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清水がおじゃまします!ふたりで”日本の宝”受け継ぐ~山熊田

  • 2024年04月18日

    コーナー「清水がおじゃまします!」。 
    地域密着リポーターの清水まどかが、県内のみなさんのもとに直接おじゃまして 
    地域で地道に頑張る人や魅力的な取り組みなどをお伝えします。

    放送した動画はこちら

    今回訪れたのは、山形との県境にある村上市山熊田集落です。
    雪深いこの地域では、古くからの暮らしぶりや伝統が、大切に守られてきました。
    そんな中、後継者がおらず厳しい状況にさらされていた、ある伝統工芸品が、新しく芽吹こうとしています。

    自然とともに生きる山熊田

    ”マタギの里”として知られる山熊田集落。18世帯38人が暮らしています。

    集落を歩いていると、偶然、地元の女性にお会いしました。
    これからお友達に会いに行くと聞いて、思わず「ついていってもいいですか」とお尋ね。
    快くご案内してくださいました。

    向かったのは、集落の伝統を紹介する施設「さんぽく生業の里」です。

    おじゃますると、機織り機がたくさん!

    何を織っているのか、地元の女性に聞いてみると・・・

    織っていたのは「しな布」。地元の山で育つシナノキの皮で作られています。
    古くは平安時代の書物にも記録が残る、伝統的工芸品です。

    機織りの休憩中、手作りの料理をいただくことに。

    地元で採れたわらびなどの山菜やしいたけを煮込んだ、ふるさとの味です。

    しゃきしゃきで、とてもおいしかったです!

    この地域では、春から夏にかけて女性たちは山菜を採りに行き、保存食を作ります。

    雪深い冬の間、女性は機織り、男性は狩猟。古くからの文化が今でも大切に受け継がれています。

    歴史文化に心惹かれて

    そんな伝統文化や山の暮らしに惹かれ、山熊田集落に移り住んだ若者がいます。

    丹羽梢さんです。東京出身の29歳。
    昨年の春、地域おこし協力隊としてやってきました。

    しな布づくりの工房を一緒に運営するのは、師匠の大滝ジュンコさん。

    埼玉出身のジュンコさんも、もともと地域おこし協力隊でした。
    9年前に埼玉から移住し、地元の男性と結婚。しな布の継承に力を注いでいます。

    シナノキから一枚の布が出来上がるまで、丸一年。
    季節に合わせて20以上の工程があります。

    一年に3日ほどしかないというシナノキの皮剥ぎ

    初夏に木からはいだ皮を乾燥させ、煮たり、漬けたり。
    4か月かけて皮を柔らかくし、糸にするまで半年かかります。

    大滝ジュンコさん
    「ものとして見た時、”山そのものが布になった”みたいな。そういうニュアンスを
     持っている布って他にないとびっくりして。ロマンの塊みたいですよね。
     先祖の生きざまが垣間見られる布って、聞いたことないですよね」

    弟子の梢さんも、しな布の魅力に心奪われたといいます。

    もともと東京で藍染め職人をしていた梢さん。

    友人の紹介で出会ったしな布に一目ぼれ。一年前に山熊田に来て、修行を始めました。

    丹羽梢さん
    「ずっと集落で続いてる文化なので、きっととめ子さん(機織り機に書いてある名前)
     だって自分のおばあちゃんの道具とかを使って来たでしょうから。
     そういうリレーみたいなのにまぜてもらえるのがうれしいですね。」

    そんな梢さんが、毎月欠かさず訪れる場所があります。

    地蔵堂です。みんなで念仏を唱え、先祖を供養します。

    お供えものをみんなでわけあって、気兼ねないおしゃべりが始まります。

    丹羽梢さん
    「なかなかこういう文化自体が、そんなに残っていないでしょうし、
     生きた信仰として続いているのが素敵だなと思いますね」

    ふたりで紡ぐ”日本の宝”

    この日、梢さんは大きな節目を迎えていました。

    一年をかけて作ったしな布の完成です。

    この集落で、ひとりでしな布を継承しようと覚悟していたジュンコさん。
    これから梢さんとふたりで、バトンを繋いでいきます。

    大滝ジュンコさん
    「産んだわけでもないけれど新たな家族みたい」

    丹羽梢さん
    「集落自体がみんな家族みたいな感じ。(しな布は)やれる限りずっとやりたいですね。 
     終わらせたくない。好きなものなので。」

    取材する中で印象的だったのが、二人が伝統を続けていかなければと気負っているわけではなく、とにかく楽しんでいることでした。

    梢さんが染めたしな布

    梢さんは藍染めの経験をいかして、しな布を山で採れる自然の染料で染めるなど
    新しいチャレンジもしています。楽しむからこそ続いていくし、その中でも挑戦していくことで
    時代をこえて伝統も紡がれていくんだと感じました。

    おじゃまさせていただいた、山熊田のみなさん、ありがとうございました!


    この放送回が、「清水がおじゃまします!」のコーナーの最終放送回となりました。

    私がなにより一番に感じるのは、突然取材で来たわたしたちを受け入れてお話をしてくださった、
    みなさんの「心のあたたかさ」です。
    そして、取材する中で”誰かに喜んでほしい” ”成長してほしい” ”誰もが活躍できる世の中を作りたい”・・・「人のことを想う」気持ちにあふれているのが、新潟だと感じました。
    わたし自身も、人のつながりを大切にすることでどんどんご縁が繋がっていくことに驚いて、
    「人と人とのつながりの強さ・大切さ」を、新潟のみなさんから学ばせていただきました。
    今後も、出会いを大切に頑張ります!本当にありがとうございました!

    ディレクター(牧陽子)のひとりごと

    提案の〆切まであと2日・・・その夜、
    以前、デパートで革製品を展示即売していた、村上に住む男性との会話をふと思い出した。
    「山熊田に、“しな布”という貴重な織物を織ってる素敵な人たちがいる」

    次の日の朝、急遽、2人で山熊田へ。
    絵に描いたような美しい風景が続いて、その先の先に山熊田集落があったが・・・
    誰もいないー
    軽トラックがブーンと目の前を通り過ぎ、「ちょっと待って下さい」と声をかけ、
    ジュンコさんの事をお聞きして、お会いする事が出来た。
    その2日後、取材&ロケのため再び山熊田へ。
    誰もいないー
    景色を撮影していたら、清水が、遠くにいるおばあさんを発見!すぐにかけよる。
    「ついて行っていいですか」
    部屋の中に入ると、あたたかな薪ストーブの側で、おばあさんたちが楽しそうに談笑していた。
    何より、一瞬で私たちを受け入れてくださったことに、懐の大きさを感じた。

    ジュンコさんと丹羽さんは、笑顔が素敵で仲が良く、
    日々の暮らしと、しな布を使った作品作りを楽しむ気持ちがジンジン伝わってきた。
    お二人を撮影できる、1日だけのロケの日・・・
    梢さんが、1年かけて作り続けたしな布が、たまたま完成!
    村全体を撮影する場所を探していると、ジュンコさんが、「学校の上がいいかも」と。
    そこは、廃校―
    役場の人に鍵を開けて頂いて、恐る恐る廃校の中へ・・・
    最高のものを作るために、見えないところでどれだけ真心を込めるか―
    番組も、しな布も似てると思った。
    「ムダと思えることが、宝になることもある」というジュンコさんの言葉も心に残っている。

    バタバタだったけれど、私たちらしくのびのび働く事ができ、幸せでかけがえのない一年。
    信頼できる清水まどかとだったから、どんな壁も扉と思って開く事ができたんだと思う。
    支えてくれたみなさん、本当にありがとうございました。

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