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佐賀 原子力発電“核のごみ”請願採択 玄海町長の判断は?

ニュースただいま佐賀
  • 2024年05月01日

 

原子力発電に伴う高レベル放射性廃棄物、いわゆる“核のごみ”。

その最終処分場の選定にむけた、調査を受け入れるかについて、
玄海町の脇山町長は、5月中にも態度を明らかにする方針です。
町長の判断を前に、玄海町での議論をまとめました。

“核のごみ” 進まない最終処分場の選定

 

“核のごみ”とは、原子力発電所で使い終わった核燃料から出る、高レベル放射性廃棄物のことです。

日本では、さらにここから再利用できるプルトニウムなどを取り出し、
残った廃液をステンレス製の容器に流し込んで固めたもの(ガラス固化体)のことを指します。
何万年ともされる長期間にわたり、強い放射線を出し続けます。

地下300メートルより深くに埋めて最終処分を行うことが法律で決まっていますが、
場所をどこにするかは決まっていません。

処分地の選定に向けた調査は、3段階で行うことになっています。
玄海町が請願で応募を求めている「文献調査」はその第1段階にあたるもので、
研究論文や地質のデータなどから地層の状況を把握する調査です。

具体的には、火山や活断層がどう分布しているかや、経済的に価値がある鉱物資源がないかなどを
2年程度かけて調べます。調査を受け入れた場合は、最大20億円が自治体に交付されます。

全国ではこれまでのところ、北海道の寿都町と神恵内村の2つの町と村で実施されましたが、
ほかに広がりはなく、地元からは北海道以外への調査の拡大を求める声が挙がっていました。

玄海町とは? 

 

佐賀県北西部に位置する玄海町。人口は5100余り。

1975年に九州では初めてとなる玄海原子力発電所の1号機が運転を開始。
その後順次増設され、4号機まで増設されました。
老朽化などにより1,2号機は廃炉となりましたが、現在も3,4号機の2基が稼働しています。

 

原発によって町の財政は安定していて、令和6年度の当初予算では、歳入のうち、
6割近くを原発関連の交付金など関連の収入が占めています。
県内では唯一の、国から普通交付税を受け取らずに財政運営を行う「不交付団体」です。
 
一方で、人口はピークだった平成7年の7700人余りから、およそ3割減少しました。
高齢化率も令和2年の時点で31.6%と、全国平均の28.6%よりも高く推移しています。
人口減少と高齢化は急速に進んでいます。

“処分地選定の調査応募を” 3つの請願とは?

4月、玄海町議会に核のごみの処分地選定に向けた「文献調査」への応募を
町に働きかけるよう求める3つの請願が出されました。

提出したのはいずれも玄海町の「旅館組合」「飲食業組合」それに「防災対策協議会」の3団体です。

 

3つの請願

調査の受け入れを求める理由としては、経済的な要因が挙げられています。

「2基の原子炉が廃炉となり、発電所での作業員が減少したことを受け、
 町内の旅館を利用する作業員の数も減少しており、当組合に属する旅館業者も
 経営的に厳しい現状にある」(旅館組合)

「2020年1月にコロナウイルス感染者が国内確認されてから、
 ウイルスが第5類に移行された昨年5月までの3年を超える長期にわたり
 国内においては感染拡大防止策が徹底されたことにより、
 飲食業が受けた被害は甚大であった」(飲食業組合)

一方で、高レベル放射性廃棄物を出している原発立地自治体の“責務”として、
処分地の選定に関わるべきだという記述もありました。

「高レベル放射性廃棄物の発生原因を有する自治体の責務として、
 文献調査に応募することをもって問題解決に苦労している国に協力すべきと考える」
(旅館組合)

特別委員会で交わされた議論

請願の提出を受けて、町議会は4月25日に原子力対策特別委員会を開き、審議しました。

玄海町議会 原子力対策特別委員会(4月25日)

ここでは文献調査の先にある、最終処分場の受け入れまでを見据えているかについて、
反対する議員が賛成の議員を問いただす場面がありました。

(反対の議員)
「文献調査は最終処分場の選定するための第1段階の調査ですよね。 
 そこに手を上げるということは『最終処分場を玄海町で受け入れてもいいですよ』
 という覚悟を持ってから手を上げるべきではないでしょうか」

(賛成の議員)
「私たちが覚悟を持って処分場を引き受けましょうということは、ひと言も言っていません。
 そうではなくて、文献調査をまず受けるべきではないのかという問題提起です」

「原子力発電所の立地する自治体として、これはどうしても避けて通れない問題です。
 いま、処分場は決まっておらず、どうする事もできない現状じゃないですか。
 まず議論が必要だと私は思っています」

