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薬不足長引く せき止め、たん切り、抗菌薬がない…ぜんそくの薬も 千葉

  • 2023年11月24日

ことしは、インフルエンザの流行が例年になく早く始まり、いわゆるプール熱の患者数も過去10年で最多を記録するなど、感染症の広がりが目立っています。

そんな中で深刻となっているのが、薬の不足です。ぜんそくの子どもにも影響が出ています。対応に追われる人たちを取材しました。

(千葉放送局記者・金子ひとみ)

多様な感染症の患者が

千葉市の小児科クリニックです。熱やせき、鼻水などいわゆる「かぜ症状」を訴える子どもたちが次々と受診に訪れ、深沢千絵院長が対応に追われていました。

院長「熱は3日ぐらい続いたんですね?」
母親「はい、おとといの夜ぐらいにやっと下がりました」
院長「発しんも出たんですね?」
母親「そうなんです、足の裏の発しんがひどくて」

院長「鼻水は水っぽいというよりは、ねばっとしている感じですか?」
母親「ねばっとしてますね」
院長「たしかに、お鼻の中、ねばねばしてて、むくみもありますね」

 

岩田こどもクリニック 深沢千絵 院長

「きのう一番多かったのはアデノウイルスですけれども、溶連菌、インフルエンザ、名前のつかないかぜ、胃腸炎もだいぶ増えています。小学生ではマイコプラズマも最近出ています。一つのものがはやっているというよりはいろんな感染症が増えているなという印象ですね」

薬の処方は…

取材の日、クリニックの深沢院長が、多くの親子に告げたことがありました。

院長「今ね、かぜ薬が足りなくて、あんまり長く出せなくて、申し訳ないですね。せき止めとか全然入ってこなくて」
院長「お薬が少なくって、できれば1週間以内にすることになっていて…

母親

「もうちょっと薬を多めにいただけたら、学校も休まなくてすんだし、通院も減って負担が小さくなるんですけどね。予約も取りづらいので」

母親

「薬の在庫少ないんだなぁとドキッとしました。年末年始にかけて医療機関が閉まる時期に、薬がなくならないだろうかと怖いですね」

2か月入荷がない薬も

今、深刻なのが、薬の不足。このクリニックの前の薬局でも、入荷が安定しない状況が続いているといいます。

本郷薬局 中村千晶 薬剤師

「一番足りないのは、たん切りとせき止めですね。せき止めのアスベリンは2か月ぐらい停滞しているかもしれませんね。あと、小児の抗生剤、溶連菌や中耳炎に使うものが、先月の半ばからまったく入ってきていない状況です」

「欠品」の表示が相次ぐ

なぜ、薬が足りないのか。ジェネリック医薬品の製造工程で不正が発覚し、2021年以降、業務停止などの行政処分が相次ぎました。そのうえ、ことしはさまざまな感染症が次々と拡大し、薬の供給不足に拍車がかかっているのです。

国は11月、製薬会社に安定供給に向けた対応を要請しましたが、現場ではまだ、供給が不十分な状況が続いているといいます。

中村薬剤師

「直接、メーカーの営業さんに電話をして実情を話して、いくつかでも確保していただくとかして、患者さまに迷惑をかけないように努めていますが、自転車操業状態です。長年、薬剤師をしていますが、こんなに薬不足が続くのは初めてのことで、驚いてますし、薬の調達に相当苦労しています」

ぜんそくの薬も

症状が出た際の治療薬だけでなく、日常的に服用する薬にも影響が広がっています。

クリニックと薬局を定期的に利用する、ぜんそくがある3歳の女の子です。発作を防ぐため、1日2回、ステロイド薬の吸入が欠かせません。

この薬は通常、まとめて1か月分受け取りますが、今月は最初に受け取れたのは10日分のみ。後日、改めて残りの分を受け取ったといいます。

女の子の母親

「にわかに信じられないというか、本当にそうなの?っていう。自分の家族にも影響があることになってしまっているんだなって驚きました。薬の手持ちがあるうちに次の薬をちゃんともらえるだろうか、もらえなかった時どうしたらいいだろうかと不安に思っていました」。

いったん発作が起きると、せきが止まらなくなって、緊急入院が必要になることもあるぜんそく。予防のために、定期的な吸入は不可欠です。

女の子の母親

やはり必要なものなので、安定的に安心して使える状態になってほしいなと思います。ちゃんと、通常どおり、必要な量がいただけるようになるのか、そのタイミングがいつなのか、めどが立ってほしいなと思います」

“日本じゃないところで診療しているみたい”

小児科専門医で感染症専門医でもある岩田こどもクリニックの深沢千絵 院長に話を聞きました。

Q)薬が足りないことで、どのような点が困りますか?

