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地震は怖い、水も足りない。でも…

  • 2024年02月27日

能登半島地震のあと自分の備えに不安を感じた人も多いと思います。
しかし地震から1か月以上が経過した名古屋では「水が必要だけどもうちょっと、もうちょっと…で備蓄を先延ばし中」とか「家を補強したいが、今日・明日すぐには無理」などという”マチコエ”が聞かれました。
人はなぜ備えられないのか”を心理学の専門家と一緒に考えてみることにしました。
(名古屋放送局・鈴木博子)

うちの水、絶対足りない。

記者の家の備蓄

名古屋市内で幼い娘と暮らしている私の家の備蓄です。

2Lのペットボトルに入った水が2本と、何が入っているのかがよくわからない非常用持ち出し袋。持ち出し袋は、引っ越しの段ボールに入ったままで、探し出すのにも時間がかかりました。

能登半島地震の被災地では今でも断水が長引いていますが、発生直後の「飲む水が足りない」「トイレの衛生環境が悪い」という話が気になっていました。

防災の専門家に取材していると、水は1日2~3リットルを最低でも3日分、できれば1週間分が必要と言われ、家の備蓄を思い返したのです。

「うちの水、絶対足りない」。

不安になった私は、週に2~3回ほど立ち寄るスーパーで水を購入しようと考えました。

しかし、スーパーに入ると、他にも牛乳やジュース、バナナ、ヨーグルト、缶ビール…といった日用品だけで重くなる袋を想像して「今回はいいや」と買うことをやめてしまう日々。

ネット通販も検討しましたが、「水は品薄で届くのは来月らしい」という情報を聞いたことで「届くまでに時間がかかるなら受け取るのも面倒だし、届いたらスペースを確保しないといけないし」と言い訳を重ね、そのまま行動に移していませんでした。

同じ気持ちの人、ほかにもいるのでは?

大きな災害があると「事前の備えが必要だ」というのは誰しもが感じることだと思います。

しかし、その気持ちを持っていながら行動に移していない自分がいるのも事実です。

そこで、ほかの人たちはどうなのだろう?と気になった私は”マチコエ”を調査することにしました。2月上旬、名古屋市中心部の広場で50人に話を聞きました。

能登半島地震を受けて、一番不安に思うことはどんなことですか?

水が多いのではないかと予想していましたが、最も多かったのは家族という結果に。次いで水、トイレ、食料…と続きました。

【能登半島地震を受けて、一番不安に思うこと】

▼家族…15人▼水…11人▼トイレ…9人▼食料…4人▼家屋…3人▼仕事…2人▼避難経路…1人
▼避難場所…1人▼通信・連絡手段…1人▼すべて…1人。

続いて、その不安を解消するために地震の後、行動に移したかを尋ねました。
すると…。

50代女性

行動に移していないです。なにからしていいのかわからないのと、頭のどこかで地震は来ないかなと思っていたり。

60代男性

こういう大きな地震がくる度に蓄えないとと思うけど、もうちょっと、もうちょっと後回しでいいかと。

多くの人が「行動していない」と答えました。理由を分析すると、このような結果に。

調査に協力していただいた方々になんとも言えない親近感を覚えた私は、不安を感じながらも、行動に移せないのはなぜなのかを専門家と一緒に真剣に考えてみることにしました。

なぜ、備えられないのでしょうか…

災害の話となると、いつもは”防災”の専門家を訪ねますが、今回は”心理学”の専門家に話を聞いてみることにしました。

取材を快く受けてくれたのは、関西福祉科学大学心理学部の尾崎拓講師です。

鈴木

不安に感じていても、なぜ備えられないのでしょうか?

尾崎さん

なぜに直接答えるのは難しいんですけど、「やっぱりなあ」という感覚です。災害が怖いと思っていても防災をやらないことが学術的に問題だというのはここ10年くらい言われ続けているんです。
でも街頭調査の結果を見る限り、総じて合理的に考えて「やらない」を選択しているのかなと思います。

合理的?

「災害が怖い」以外にも、ほかのいろいろな要素を自分にとって都合のいいように解釈して、「やらない」ことを自分で選択しているということです。

尾崎さんの説明を元に作成

尾崎さんによると、「怖い」以外のいろいろな要素というのは大きく3つになるのではないかということです。

お金や時間、手間がかかるといったコスト
「自分は大丈夫だろう」などという「正常性バイアス」と呼ばれる人の心の性質

この2つは「怖い」と思う気持ちから備えるか・備えないかの「行動」に移る際にマイナスに働きます。

「みんなが防災しているから自分もやろう」という社会のムード

本来であれば「行動」に対してプラスに働くはずの社会のムードは、現状は高い状況ではなく「周りの人がやっているかわからないから、やらないでいいだろう」と、マイナスの方向に働いているのではないかといいます。

この3つの要素は人によって影響の度合いが変わるということですが、都合良く要素を解釈して、自分にとって一番いい選択肢として「行動しない」を選択しているのではないかということです。

災害が起きてつらい思いをするかもしれないけれども、手持ちのお金や時間を全部自分の楽しみに使った方が合理的だというのもそのとおり。明らかに無駄なことはしないということですね。

自分で考えた結果「備えない」を選択していることはわかりました。でも、備えている人もいる。この差はなんですか?