また、住民への説明が十分になされていないのではないかという指摘も出されました。

(反対の議員)
「この請願が提出されたのは本当に唐突に感じております。  
 ほとんど住民はこの『文献調査』の受け入れということについてご存じないと思います。
 こんなに住民にほとんど知られないような状態で、
 住民無視の議会になりかねないということを思っていますけれども、どうお考えですか」

(賛成の議員)
3つの団体からの請願というかたちで、この問題はもう何年も前から議論されています。
 『文献調査』の話が出てきて、町民の皆さんも、より一層関心が強くなったと思っています」

「原子力関係の視察や研修は、昭和55年から行われています。
 多くの町民が茨城県東海村や青森県六ヶ所村、それに海外研修なども含めて行っているので、
 知らないということはありえないです」 

委員会での採決の結果、請願は賛成6人、反対3人の賛成多数で可決されました。

翌日26日の本会議でも、賛成6人・反対3人で請願は採択されました。 

 

玄海町議会 本会議(4月26日)

そして、5月1日には、町議会の採択を受けて、経済産業省の幹部が来町。

「『文献調査』の実施を求める」とする経済産業大臣からの文書を脇山町長に手渡しました。

 

5月1日 国からの申し入れ

町長の判断は?

 

4月26日 本会議の終了後に

「文献調査」を町に働きかけるよう求める請願が採択されたことで、
玄海町の脇山町長に調査を受け入れるかどうかの判断が委ねられることになりました。
判断を示す時期について町長は「大型連休を明けて以降の5月中」としています。

請願が本会議で採択された際に、町長は次のように受け止めを話しています。
 

Q請願の可決については?
A民意が反映されていると思っておりますので、重く受け止めているところです。

Q賛成6人、反対3人という数については?
A賛成派のほうがダブルスコアな部分もありますし、
 そういったところは少し感じているところではございます。

Qこれから町長の判断となるが。
A議員さんも言われておりましたけど、全国的な課題としてですね、
 皆さんが考えるべき問題だと思っております。
 その集約するところが、今回の玄海町議会であったのかなと。
 私も議員を20年近く経験しましたが、これだけ大きく議論や討論をするということは
 ありませんでした。
 全国的な最終処分場の問題として、皆さんが考えてくれればありがたいなと思っております。

Q「文献調査」=「処分場の受け入れではない」という話については?
A調査が3段階に調査が分かれていることは、自治体が置かれている状況も考えた上で、
 分かれている部分もあるのかなっていうのも私も感じています。
 文献調査を受けることで、なし崩し的に最終処分場になると私も考えていません。

Q「原発の立地する自治体の責務」という言葉については?
A資源エネルギー庁の方から説明がありましたが、決して原発の立地自治体の責務ではないと
 言っていました。確かに原子力発電所があるから使用済み燃料が出ます。
 その意味では、私たちは原発の立地していない他の自治体よりも関心を持っております。 
 ただ、これが全て私たちが責任っていうことを考えてはおりません。
 玄海町は自然災害、津波とか地震も比較的全国的にも少ない地域かなと思います。
 私は基本的に、これまでの議会で申してきましたけど、原子力発電所が必要な期間は、
 電気を供給する場面でエネルギー安全保障への協力をしていきたいなと考えていたので、
 私たちはそちらで貢献したい。責務とは私自身も考えておりません。
 日本全体で考えるべきの問題だと考えています。

Q文献調査を受け入れることで議論を喚起するというこの考えについては?
Aそれがどこまでどうなるのか、ちょっとわかりませんけど、
 私も北海道の寿都町と神恵内村が手を挙げてくださったのは本当に敬意を表しますし、
 感謝する気持ちでおりました。こういった形で玄海町で議会の方で議論されたということ、
 そしてまた、私は最終決断しますけれど、そういったところで
 全国的な広がりをみせたらと思います。

議会での採択について「民意が反映されたと重く受け止めている」と話した脇山町長。
一方で、過去に議会の一般質問でこの問題を問われた際には
「文献調査を行うという考えはない」と慎重な発言もしています。

調査を受け入れれば、北海道の2町村に続いて3例目、原発立地自治体では初めてです。
近々、町長の判断という重大な局面を迎えます。

  • 渡邊 結子

    NHK佐賀放送局

    渡邊 結子

    佐賀局を経て2022年より唐津支局。玄海町を担当。

  • 牧 裕美子

    NHK佐賀放送局

    牧 裕美子

    広島局を経て2023年より現所属。佐賀県政取材などを担当。

  • 藤岡 信介

    NHK佐賀放送局

    藤岡 信介

    青森、福井、科学文化部を経て2022年から現所属。

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