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新潟県中越地震から19年 地域社会の維持へ 山古志の挑戦

地域の課題解決へデジタル技術を活用
  • 2023年10月23日

 

新潟県中越地震の発生から10月23日で19年となりました。大きな被害を受けた長岡市山古志地区では震災当時、2167人だった人口は今では759人とおよそ3分の1にまで減っています。将来にわたり地域社会を維持できるかが大きな課題になる中、山古志地区でいまデジタル技術を活用した新たな試みが進められています。(新潟放送局 記者 豊田光司)

復興のシンボル「牛の角突き」

角を突き合わせる牛たち

牛と牛が激しくぶつかりあう「牛の角突き」。地域の娯楽として根づき、その始まりは1000年以上前とも言われています。大きいものでは体重が1トンを超える牛たち。勢子(せこ)と呼ばれる人たちによって牛が傷つかないように引き分けにするのがならわしです。

地震発生直後の山古志村

19年前の新潟県中越地震では、この牛の角突きが存続の危機に立たされました。山古志地区では土砂崩れが発生して地域の牛舎も倒壊。牛の半数以上が犠牲になり大きな被害を受けました。

仮設の闘牛場で角突きは復活した

それでも地域に愛されている伝統を守りたいと、およそ半年後には避難先の長岡市内に仮設の闘牛場が作られました。震災を乗り越え開催された牛の角突きは復興のシンボルになったのです。

 

山古志闘牛会 松井富栄 会長

闘牛会の会長、松井富栄さんです。人口減少や高齢化に歯止めがかからず、牛のえさ代などを負担するオーナーは地震の前の半数ほどにまで減少。さらに世界的な飼料価格の高騰もあって先行きが再び懸念されています。

松井富栄 会長
存続に向けては19年、20年前といまは環境も大きく変わっているので同じような形でやるのは難しい。どう伝えていくかがこれからの大きな課題の1つになる。先人たちが残してくれた志は守っていきたい。

地域の維持へ デジタル技術活用

 

地域が衰退するなかで「牛の角突き」を支えようと動き出した人たちがいます。
東京に住む金光碧さんです。

金光碧さん
あまりにもおもしろいのでファンクラブを作って活動しようと。

今月8日、山古志の会場を訪れ、勢子にインタビューをして牛のことを詳しく聞きました。

右が金光さん、左が勢子の松田淳さん

金光さん)文平さん(牛の名前)が、心優しい牛だと言っていましたが
勢子・松田淳さん)優しくて、角突きがまじめなんですよ

この活動は山古志で進められているデジタル技術を活用したある試みをきっかけに行われています。 おととし、地元の住民団体が始めた「デジタル村民」のプロジェクトです。住民団体が発行している、山古志の特産ニシキゴイが描かれたデジタルアートを購入すると「デジタル村民」になることができます。

▼村民はSNSのチャットで地域を活性化させるためのアイデアを出し合います。

▼アイデアを採用するかどうかは、村民と住民の有志による話し合いや投票で決めます。

▼採用されたアイデアは、デジタルアートを販売して得た活動資金で実行に移します。

メタバース上につくられた仮想・山古志村

この仕組みで実現したアイデアの1つが山古志を再現した仮想空間です。去年は中越地震の追悼式典の様子を中継し、デジタル村民は自分の分身であるアバターとして参加しました。さらに地元の人と交流するイベントも企画。実際に山古志を訪れるようになっています。

デジタル村民は日本にとどまらず世界に広がり、いまでは山古志の人口の倍の1600人余りにまで増えました。過去にデジタル村民と交流した、ある地元の男性は。

山古志に住む星野光夫さん

星野光夫さん
頼もしくてありがたい。毎日同じ人としか会わず、そんなに違った会話や話題がない。話すだけでもいいので山古志の人と触れあってもらいたい。

オフィスで働く金光さん

金光さんもデジタル村民の1人です。東京に拠点を置き、暗号資産(仮想通貨)を扱う会社に勤めています。デジタルアートに興味があったことからプロジェクトの存在を知り、地域活性化のアイデアを出し合うユニークな仕組みにひかれて、去年デジタル村民になりました。

金光碧さん
デジタル村民の取り組みは、地域を盛り上げる試みとしておもしろいと思った。

実際に山古志を訪れ、その景色や文化に魅了された金光さん。ほかの村民と協力して始めたのが牛の角突きを支援するファンクラブの取り組みでした。メンバーから募ったお金を闘牛会に寄付。

さらにいま、得意とするデジタル技術をいかして牛の角突きの魅力を伝えるウェブサイトを制作しています。金光さんらメンバーが現地で取材した写真やエピソードを掲載。実際に山古志に足を運んでもらうきっかけを作り、支援の輪を広げたいと考えています。

金光碧さん
デジタル村民がデジタルの知識や技術を持っている部分もあると思うので、それをすばらしい伝統文化に掛け合わせていくと、すごくいいものができるんじゃないかなと思います。

地震からの復興のシンボルとなった伝統行事を支えるデジタル村民。新たな地域活性化のモデルとして、期待されています。

松井富栄 会長
山古志の人や地域外の人、デジタル村民の隔たりをなくして、みんなが楽しめるものを一緒に作っていければというのが、いちばんの思いです。いろんな人の意見を聞きながら、楽しめる角突きを残していければ山古志の未来は明るくなるかな。

金光さんたちが作ったウェブサイトは10月21日に公開されました。牛の角突きのファンクラブではいま16人のデジタル村民が活動していますが、今後は一般の人との連携も検討しているということです。人口減少に直面する地域では、コミュニティーを維持する上で実際に現地で活動する人が多く必要になります。深く地域に関わる人を増やしていけるかが問われる中、山古志のデジタル技術を活用した取り組みが、今後、どれだけの広がりや効果を見せるのか、ほかの自治体からも注目されています。

  • 豊田光司

    新潟放送局 記者

    豊田光司

    2017年入局。大阪局を経て2020年から新潟局に。スポーツや文化などを担当。ことしの夏まで長岡支局にいてデジタル村民の試みも当初から取材してきました。地域の課題解決の糸口になるか注目しています。

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