ページの本文へ

沖縄の特集記事

  1. NHK沖縄
  2. 沖縄の特集記事
  3. 那覇市の認可外保育施設で乳児死亡 情報公開請求

那覇市の認可外保育施設で乳児死亡 情報公開請求

  • 2023年12月05日

2022年7月30日、那覇市の認可外保育施設「緑のすず乃保育園(現在は廃止)」で一時預かりを利用した3か月の男の赤ちゃんが心肺停止の状態となり、死亡した問題について、NHKが行った情報公開請求で入手した資料からは、施設の安全対策に問題があった可能性がうかがえる。

報告書に記された状況

事故のあと、私たちは那覇市に情報公開請求を行い、当時の園長などが事故の状況について記載した報告書や立ち入り調査に関する書類などを入手した。元園長が記載した事故報告関連の資料によると、市は、乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防のため、定期的に顔色や呼吸の状態、あおむけに寝ているかなど確認し記録するよう求めていたが、施設では亡くなった赤ちゃんを含む一時保育の園児に対して実施していなかったとしている。

元園長の報告

さらに当時の園長が市に提出した「事故状況記録」には、事故当日の対応が時系列で記載されていた。(下記は主な内容・一部誤字は修正しています)

(8:00)母親にだっこされて登園

(8:10)すぐにベッドに入れて、服を脱いでシャワーした。お着替えをする

(8:30)ミルク120cc作りベッドの中で与えてみた。50cc位飲んで舌で押し出した。触診し、身体の温かさを確認すること繰り返した

(9:30)1時間後もウッウッと声を出し続けているためミルクを与えてみる。40cc飲んだ。ベッドの端を背にして横向けにした

(10:30)眠いかもなので、「うつ伏せにしてみて下さい」と○○先生に話し、しばらく2人で様子をみていた。その後、気になり10分後横向けにした。「ウッウッウッ」と声を出していた

(10:50)りくくんの「ウッウッ」の声が聞こえなくなった。気になり見に行った。横向けにしていたが、うつ伏せになっていた。身体に触れるとあたたかい体温を感じた。呼吸の確認はしていない

(11:00すぎ)うつ伏せになっていた

(11:20)横向きになおした(身体全部)

(11:30)オムツ替えした

(11:45)うつ伏せになっていた。顔は横向きだった。ぐっすり寝ていたのでそのままにして寝かせた

(12:10~20)うつ伏せ寝だった。触診して体の温かみを確認した

(12:20)お迎えのため母親が来たので○○先生りくくんところに行った 「体が黒いです、黒くなっている」と大きめの声で繰り返した 2人で(赤ちゃん)を見に行った 抱き上げき上げると、おでこの部分が紫色になっていた 手足 お腹など 肌はあたたかい○○先生がおむつを替えるえるとき「ウンチをしてる」と言ったためシャワーでお尻洗ってくださいと言った おでこの紫色は薄くなってきていたが、目は半分あけている 口も少し開いていた

(12:30)お迎えの時、園長がお母さんに引き渡した お母さんはおどろいた様子で「いつもと違う、りく、りく、りく」と繰り返し叫んだ。「手足、体あたたかく心ぞうの動きもあります」と私が言うと「心ぞうは動いているけど息してない 電話持ってきて」と言った。お母さんはすぐに119番電話をして「待っている間どうしたらいいですか?」と電話口できいていた。心ぞうを押さえたりした

そして元園長は、午前11時から静かに眠っていたという認識があり、顔色の変化に気づくまでの20分から30分ほどは、ほかの園児を職員と寝かしつけていたため赤ちゃんから目を離していたこともあわせて報告している。

また、元園長は、「○○先生が2回オムツを替えたと言った。その時○○先生がうつ伏せにしたのかなと推測した」と記していた。

元職員の報告

一方、当時、施設内にいた元職員が記載した「事故状況記録」によると、午前10時半に見た時が最初だとして、ミルクをしっかり飲んでいる様子が見られないので、状態を変え飲まそうとしたが、飲む様子がなかったとしている。ふだんは赤ちゃんの体勢を変えるとミルクを飲み始めるがその様子がなかったことから、ふつうの赤ちゃんと違うイメージがあったので元園長に声をかけ、元園長と代わったと記されている。

その後、正午前に母親が迎えに来たため赤ちゃんの様子を確認したところ、顔がうっ血していたため驚いて元園長に見てもらったところ、「寝ている状態だから大丈夫」と言われたとしている。最初は職員がシャワーをかけ、続いて元園長が赤ちゃんの体をゆさぶりシャワーをかけたとしている。その後、体温を測ると1回目と2回目は35度0分、3回目は違う体温計に変えて測り34度0分だったと記載されている。

立ち入り調査の指摘事項

事故当日、市による保育施設に緊急の立ち入り調査が行われた。その結果、市は8項目の改善勧告を行った。それについて、元園長が市へ提出した資料も入手した。(下記は主な内容)

1.立ち入り調査日の3:30~10:00までの間、元園長が1人で従事していた時間帯があるなど、1人の配置となったり、計画的な配置ができない状況になったのか?

