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岡山発 どうなる?芸備線 全国初の再構築協議会

NHK岡山「もぎたて!」リポート
  • 2024年04月03日

岡山県と広島県の山間を結ぶJR芸備線。その存続やバス転換などを話し合う再構築協議会の初会合が3月26日に開かれた。再構築協議会は、地方鉄道の赤字が続くなか公共交通を持続可能な形にしていこうと、法律の改正によって新たにつくられた枠組みで、国が協議会を設ける形で議論が進められる。今回の芸備線が、再構築協議会が設置される全国で初めてのケースとなった。
芸備線が走る地元はどう受け止めているのか?そして、協議会ではどんな話し合いが行われるのか?
(岡山放送局 記者 神谷佳宏 兵藤秀郷)

【全国初の会合】

広島市内のホテルで開かれたJR芸備線の再構築協議会の初会合。国土交通省の出先機関である中国運輸局をはじめ、岡山県や広島県と沿線の自治体、それにJR西日本やバス協会、学識経験者などが参加した。協議会のねらいを、議論の行司役となる中国運輸局長が端的に説明した。

中国運輸局 益田浩局長
利用状況は大変厳しい。鉄道の廃止・存続の前提を置かずに、ファクトとデータに基づき議論を進めていく。ローカル鉄道を抱える全国の自治体からも注目される中、意味のある議論をしていきたい」

【備後庄原駅~備中神代駅 集中的に議論】

協議会の議論の対象は全線となっているが、集中的に議論を行うのは、新見市の備中神代駅と県境をはさんだ広島県庄原市の備後庄原駅を結ぶ68.5キロの「特定区間」だ。とくに利用者が少なく、赤字が深刻な区間となっている。
JR西日本は「廃線」という表現を避けているが、芸備線の現状について「大量輸送という鉄道の特性が発揮できていない」と指摘してきた。初会合でも次のように述べた。

JR西日本広島支社 広岡研二支社長
「人口減少などの環境変化・地域の移動ニーズ・特性などを踏まえ、今よりも地域にとって便利で持続可能性の高い交通体系の実現に向けた議論をしたい

一方、岡山県や新見市らの自治体側は、JRの本音が廃線にあるのではないかと受け止め、存続と利用促進を求める立場を示した。

岡山県・上坊勝則 副知事
引き続きJRが現行通り運行するのがベストだ。地域住民の生活を守ることを第一に考えながら、具体的な方策について幅広く検討しながら議論していきたい」

新見市・野間哲人 副市長
「新見市は鉄道とともに発展してきた。現在も高校生や高齢者にとってなくてはならない移動手段となっている」

広島県・玉井優子 副知事
「移動の利便性の向上や潜在需要の掘り起こしなど、あらゆる取り組みを展開し、芸備線の可能性を最大限追求することが必要だ

庄原市・大原直樹 副市長
「芸備線はまちづくりに欠かせない。日常の利便性向上に加え、交流人口の増加や地域産業の活性化など、ほかの交通モードに代えがたい新たな価値や役割を最大限追求したい

【“本数が少なすぎる”沿線の声】

議論の対象となった芸備線。その沿線の実情はどうなっているのか?あらためて現場を訪れてみた。

集中的な議論が行われる「特定区間」のうち、県内で最も西にある「野馳駅」。木製で小さな駅舎は風情を漂わせている。

待合室にある時刻表を見てみると、朝は5時台と7時台、9時台に上下あわせて4本。
午後は1時台に1本、3時以降も1時間に1本程度しか走っていない。
通勤通学の時間帯には、およそ20人の高校生が新見市中心部にある学校に通うため利用するが、通勤客らしき人の姿はほとんど見られない。

駅から1キロほどのところにある工場を訪ねた。駐車場には自家用車がたくさん並んでいた。工場長に話を聞くと、およそ100人が働いているが、ほとんどが車で通勤し、芸備線を使っているのは1人だけだという。現状のダイヤは利便性が悪く、本数を増やしてほしいと話す。

川上修一 工場長
「近くに駅はあるが、本数が少なくて通勤に適していない。もし本数を増やしてもらえれば、もっと働ける人が増えてくる可能性がある。今後、人手不足が進むので、芸備線を残したうえで本数を増やして利便性をあげてほしい」

野馳駅のすぐ近くには、住宅もある。駅から1分のところに住む矢田谷弥重美さん(61)に話を聞いた。これだけ近くに住んでいるなら、日常生活でも芸備線を使っているのではないかと思ったが、予想は外れた。買い物はマイカーで10分ほど走り、県境を越えた庄原市のスーパーを利用しているという。芸備線を使わない理由は、やはりダイヤの不便さだ

矢田谷さん
「芸備線を使って買い物に行く場合、往復で最低でも何時間もかかってしまう。夕飯の支度に間に合う時間に帰ってこられないので、現実的ではない」

学生時代を除いて、生まれてからずっと野馳駅の近くに住み続けている矢田谷さん。
本数が増えれば、周辺に住んでいる人も利用しやすくなると訴える。

矢田谷さん
車が無い人のために、いま芸備線が走っている区間の交通手段はちゃんと考えてほしい。もしなくなると、困ると言うよりさみしい」

【“公共交通のあり方”探る】

協議会では、地域の事情にあった“公共交通のあり方”を探ることになるが、その上でポイントになるのが、実証事業だ。想定されるのは、「鉄道の増便」「ダイヤ変更」「駅舎や駅前広場の活用」など。利便性を高めることで、実際に利用者が増えるのか検証する
また、鉄道が走る区間をバスに転換した場合の効果を検証するために、並行して走る路線バスの本数を増やしたり、新たなバス路線のルートを作ったりして、バス転換による利用者の増減や生活への影響などを検証することにしている。国はこうした実証事業に年間に最大5,000万円を補助する方針だ。
協議会では、単純に利用者の増減や収支だけでは判断しないともしていて、沿線の住民や利用者の意見を聞く場を設けることも検討されている。
議論の重要なポイントとなるのは、「地域住民の交通の利便性をどう確保するのか」。そして、「将来にわたって持続可能な交通手段はどうあるべきか」全国でも前例がなく、人口減少が背景にあるテーマだけに、議論は一筋縄にはいかないだろう

【じっくりと議論を】

野馳駅がある新見市哲西町で、合併前の最後の町長を務めた深井正さん(87)は「高齢で免許返納するなどして、それまで車を使っていた人が移動に困る事態はこれからもっと増えるだろう。都会でも過疎地でも同じ負担で移動できる環境は “公共”の名のもとに国の責任で守られるべきだ」と指摘する。そして次のように語った。

旧哲西町長 深井正さん
「全国初となる芸備線の再構築協議会の動向は、赤字路線がある全国のほかの地域にも影響を与える。腹を据えてじっくりと議論してもらいたい

協議会の結論となる「再構築方針」は、3年以内をめどにまとめられる見通しだ。

  • 神谷佳宏

    岡山放送局 記者

    神谷佳宏

    2023年入局  県政を担当

  • 兵藤 秀郷

    岡山放送局 記者

    兵藤 秀郷

    2022年から新見支局
     

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