能登半島地震から3か月 土地勘ない観光客の津波避難は 新潟
- 2024年04月10日
ことし1月の能登半島地震で、新潟県では沿岸部に津波警報が出され、発生から10分程度で津波が押し寄せた場所もありました。こうしたなか沿岸部にある観光地では、訪れた人が避難場所がわからず、その場にとどまったり、高台に向けて車で避難しようとして渋滞が起きたりしました。土地勘のない観光客をどのように避難させるのか、課題となっています。
(新潟局 記者 野尻陽菜・阪本周悠)
放送の動画はこちら
地震当時 寺泊の魚市場では混乱も
長岡市・寺泊地区。鮮魚店が並ぶ「魚の市場通り」で知られ、観光客でにぎわいます。ことし1月に能登半島地震が発生した時も、多くの人が訪れていました。
市場通りの店舗の販売員
結構お客さんが多かったので、皆さん一斉に、車の方に向かって逃げていく方と、案内して高台の方に一緒に行く方といましたね
この地区で温泉施設や鮮魚店を営み、地区の宿泊業組合の組合長も務める難波圭介さんです。
地震の当日、経営する温泉施設には県の内外から100人以上の客が訪れていました。施設の位置は海から5メートル。津波警報を受け、難波さんは施設の中にいた客を20メートルの高さにある、4階の展望デッキに避難させました。
寺泊地区宿泊業組合 難波圭介 組合長
展望デッキが建物で一番高い場所です。車で逃げる人で多分渋滞が起こるだろうなと思ったので、できるだけ館内の一番高いところに避難してもらうようにお願いはしたんですけど、中にはすぐに出たいという方もいらっしゃった。
今回の地震で、避難経路の周知や寺泊の地形独特の問題など課題が浮き彫りになりました。
市場通りから避難する場合、およそ600メートル離れた山の上にある小学校などが避難場所となっています。
市場通りの裏は家が密集し、路地が入り組んでいて、初めて来た人が避難場所に向かう階段を見つけるのは難しくなっています。また、階段を見つけたとしても急なものが多く、高齢者などの移動には多くの時間がかかります。
難波さんは今回の経験も踏まえ、避難のあり方について、市と協力してマニュアルの整備や訓練など、
備えを強化したいと考えています。
寺泊地区宿泊業組合 難波圭介 組合長
徒歩で高台まで避難してもらうのがいいのか、車に乗って避難してもらうのがいいのか、われわれでは分かりかねるところがありましたので、その辺はちょっと整然とできたとは言い難い。観光客の皆さんで成り立っているようなまちですから、いざ有事があってもできるだけスムーズに避難できる態勢を各店舗が取らなきゃいけないと思っております。
対策乗り出す場所も 上越市直江津港
今回の地震を受け、対策に乗り出した場所もあります。上越市にある直江津港第3東防波堤です。釣れる魚の種類が豊富で大物も期待できるため、3月から10月までのシーズン中、1万人を超える釣り人が県の内外から訪れます。
釣り場の近くでは今回の地震で最大5メートル80センチの高さまで津波が到達しました。こうしたことから釣り場を管理するNPO法人や港湾事務所、それに市は、3月から避難対策を強化しました。
そのひとつが、防波堤の地面や壁に避難場所までの距離を200メートル間隔で表示したことです。
防波堤の先端からだと1次避難所の管理棟までおよそ700メートル。2次避難所である海抜10メートルの保安林まではおよそ2キロあります。距離を表示することで、避難場所からどのくらいの位置で釣りをしているのかを釣り人に知ってもらうことがねらいです。
標識は手書きですが、4月中にもピクトグラムを使ったわかりやすい標識に置き換える予定です。
また釣り場の受付でも津波への注意喚起を呼びかける取り組みを始めました。防波堤周辺の浸水域が示された市の津波ハザードマップを新たに設置したほか、受付用紙の記入台にスピーカーを設置し、人が近くを通ると津波避難の際の注意事項などが流れるようにしました。
釣り場を管理するNPO法人は、訪れた人には今回の取り組みなどで津波の避難経路などを認識してもらい、安全に釣りを楽しんでほしいとしています。
専門家「対策さらに徹底を」
津波からの避難行動に詳しい長岡技術科学大学の犬飼直之准教授はこうした対策がさらに進んでいく必要があると警鐘を鳴らしています。
長岡技術科学大学 犬飼直之 准教授
新潟県内でも主要な避難場所や避難経路などを示した看板が立ってはいるんですが、非常に目立つ大きな標識で避難場所・経路を示すような看板の数はまだ少ないイメージを受けます。地元の人ではない方たちをいかに速やかに安全に避難させるかというような工夫を、これからもっと徹底することが必要です。
また犬飼准教授は実際の避難にあたっては観光客を誘導する地域の人の協力が欠かせないと考えています。
長岡技術科学大学 犬飼直之 准教授
例えば海の家や海水浴に関わる方たちなど、まずはそういった方々が避難場所・経路をよく熟知しているというのが重要です。もし地震津波が発生した場合には安全に海水浴客たちを避難させることを意識していただきたい。
津波はいつ押し寄せるかわかりません。犬飼准教授は特に日本海側について、震源が陸に近いことから津波の到達が早い傾向があるとして、観光客の避難も含めて、日頃から備えを進めてほしいと話していました。