▽元園長の回答
必要な時間に勤務可能な職員がいませんでした。求人を募集しましたが見つかりませんでした。人件費も不足していたため、園長1人の勤務になりました。保育料の収入で人件費、固定費などの支出が追いつきませんでした

2.保育室面積に対する受け入れ可能人数は19人であるが、立ち入り調査日の21:30~24:00において、一時預かり児童を含めた総乳幼児数が24人の時間帯があった。なぜ有効面積よりも多い人数を受け入れたのか?

▽元園長の回答
週末は一時預かりの希望が多く、完全な予約制にはしていませんでした。連れてきたお子さんを断ることが難しく受け入れしていました

3.SIDSのマニュアルの上に無関係のメモが複数貼られていた

▽元園長の回答
マニュアルに職員がメモを貼っても園長が指導していませんでした

4.なぜベッドに寝かせたままのミルクの与え方になっていたのか。なぜゲップをさせていなかったのか。

▽元園長の回答
ミルクを飲んで眠ることが習慣になっていました。だっこをして1名の職員がひとりの子にかかわる時間が限られていました。ミルクを飲みながら眠る習慣が続き、今まで危険な状況にならなかったので職員全員が続けてしまっていました

5.なぜ園児の異変を確認できなかったのか。

▽元園長の回答
呼吸の確認をしていませんでした。保育経験のない職員と保育することに不安を抱きながら保育しました。乳幼児全体を見ながら落ち着いて保育することができず、気づきも後まわしになってしまいました。幼児の行動も気になり、危険行為には声がけしながら乳児を見ていました。気ぜわしく見る余裕がありませんでした

6.なぜきめ細かな観察を行わなかったのか。また記録も行わなかったのか。さらに、なぜうつ伏せ寝にしたのか。また、あおむけにしなかったのか。

▽元園長の回答
園長1人だけの観察になり、職員は観察をしていませんでした。一時預かりの記録はしない習慣になっていました。うつ伏せにして眠る癖のある子どもをあおむけにすると泣き出したり大泣きする子もいました。そのままうつ伏せにする習慣になっていました。グーグルマップの書き込みに「この園はいつも泣かせっぱなしにしている」と書き込みがあり、泣かさないよう、眠ってくれたりすることを最優先してしまいました

7.最初に異変があると感じたのはいつか。なぜ救急に連絡しなかったのか。また、お迎えの時には体温が低いなど、明らかに異変があることが分かったと思われるが、なぜ園長みずからすぐに救急に電話しなかったのか。なぜ当課に連絡しなかったのか。

▽元園長の回答
お迎えの時、おでこが黒くなっている時、異変を感じました。黒色が薄くなり体に温かみを感じ、様子を見てしまいました。お母さんに見せることを優先してしまいました。市役所に連絡することが思いつきませんでした。抱き上げた時、おでこの半分が薄くなり、体はあたたかく感じていました。職員が「うんちしてます」と言ったので、流れとしておしりを洗いに行きました。表情はありませんでしたが心臓が動いているように感じたので、おしりを洗ったあとベッドで服を着せていました。検温したところ、35.4、35.0、34.0と急激に下がったので驚きました。あわててお母さんに連れていきました。救急車を呼ぶほどのことでない、大丈夫と思いたかった

8.なぜ一時預かり名簿の様式を前回改善報告で提出していたのに、その様式を使用して、適切な把握を行っていなかったのか。また、なぜ月極の児童名簿を正確に記載していなかったのか。

▽元園長の回答
一時預かりについて変化が多く、まれに来る子もいました。職員も受け入れしたあと、名前を聞いてきたり連携が取れていませんでした。月極について、一時預かりの希望になったり月極になったり変動も多く、習慣として正確に記載していませんでした。

専門家は

保育現場の安全対策に詳しい北海道の名寄市立大学の猪熊弘子特命教授は、保育施設や市の対応について、次のように述べた。

「死亡事故が多いのは0歳児で、それを防ぐために絶対にうつぶせにせず、顔色や表情が見える明るいところで寝かせること、それに必ず呼吸チェックし窒息しないように顔に物がかからないようにすることが重要だ。今回の事故は、それらを確実に行っていなかったことが原因につながっているのではないか」

「市が調査に入っても満足にいろいろなことが出来ていないということが分かったわけです。本当にそういうことを直さないところには、業務停止命令を出すこともできる。認可外であっても、そういったことがもしわかっていたのであれば、何か対策は取れたのではないかと思うし、そういう意味でやはり行政の責任は重いと感じている。事故を起こらないように確認作業を行うのは最終的には人なので、保育の現場に携わる人間の責任は大きい」

「那覇市は第三者委員会を立ち上げて、検証を進めるとしているが、関係者の記憶も確かなうちに、なるべく早くやることは責務だ」

取材後記

入手した資料からは、呼吸を確認していなかったことなど、施設側の安全対策が十分ではなかった可能性があることがわかった。なぜ生まれてまもない赤ちゃんの命が失われなければならなかったのか。引き続き関係者への取材を続けていく。

  • 安座間マナ

    NHK沖縄放送局 記者

    安座間マナ

    2019年入局。長野局を経て沖縄局。 ことし8月から玉城知事の番記者。 子育てと仕事の両立に日々奮闘中。沖縄県出身。

  • 河合遼

    NHK沖縄放送局 記者

    河合遼

    2020年入局。沖縄局が初任地。 ことし8月から県政で主に基地問題を担当。 飛行機オタクで趣味はカメラ。

ページトップに戻る