日本各地の文化財を観光資源として国内外に発信していこうと、文化庁が全国104の地域で認定している「日本遺産」。
房総半島南部の鋸山は、その日本遺産の「候補地域」となっています。
2年後の認定を目指して、地元で始まっている取り組みを取材しました。
(千葉放送局カメラマン 大溝浩)
奈良の「法隆寺」や広島の「原爆ドーム」といった「世界遺産」はよく知っている、という方が多いのではないでしょうか。では「日本遺産」とは?どのような違いがあるのでしょうか?
文化庁のホームページには、以下のように書かれています。
日本遺産は、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として認定し、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の様々な文化財群を総合的に活用する取組を支援します。
世界遺産登録は、いずれも登録・指定される文化財(文化遺産)の価値付けを行い、保護を担保することを目的とするものです。
つまり日本遺産は、各地に点在する文化財を地域的なつながりや時代的な特徴ごと=「ストーリー」にまとめて、さらに観光振興や地域活性化に生かしてもらうことに主眼が置かれています。
文化庁が2015年度から地域を対象に認定していて、去年(2020年)6月までに104件に上っています。
▽「会津の三十三観音めぐり~巡礼を通して観た往時の会津の文化~」(福島)
▽「忍びの里 伊賀・甲賀ーリアル忍者を求めてー」(三重・滋賀)
▽「海と都をつなぐ若狭の往来文化財」(福井)
千葉県内からは
「北総四都市江戸紀行・江戸を感じる北総の町並み」(佐倉・成田・佐原・銚子)が認定されています。
鋸山は標高329m、房総半島南部、富津市と鋸南町にまたがり、山の尾根が「のこぎり」の歯のようにも見えることからその名前がついたともいわれています。
鋸山では加工しやすく熱に強い「房州石」(ぼうしゅういし)と呼ばれる石がとれ、江戸時代から昭和にかけて建物の塀や石段、蔵などの建築材料として関東各地に出荷されました。
現在も当時の石切場跡が山中に残っていて、なかでも断崖が垂直に切り立つ「地獄のぞき」は房総半島を一望できる絶景ポイントとして人気です。
鋸山がまたがる富津市と鋸南町は、2019年度から協議会を立ち上げて取り組んできました。
その結果、去年7月に『天空の岩山が生んだ信仰と産業 ~房州石の山・名勝地鋸山は自然と歴史のミュージアム~』というストーリーが「日本遺産候補地域」として認定されました。「候補地域」とは日本遺産として認定する候補となり得る地域のことで、地域の活性化や観光振興の土台作りなどを行いながら、その結果が良ければ2年後の2024年度にも日本遺産に認定される可能性があります。
両自治体が立ち上げた『鋸山日本遺産「候補地域」活用推進協議会』は今年度、さまざまな取り組みを実施しています。
そのひとつが「プロガイド」の育成事業です。鋸山を案内できるプロの観光ガイドを育成して、訪れる観光客の増加に対応できる体制作りを目指しています。
この秋から始まった研修には地元で働く会社員や主婦など27人が応募し、およそ半年かけてガイドに必要な知識や話し方などを学びます。
とても期待しています!鋸山に来て楽しかった、面白かったと思えるガイドが聞けるようなガイドさんが今後生まれてくるといいなと思います。
いよいよ11月には、実際に山へ登っての実地研修が始まりました。しかし、当日は本格的な雨…。
観光客が訪れたときにいつも晴れているとは限りません。参加者の表情も引き締まります。雨の中で注意すべき点を、講師のベテラン山岳ガイドに学びます。
山岳ガイド協会 目崎寿哉さん「根っこの事をお客様に話して!」
研修生「根っこの上は滑りますので乗らないようにお歩き下さい!」
次に研修生一行は名所の「地獄のぞき」に到着しました。
山岳ガイド協会 目崎寿哉さん「休みの日に来たときには(地獄のぞきに)とても並んでいます。それでも待って登るか、それとも諦めるか、お客様には事前に「行けないかもしれませんよ」としっかり言っておくこと」
さらに、観光客のケガを想定して、参加者がお互いを背負いながら歩いてもらう訓練も行われました。
今は元気な人を背負っているから動くことができます。でも、お客様がケガしたときに今みたいにガイドが背負って下まで降ろすのは不可能です。だからこそガイドはお客様をケガさせないことを最優先に、厳しく安全管理を行うことが必要なんです。
安全はもちろんですけど、それ以外にも鋸山のすばらしさを伝えられるようなガイドになりたいと思っています。
地元の小学校に専門家が訪れる「出前授業」も始まりました。子どもたちが地域の歴史や文化に触れて、さらに親しみを感じてもらうのが狙いです。富津市の佐貫小学校では、鋸山美術館の館長が石切りの歴史や当時使われていた道具などを教えました。
「これが当時石を切ったつるはし、案外重いですよ」
これ振り上げるのぜったい無理!。
日本を代表する観光名所として鋸山はこの地域の誇りだと思います!
鋸山は多くの人たちが魅力を感じられる、ひと言で言い表せないような魅力が詰まった 山です。地域の方々がまちに誇りを持って「ここはすばらしい場所なんですよ」と日本中にお伝えできる、そんなまち作りを目指したいです。
自治体主導の取り組みだけでなく民間も認定に向けて動き出しています。
鋸山を最新のカメラで撮影し、VR=バーチャルリアリティーの映像を通して楽しもうというイベントが、富津市のレストランで開かれました。これは地元企業が「先進的デジタル技術活用実証プロジェクト」という県の補助金を活用し、千葉銀行やNTT東日本などの協力で開催したものです。会場にはVRゴーグルが用意され、参加者はゴーグル内に映し出される360度の映像で地獄のぞきや日本寺の大仏など鋸山周辺の景観を楽しんでいました。
鋸山は地元の人たちが昔から大切に守り続けてきた「宝の山」。その山を地域活性化の切り札にと、日本遺産認定をめざした地元の取り組みが加速しています。
今年度、協議会では▼鋸山の見どころを解説した大型の案内板の設置▼旅行業者を招いたツアーなどを計画しているということです。
「鋸山が日本遺産の候補地域になっていていろいろな取り組みをしているようだ」。
そんな話から、日本遺産って何?どうなるの?と取材を始める事になった。
千葉県に住んでいる人ならば、房州石について1度ぐらいは聞いたことがあると思う。
私が子どものころは住宅を囲う外壁などでよく見かけたが、最近はだいぶ少なくなった。
週間天気では現地研修は快晴の予定であったが、登る日が近づくにつれて悪天候の予報になり、当日は本降りの雨。取材するわれわれが事故を起こさないよう、最新の注意で同行させてもらった。切り出した房州石を人力で運搬をした車力道(しゃりきみち)は、ところどころ石畳や石で作られた階段が残っており滑る事があるので、ぬれている時は特に注意が必要である。
この日は残念ながら鋸山全体が霧につつまれ、名所の数々を映像に収める事はかなわなかったが、安全研修には最適な条件となった。
なお後日、天候のよい日にあらためて石切りの遺跡などを撮影に訪れたのだが、遠く東京都心、相模湾から富士山まで一望できる眺望は、登ってよかったと撮影を忘れて眺めてしまうほどである。
鋸山にはいくつかの登山ルートがあるので、見たいものや自分の体力にあったコースを事前に調べて余裕をもった計画を立てて訪れてほしい。切り立った岩壁は圧巻で、本当に人がこの山から石を切り出したのか?と驚くこと間違いなしである。