業者が自治体に土地などの使用料を支払うことになるほか、施設の改修や運営にかかる費用は事業者の負担です。
この変更によって、市は大幅なコストカットに成功しましたが、事業者は運営費を賄うため、施設の集客を図って収益を確保する必要がありました。
これまで収益よりも市民サービスとして考えられていた施設でしたが、これまで通りの運営費がかかると、収支は厳しいのが実情です。
あくまで公共施設なので市との協議を重ねますが、収益の確保については、民間の視点を伝えてバランスが取れた運営を行っていきたいです。
民間事業者による公共施設の整備や管理への関わりは、近年大きく広がっています。
2017年には法改正によって、新たな制度「Park-PFI」が設けられました。公園の再整備に民間資金を活用する幅を広げることなどが盛り込まれた制度です。
この制度は、「新宿中央公園」「山下公園」などで活用され、民間からの提案を元に交流施設や飲食店などが設けられています。
公共施設のあり方に詳しい東京都市大学の坂井文教授は、少子高齢化で人口減少が進む社会の中で、公共施設のあり方が変わりつつある現状を指摘しています。
少子高齢化が進む中では、全国に数多くある公共施設は魅力を高めて持続可能な形で運営することが求められています。
民間のノウハウを活用することで、行政だけでは難しい効果的な運営が実現できるメリットがあります。
ただ、公共施設は多くの人がそれぞれに楽しむ場所で、多様な意見があるのは当然です。
民間のノウハウを活用して施設の再整備などを行う場合、自治体は事業者と十分にコミュニケーションを取った上で、整備の方向性を地元の住民や関係者によく理解してもらうことが重要だと思います。