スポーツ×ヒューマン なでしこジャパン・熊谷紗希 

“憧れの選手を追いかけて”

「熊谷決めたー!なでしこ世界1ー!」

当時、中学1年生、生粋のサッカー少女だった私。あの優勝をみて、“なでしこジャパンになりたい!”とサッカー強豪校へ進学を決めました。そんな背中を追った高校の偉大な先輩でもある熊谷紗希選手が、今回の主人公です。当時20歳で優勝を果たした熊谷選手も32歳、キャプテンになりました。最後のワールドカップになるかもしれない、その覚悟はあると話す熊谷選手―。
だからこそ「世界の頂点を知るキャプテンは、チームをどう強くしていくのか」。このテーマを突き詰めていこうと決めました。

取材を始めたのは、昨年の6月。部活動の先輩と言っても時期が重なっていないため、ずっと憧れてきた選手を目の前に、心臓が飛び出るほど緊張をしていました。最後まで緊張しないことはありませんでしたが、熊谷選手の気さくで明るい性格に助けられながら、楽しく制作期間を終えることができました。熊谷選手、本当にありがとうございました。

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“想像を超えるリアルがある”

この制作期間で1つ強く感じたことがあります。それは、いくら撮影に臨む前にディレクターが理想とする構成を書いても、それを上回るリアルがスポーツにはあるということです。今シーズンは試合に出られないことも多く、1番もがいてきたという熊谷選手。そんな今シーズンの最終節、チームとしても勝てば王者奪還という重要な一戦にカメラを向けました。そして・・・この試合で先制点を決めたのが熊谷選手でした。こんなことある?と心が震えました。

「苦しい時間の方が圧倒的に多いし、いつでもサッカーなんてやめられる。けど、この瞬間、この勝つ喜びを知っているからやめられない」

と熊谷選手は話します。大変なことも多いディレクターですが、熊谷選手の先制点のように想像を超え、心振るわされる瞬間に立ち会える、そして、それを伝える力があるからこそ、私もくじけず、粘り強く頑張っていこうと思います。

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そんな「勝つ喜び」を知る彼女。番組内では、“2011年決勝・PKの裏側”や代表内部での細かな会話、原点と語る高校時代などから、彼女らしいチームづくりを見つめています。番組をみたあと、熊谷選手、そして、なでしこジャパンを応援しようと思っていただけたら、何よりうれしいです。

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最後に、“なでしこジャパンになりたい!”とテレビの前で夢を膨らませていた私は、今、その逆の立場となり、スポーツを伝える側になりました。なでしこジャパンにはなれませんでしたが、女子サッカーを、そしてスポーツの力を伝えたいと思い、今、ここで働いています。あのときの感動がいつまでも私を突き動かし、新たな目標を与え続けてくれています。
今回、改めて「サッカーが好きだなぁ。スポーツが好きだなぁ」と思わせてくれました。12年前のあの感動や裏側に迫ったドキュメンタリーが、私の原動力だったように、この番組も誰かのヒントやきっかけになってくれたら、うれしいです。スポーツの力を信じて、これからも取材を続けていきます。

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ディレクター 内藤孝穂(NHK仙台)