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能登半島地震 避難している人に簡易住宅を

  • 2024年01月18日

住宅の倒壊が相次いだ能登半島地震。避難所で生活を続けている人たちに「家みたいに休める場所をつくりたい」と現地に簡易住宅を提供し続ける大学教授と、「少しでも貢献したい」という協力者たちを取材した。
(名古屋放送局・鈴木博子)

「『おうちができた』と2歳の女の子が言ったんです」。

地震の発生から2日後、多くの避難者が避難する石川県輪島市の輪島中学校に名古屋工業大学大学院で建築設計や防災工学を教える北川啓介教授が10棟の段ボール製の簡易住宅(=インスタントハウス)を持ち込んだ。

当時、避難所では電気が通っておらず、物資も不足。北川教授が見る限りでは、毛布なども足りておらす、避難者が生活する体育館に使えるものとしてはパイプイスぐらいしか見当たらなかったという。

提供:北川啓介教授 
北川教授

段ボールが持ち込まれた様子を見て、避難所にいる人たちははじめた生活の空間にパーティションができると思っていたようです。でも、少しずつ家の形になっていくと拍手が起きて、一瞬だけ避難所が明るくなった。

北川教授の周りには、避難所の子どもが集まって一緒に”家づくり”を手伝った。早ければ15分で完成する簡易住宅を前に、家をなくし避難しているという2歳の女の子が「おうちができた」と母親に言ったのを聞いたという。北川教授は体育館の外にでて「思わず泣いてしまった」と話していた。

子どもたちと一緒に(提供:北川啓介教授)

多くの人が生活する体育館を中心に着替えや授乳など、プライバシーを保ちながら休める場所として使われている。

被災地に送るインスタントハウスの開発

北川教授がインスタントハウスの開発に取り組むきっかけになったのは、2011年の東日本大震災の後に石巻市の避難所となっている中学校を訪れた時だ。

「避難している小学生に『仮設住宅が建つのになんで3か月から半年もかかるの?大学の先生なら来週建ててよ』と言われました。でも、なにもできなかった。そこから安くで丈夫で快適で早く届けられる住宅を作ろうと思い研究を始めました」

これまでトルコでの大地震の際などにも現地に入って、被災した人たちに簡易住宅を届けたりと、家がない人への支援を続けてきた。

今回、能登半島の現地に届けたのは去年12月に完成したばかりの段ボール製のインスタントハウス。

輪島市の体育館内に並んだインスタントハウス(提供:北川啓介教授)

壁と屋根になるパーツをそれぞれ組み合わせて、最大で大人4人が入れるよう自由自在に組み合わせることができるものだ。組み立ては15分でできる。

名古屋で揺れを感じた時に、これは遠くで大きな地震が起きているなと。ニュースでも住宅の倒壊した様子が目に入ってきて、とにかくすぐに現地にいって支援しなければと感じました。即断即決でした。

そして、発災から2日後に大学で保管していた10棟のインスタントハウスを自身で持ちこんだ。

とにかく大量に必要

ただ、避難所には多くの避難者がいて設置できた10棟では全く足りないと感じたという。
もっと量産できないか。県内の段ボール製造会社に依頼することになった。

受注を受けたのは、この2人。別々の製造会社に勤務している。

左:「共伸紙工」丹羽隆太社長 右:「ヒラダン」牧野錦二営業部次長

牧野さんは1月5日の夕方に北川教授から大量に生産できないか、相談を受けた。段ボールは大きなシートを型でくりぬいて製品にしていくが、牧野さんの会社には、ハウスの壁となる一番大きなパーツをくりぬける設備がない。

そこで、ふだんから取り引きのある丹羽さんの会社にその日のうちに依頼、生産できる体制を整えた。

北川教授は再度現地に向けて段ボールを積んで運ぶトラックを手配。名古屋市の運送会社が無料で運んでくれることになった。

丹羽さんの会社に型抜き前のシートや型が運び込まれたのは1月11日の朝。そこからほかの注文よりも優先して急ピッチで製作を進め、翌日12日の昼頃には110棟分のパーツが完成、梱包も完了した。

この機器で製造を行った

そして、午後3時には輪島市に向けて段ボールのパーツが積み込まれたトラックが出発していった。

輪島市に向けて出発するトラック
牧野さん

これだけの大きなことが起きて、自分でも何かしたいのに、何をしたらいいのかわからなかった。北川教授からこの話が来た時は仕事を通じて貢献できることが幸運だと思った。きっと同じ話が別の会社にいっていても断る会社はいないと思います。

丹羽さん

型から抜くことしかできないが、話が来た時は言われたことはなんでもやりたいと思って引き受けた。ふだん梱包に使われたりして、あまり注目されない段ボールだが断熱性や通気性にも優れていて丈夫、被災地では支援の「主役」になれる。少しでも役にたてたら。

どこまでも支援を

12日に愛知を出発した段ボール製のインスタントハウスは無事に現地に届いた。

北川教授は「おうちができた」と話していた女の子にも、輪島中学校の避難所で再会した。少しでも楽しい時間をつくれればと一緒に遊んだという。

少しずつ現地でつながりの輪ができていく中で、北川教授の支援は避難所にとっても欠かせないものになっている。

今もおよそ100棟単位でインスタントハウスを現地に送り、自身も名古屋から避難所に通っている。輪島中学校では避難しているおよそ500人(17日現在)にそれぞれ世帯ごとに家のようなスペースを提供する計画だ。

 

また、ウレタン製の断熱材を吹き付けて建てる屋外用のインスタントハウスも準備している。避難所では衛生環境が十分ではなく、歯を磨いたり顔を洗ったりする洗面スペースを男女別に設けたいとの現地の医療チームからの要請を受け、来週にも資材が届き次第完成させたいと話す。

北川教授の元には、ひっきりなしに輪島市に限らず被災した自治体の関係者から連絡が入る。珠洲市、能登町などにも今後段ボール製と屋外用のインスタントハウスをニーズにあわせながら届ける予定だ。

 

すでに設置された屋外用のインスタントハウス(提供:北川啓介教授)

生産や輸送に必要な資金は、名古屋工業大学が設置した寄付を募る基金でまかなわれているが、今集まっている金額では、すでに届いている分と今後届く予定の段ボール製のインスタントハウスあわせて550棟分しかまかなえない。現地からのニーズは高く、今わかっているだけでもおよそ2000棟分のニーズがある。

寄付は名古屋工業大学で募っている

今は避難所で”おうちのように休める場所”として重宝されているというインスタントハウスだが、掲示板として使われたり、人が集うようになったりとコミュニティの場所としても機能しはじめているという。

北川教授は息の長い支援を続けていくつもりだ。

何度も現地で支援をする中で、避難している人たちとのつながりができた。もう他人ではなく、現地にいる1人だと思っています。これから仮設住宅の建設がはじまって避難所から生活の拠点が移る段階になっても自分の得意分野で貢献したいし、どこまでも支援をし続けていくつもりです。

  • 鈴木博子

    名古屋放送局 記者

    鈴木博子

    名古屋局で遊軍を担当。
    現地に行けなくても、私も仕事を通じてできることをやろうと思っています。

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