記者の質問に悩む尾崎さん

たとえば子どもがいるとか、防災に使えるお金があるとか社会的、経済的ステータスも個人で異なってくる。また心の個人差も大きいと思います。いわゆる”意識の高さ”と思ってもらえればいいのですが、例えば防災に関心があると情報に接触するようになって、より関心が高まり備えの行動に移すというふうになる。そもそもなぜ情報に接触しようと思うかというと意識が高いから…という感じで堂々巡りになってしまうんですよね。行動に移すか移さないかの差を突き詰めていくと意識の高さになるんですよ。

行動する人としない人の違いは意識の高さかもしれないという答えに妙に納得した私は、次は「どうしたら」備えの行動に移せるのかを考えてみることにしました。

ヒントは社会のムード?「無理」をすること?

尾崎さんは、社会のムードを変えることが防災の行動に結びつける近道ではないかと考えているそうです。

みんながやっていることは確かに行動に結びつくんです。新型コロナの時の手洗いもみんながやっていることを見て自分もやらなきゃって気持ちになった。

でも一方で「みんなやっている」という情報はマイナスの面もあるといいます。

防災をあまり大事ではないと思っている人に対して「みんなが防災をやっている」という情報は、裏を返せば「やっているのは全員ではないでしょ、やっていない人もいるでしょ」と受け取られかねないのだそうです。

これまで尾崎さんをはじめいろいろな研究者が挑んできたテーマ。なかなか単純に解決とはいかないことが改めてわかりました。でも、ここでいそいそと帰るわけにはいきません…。

今、まさに行動に移したいと思っているものの、行動に移せていない人(つまり私)に向けて考え方のヒントをもらえないでしょうか。

記者の質問にさらに悩む尾崎さん

合理的に「やらない」ことを選択している状況を変えるには一定の無理が必要だろうなと思います。自分の持つ時間やお金をどう配分するのかは自分で100%正しい判断ができるとは思わずに、ほかの人に判断を任せてみるのはどうでしょうか。

ほかの人に任せてみる?

『自分ごとにしましょう』ってよく言われますが、日々の生活で災害以外に考えなくてはいけないことはたくさんあるので「そんなことできれば考えたくないよね」っていうのがベースとしてあってもいいような気がします。
その上で、楽しく防災という取り組みも効果があげられていますし、ある程度社会のムードに流されて行動するとか、防災グッズの契約を最初にしておけば自動的に防災用品が送られてくるというような感じで、自分が防災するぞ・決断するぞって思わないで済むような仕組みを利用してみる、自分だけでしょっておかないことも大事なんだと思います。

自分ひとりだけで考えなくていいー。

少し肩の荷が下りた気がしました。手間がかかることを言い訳に水を買わないのもなんだかもったいない気がしてきて、その後注文して無事家に届きました。

また、話にでてきた「楽しく防災」。自分一人では思いつかなかったので、さっそくほかの人の力を借りてみようと、防災の専門家に取り組みの例を聞いてみました。

防災が専門 三重大学・川口淳教授

川口さんは毎週金曜日を冷蔵庫の余りものを料理して、足りなければ災害用の食品も使う日にしているそうです。そして使った分をスーパーですぐに買い足す、というのを生活リズムに組み込んでいるということです。

災害用の食品はカンパンやアルファ米などを思い浮かべる人が多いと思いますが、それだけで食べると飽きてしまうこともあるので、インターネットで災害用の商品を料理に使うレシピを調べてみるのも手だと教えてくれました。

もしよければ、”人任せ”にしてみてください

「備え」と聞くと水や食料といった備蓄を思い浮かべがちですが、家は大丈夫か、いざという時家族や大切な人と連絡はとれるのか…など命に関わることを考えたり、話し合ったり、情報を確認するという備えも大切です。

一から調べると時間がかかるので、NHKのサイトからヒントになる情報を集めてみました。

▼水・食料に不安を感じる方へ
▼トイレに不安を感じる方へ
▼連絡手段に不安を感じる方へ…というように、不安に感じる項目ごとに解決策の一例をまとめてみました。よかったら参考にしてみてください。

 

マチコエの投稿フォームも引き続き、疑問を募集しています。

  • 鈴木博子

    名古屋放送局 記者

    鈴木博子

    名古屋局で遊軍を担当。
    「備えを!」と言うことは簡単ですが、行動まで結びつけるためにはメディアの伝え方も考えなければと感じています。

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