「詐欺かも…。でも、子どものためなら」親心につけ込む手口
- 2023年02月24日
特殊詐欺の被害があとをたちません。
実際に被害にあった女性が、そのときの心情や犯人とのやりとりを話してくれました。
実は当時、「詐欺かも」と思ったと言いますが、なぜ被害にあってしまったのでしょうか。
(新潟放送局記者・高尾果林)
深刻化する特殊詐欺の被害
2022年、県内で確認された特殊詐欺の被害は194件。
被害額は5億2459万円にのぼり、前年度の2倍以上になっています。
被害が深刻化する中、県警察本部が詐欺の被害者に対して行った意識調査によると。
被害者の半数以上が手口を知っていたにもかかわらず被害にあっていたことが分かりました。
また、電話をうけとった際、ほかの人に相談しなかった理由としては、
●本物の家族からの連絡だと思ったから
●早くなんとかしようと焦っていたから
という回答が多くなっていました。
被害にあった人は・・・
実際に詐欺の被害にあった方が取材に応じてくれました。2022年10月、オレオレ詐欺で現金90万円をだましとられた70代の女性です。
ある日突然、息子の本名を名乗る男から、
「駅でカバンをなくして、駅員に盗難届を出した。見つかったら母さんに電話がいくかもしれない」
という電話がきたといいます。
いつもの息子の声とは違っていたけど、「息子が慌てているからだろう」と思いました。
続いて、駅員を名乗る男から「カバンが見つかりました」と電話があり、女性はひと安心しましたが、そのあと再び息子を名乗る男から、
「カバンはあったけど通帳がなく、きょう中に仕事でお金を払わなければいけないのに、お金を下ろせない。一時的に用立ててほしい」
とお金を要求する電話がきました。
「詐欺かな」と思ったんです。それでも、息子が本当に困ってるなら、親としてはできる限りのことをしてやりたいと思いました。親って子どものためなら何でもできてしまう。
女性は、自分の葬儀費用としてためていた定期預金をすぐに引き出しに行きました。
そして、家の外でお金を渡す相手を待っていると、近所の友人が偶然通りかかったといいます。
女性から話を聞いた友人は、「それ詐欺だよ、お金渡しちゃだめだよ」と注意しました。
しかし、女性は・・・
もしかしたらそうかもしれないなって思ったけど、子どもの困ってる顔を思い出すと、やっぱりお金を渡そうと思ったんです。「親ができるなら できることみんなしてやりたい」って。
そして、90万円を渡してしまいました。
今まで、講習を受けに行ったりして詐欺について勉強していたから、「自分は絶対にひっかからない」と思ってたんですね。
でも、子どものことになると、それが全部すっ飛んじゃって、この行動に走りました。
悔しくて、自分で自分を責めます。愚かな親でした。
被害を防ぐには
子を思う親心につけ込む特殊詐欺。
その手口について、社会心理学の専門家は。
恐怖と不安と焦りの中でパニックを起こさせ、言うことを聞かせる。冷静さを失えば、簡単に心を支配されてしまう。詐欺師の言うことに従ってしまうのは、人間として自然な反応なんです。
碓井教授は、心理学の世界では、人間は皆「認知的節約家」であり、相手から言われたことを逐一疑うことはほとんどしないと指摘します。
だからこそ、相手の話を信じてしまうのは自然なことだと言います。
「こんなひどいことがあって…」と言われたら、誰でもパニックに陥ってしまう。子どものことならなおさら、冷静でいられなくなる。詐欺師はそこを突いてきます。
では、どうすれば被害を防ぐことができるのか。
人間として自然な反応に逆らおうとしているからとても難しいことですが、どこかでブレーキをかけることができるかどうかです。
例えばお金の話。お金の話が出たら「ちょっと待てよ」って。
詐欺だとは気付けなくても、「ちょっと待てよ」と考えられれば、そのあとの行動にブレーキをかけることができます。
電話でお金の話が出たら注意が必要です。また、以下のような対策もあります。
●固定電話を常に留守番電話に設定しておき、詐欺の電話に出ないための対策をとる
●「この会話は録音されます」といったアナウンスが流れる「防犯機能付き電話」を使う
●家族間で合言葉を決めておく
私たちは「認知的節約家」であり、人の話を逐一疑うことはしないという傾向がある。そして、大切な人が困っているならば一刻も早く助けてあげたいー。こうした心の動きや心情につけ込む特殊詐欺は、決して「ひと事」ではないと、取材を通じて感じました。みなさんも、特殊詐欺を「わが事」ととらえていただき、事前に対策をお願いいたします。