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ウクライナからの避難者が手がけた絵本

  • 2024年02月27日

ロシアのウクライナ侵攻から2年。
この冬、ウクライナと日本をつなぐ1冊の絵本が出版されました。
絵本に込めた制作者の思いを取材しました。
                              名古屋局・記者 佐々木萌

「シロちゃんとりんご」

この冬、出版された1冊の絵本「シロちゃんとりんご」。留守番中の犬・シロが、大好きなりんごをめぐって起こした騒動が、やさしい色合いの絵とともに描かれています。

絵を描いたのはウクライナ人女性

絵を担当したのが、2022年3月、ウクライナのイルピンから、1人で愛知県へ避難してきたコロトコヴァ・エリザベータさん(24)です。

ウクライナでは、ウェブデザイナーをしていたエリザベータさん。日本でも、そのスキルを生かして生計を立てようと考えていました。
しかし、なかなか仕事が見つからず、新型コロナワクチンの接種会場のスタッフなどをしながら、日本語学校に通っていました。
 

そんなエリザベータさんを報道で知ったのが、元教員の今飯田洋子さんでした。
少しでも力になりたいと、絵本を自費出版し、売り上げの一部をウクライナの支援に寄付することを考えたといいます。そこで、自分が書いた物語に絵つけてくれないかと、エリザベータさんに声をかけました。

今飯田洋子さん

「もし、自分の子どもが遠いところへ行ったときに、ちょっとでいいから手を差し伸べてもらえたらという思いがありました。母親ではないですが、私にできることが少しでもあればと思って」

エリザベータさん

「すごくうれしかったです。できるかなってすごく心配しましたが、頑張るしかないと思いました」

何度も修正を重ね・・・

最初は、勉強中の日本語でのやりとりが難しかったといいます。

エリザベータさん

「最初、日本語がしゃべれなくて。本当に絵本を作りたいんだけど、どうやって作っていけばいいか、話し合ってもわからなかったです」

そこで、今飯田さんが、画像を切り貼りしてつくった冊子をもとに意思疎通を図りながらイメージを共有しました。
例えば、シロがりんごを追いかけて、部屋中をぐちゃぐちゃにしてしまう、クライマックスの場面。
ものが散らかるイメージがつかず、何度も何度も修正を重ねながら仕上げたといいます。

今飯田洋子さん

「犬の表情も何パターンか描いてもらって、くすっと笑えるように、2人で相談してすごく何回も直しましたね」

エリザベータさん

「もう本当に話がすれ違いました。どういうスタイルなら、読んでくれるみなさんが喜ぶか、何度もチャレンジしました」

ウクライナの子どもたちにも読んでもらおうと、みずからウクライナ語に翻訳したエリザベータさん。
ウクライナ語にない日本特有の擬音語を、どう表現するかも苦労したといいます。

エリザベータさん

「ウクライナ語にはない『ごろごろ』とか『がちゃがちゃ』というような音があって、自分の中でどうやって翻訳したらいいのかなって思って、自分で調べて、日本語を学んでわかったら、頭の中でイメージを作ってイラストを描き始めました」

絵本の中にちりばめた母国への思い

今も戦禍の中にあるウクライナ。
2年近く会えていない家族を思いながら描いたといいます。

エリザベータさんの家族

物語の舞台はウクライナではありませんが、「少しでもウクライナを考えるきっかけにしてほしい」。
そうした思いを込めて表現した絵もあります。

窓際の鉢植えは、ウクライナの国旗の色で描かれています。

エリザベータさん

「みなさんは、ウクライナの戦争のことしか知らないので、いちばん簡単な情報を覚えてほしい」

青色のらんの花にも、特別な思いがあります。

エリザベータさん

「お母さんがいちばん好きな花ですので、すごく思い出に残っています。ちょっと家族の思いも引き継いで」

絵本は書店や小中学校にも

日本語学校やウクライナに関する活動の合間に作業を続け、およそ1年かけて絵本は完成しました。

絵本は、書店の店主も太鼓判を押す仕上がりに。
店主の紹介で、今では市内の13の小中学校などにも置かれています。

春日井市の
書店店主

「子どもたちが読んで、楽しい気持ちになれることはすごい大事ですし、読みたいなと思えることが大事です。この本はまさにそういう本ですので、本が出たことを市内の先生たちにお伝えして、少しずつ広めていっています」

絵本を持って市役所へ

2月上旬、もっと多くの人に絵本を読んでもらおうと、春日井市役所を訪ねた2人。
市長に、絵本を市内の図書館や小児科などに置いてもらえないかと要望しました。

春日井市長へ直接要望
エリザベータさん

「できれば、多くの方に読んでもらいたいので、春日井市内で置いてもらえばいいと思っています」

春日井市 
石黒直樹市長

「日本語でも、ウクライナのことばでも書いてあるので、日本のことばで日本の子どもたちに見てもらえるのと、ウクライナに興味を持ってもらえる。平和の大切さを感じてくれるのではないかと思いました。春日井の子どもたちに見てもらえるように、置かせていただきます」

小学生に読み聞かせ

2月19日、今飯田さんと一緒に、春日井市内の小学校を訪れたエリザベータさん。
今飯田さんの日本語での朗読と交互に、ウクライナ語で読み聞かせをしました。

子どもたちに感想や質問をたずねると、次々に手があがりました。

「シロちゃんの無邪気な姿がかわいいと思った」

「ウクライナの人と一緒に絵本を描くとこういう本ができると知って、すごいと思いました」

絵本を通じてウクライナに興味を持った子どもたちからは、こんな質問も。

「これからウクライナはどうなってほしいですか?」

エリザベータさん

「戦争が終わって、もっと発展していけばいいなと思っています」

ウクライナのこと、忘れないで

絵本を通じて子どもたちに届けた笑顔。
笑顔とともに、日本で暮らす私たちへ伝えたいメッセージがあります。

コロトコヴァ・エリザベータさん
「日本に避難しているウクライナの子どもたちもいて、できれば、みんなに読んでもらえば、みんなうれしくなると思っています。一番大切なのは、ウクライナのことを忘れないでほしい、ということです」

エリザベータさんは、ウクライナにも絵本を届けたいと話していました。
わたしもこの絵本を通じて、ウクライナのことや平和について、考え続けていきたいと思います。

エリザベータさんと今飯田さんのつくった絵本は、「空とぶロバ出版」の販売サイトのほか、春日井市と瀬戸市、名古屋市内にある3つの書店で購入できます。

絵本の売り上げの一部は、ウクライナ支援のために寄付する予定だということです。

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