「花は咲いて 散るからこそ」 制作記 カメラマンのつぶやき①

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雄勝ローズファクトリーガーデン

「花は咲いて 散るからこそ 海辺の町のローズガーデン 石巻 奇跡の花畑の1年」

三陸の小さな海辺の町にあるバラやハーブなど1万株以上の花木が彩り、全国から人々が訪れる奇跡のローズガーデンの移ろいゆく花々と、人々の営みの1年間を記録した番組です。

えっ?どんな番組かって?
とっても短く紹介したショートムービーもありますので、こちらもぜひ。

[花は咲いて 散るからこそ] “森の妖精”がつくる海辺の町のローズガーデン | NHK

長期間にわたり密着取材したカメラマンが、取材の舞台裏をご紹介します。



カメラマンのつぶやき①

~“森の妖精さん”たち~

 いきなり私事で恐縮ですが50歳越えの、いわば、おじさんカメラマンです。それでもこの現場では、「若者」と呼ばれていました。なにしろ主人公であるおばあちゃんたちは、皆さん人生の大先輩たちばかり。ロケ初日、のっけから叱られてしまいました。ひとりのおばあちゃんが、前日に美容室に行って髪型を整えてきたのですが、そこに全く気づかなかったのです。「あら~ダメねぇ、レディーの髪型に気づかないなんて・・」と爆笑されてしまいました。カメラマンとしても、お恥ずかしいばかり。

 そんな調子ですから、毎回お邪魔する度に、いじられ、笑われ、本当に楽しい現場でした。彼女たちにかかると、まさに日常の些細なことが、まるで魔法にかかったように、人生最高の時、至福の笑いへと変わっていくのです。幸せ探しの天才とでもいうのでしょうか。しかも、そのちょっとした一言に、人生の含蓄があり、感動してしまうのです。取材させて頂いたある女性は彼女たちのことを「おそらく、たいした言葉じゃないんでしょうけど、時々涙してしまうことがあるんですよね。理由は分かんないんです、でも急にキュンとなるというか、はっとさせられるというか・・癒やされるんですよね」と話していました。

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“森の妖精”と呼ばれるおばあちゃんたち

そんな若い女性をもとりこにしてしまう彼女たちは通称“森の妖精”と呼ばれています。たまたま森林公園内に建てられた仮設住宅で一緒になり、和気あいあい過ごす様子を見ていた方が名付けたそうです。実は、番組にも登場して頂いたある息子さんがその名付け親なのですが、一年間取材して、そのネーミングの見事さに、今更ながら感動しています。
そうなのです。仮設住宅と、しれっと書いてしまいましたが、この番組の舞台は、宮城県石巻市雄勝町。三陸沿岸の小さな町で、旧自治体単位でいえば、東日本大震災のあと、もっとも人口の減少した町といわれています。元々は「日本一美しい漁村」として、三陸リアスの深い入り江に、肩寄せ合うように家々が並ぶ漁村。伝統産業として雄勝石の硯やスレートもありますが、近海や養殖業だけでなく、遠洋漁業の船員たちも多く暮らす海の町として知られていました。
震災後、多くのエリアが浸水域となり、仮設住宅すら建てられる場所がなく、海辺のまちに暮らしていたおばあちゃんたちが、森の奥に分け入って妖精になった、という意味も付加されていると思います。

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徳水利枝さん(雄勝ローズファクトリーガーデン代表)

番組の大半は、“森の妖精さん”たちが今活躍している花園「雄勝ローズファクトリーガーデン」での日常を記録したものになります。昨年2月から、月に数回ずつ通いながら1年間、ある意味たわいのない会話に耳を傾け、時折、美しくもドキリと胸に刺さる言葉に、衝撃を受けながら、一応カメラマンである私が、高精細の4Kカメラで移ろいゆく季節の風景を撮影し、その映像をただ並べただけの番組になります。
ナレーションもなく、やや不親切なつくりになってはいますが、ほんとうに素朴な、そのままのすてきなおばあちゃんたちを、今の雄勝町を見て、感じて頂けるのではと、勝手に思っております。

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森の妖精さんたちが手入れしたバラ