深沢 院長

例えば、溶連菌感染症だとリウマチ熱という合併症を防ぐ必要があり、決まった抗菌薬を使うんですが、それが今すごく足りないんですね。患者さんにその抗菌薬のある薬局さんを見つけてもらわなくてはならない。解熱剤は粉がなくて座薬で我慢してもらったこともあります。各感染症の抗原検査キットも在庫が不安定です。

熱があったり喉が痛かったりでつらい中、薬を探し求めていただかなくちゃいけない、本当に申し訳ないと感じます。

Q)ぜんそくの薬にも影響が出ていることについてはどうですか?
 

深沢 院長

今はステロイドの吸入は使っていないんだけれども、コントロールが悪くなって、ステロイドの吸入を追加したいと思っても、薬局に新規の患者さんの分の薬がないということで困ってしまって。お子さんの場合、大人と違ってこの形態じゃないとうまくいかないというのがあるんですよね。スプレータイプの在庫がないから、代わりに自分で吸い込むタイプでいけるかというと、小さいお子さんはそれができないんです。代替がきかないんです。本当に難しさを感じます。

Q)医師としてどのようなことを感じますか?

深沢 院長

小児科医は、診断をして、患者さんに合ったお薬を処方してというのが仕事なので、診断キットがないとなかなか大変ということと、治療をしようと思ってもこれがないからということで、別の薬で何とか出すという形になると、どうしても医療の質というか、本当はこの薬を出してあげたいのに、それがないから、これで我慢してね、ということになると、医療の質は落ちてしまうというのが正直なところです。これが続くのは本当に困ったことだなと思います。

Q)どのようなことを望みますか?
 

深沢 院長

せっかく医療が整っているこの日本で、薬の供給が安定しないために、日本じゃないところで診療しているみたいだねと他の先生とも話していたんですけれども、どこかの製薬会社で何か問題が起きた時の対応というか、リスクマネジメントというのは、やはり、国に先導してやっていただきたいと思います。

Q)今後の感染症の見通しや一般の人への呼びかけをお願いします。

深沢 院長

「この季節にこの感染症」というのがだんだん崩れていっていて、予測が難しいというのが正直なところです。

新型コロナが拡大する前に流行していたマイコプラズマが増え始めているので、同様に、百日ぜきなどもまた流行する可能性があると思います。百日ぜきは、乳幼児では呼吸困難や無呼吸などをおこし、命に危険を及ぼす可能性のある病気です。ワクチンで予防できる病気ですので、ワクチン接種などの対策も心がけていただきたいです。

そして、新型コロナもまた増える可能性もあります。手洗いをぜひ心がけていただきたいのと、マスクも必要なところでは活用していくというところですかね。予防して感染症を少なくしていく、薬に頼らなくても健康を維持していくということぐらいしかできないのかな、と思います。

取材後記

ぜんそくの女の子のお母さんが、「発作がひどくなって初めて入院して、娘の小さな顔が酸素マスクで覆われているのを見たときには、かなりショックでした」と言っていました。発作を起こすと、しばらくの間は保育園を休まなくてはならなくなるそうです。吸入ステロイド薬はそのような事態を避けるための「管理薬」。供給が安定するのを願うばかりです。

また、深沢院長が、「医療が整っている国なのに、薬の供給が安定しないために、日本じゃないところで診療しているみたい」と言っていたのは、衝撃でした。本格的な冬を迎えるにあたって、増産に向けた国のてこ入れを注視したいと思います。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局記者

    金子ひとみ

    保育園に行くと、感染症状況の掲示板をまず確認します。

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